「敵はエンジンではなく炭素」マツダの戦い方をサーキットに見る。新HVO(軽油代替燃料)投入の舞台裏

今、自動車業界は100年に一度の変革期とか、自動車産業のパラダイムシフトが起きているなど、大きな転換期を迎えているが、エンジンで使用する燃料にも大きな変化が起きている。とくに欧州では年産500万トン以上の新たな代替燃料が作られ、すでに市販もされている燃料があるのだ。マツダは軽油の代替燃料HVOをサーキットで試している。どんな取り組みか。
TEXT:高橋アキラ

そのひとつとして、マツダは新たに軽油の代替燃料となるHVOを使用してスーパー耐久レースに参戦していることを発表した。このHVO燃料は石油を一切使っていない合成燃料のひとつで、欧州ではすでに普及期に入っている燃料だ。その燃料を使いレースという過酷な条件で使用し、ディーゼルエンジンの適合を確認するという狙いでマツダは使用を開始した。

マツダの取り組み

スーパー耐久のST-Qクラスに参戦中のマツダ3

マツダは2021年最終戦からスーパー耐久レースに参戦し、自動車メーカーの開発車両が参戦できるST-Qクラスに出場している。参戦当初はデミオの1.5Lディーゼルエンジンを使用し、ユーグレナ社と協力しバイオ燃料を使用していた。これは藻類から作るカーボンニュートラル(CN)燃料として使用し2022年の最終戦まで参戦した。

そして2023年からはユーグレナ社が輸入し販売しているHVO燃料「サステオHVO100」に切り替え、参戦を継続。こちらは車両をマツダ3に変更し、エンジンも2.2Lディーゼルに換装して参戦している。そして2023年9月のスーバー耐久第5戦もてぎ5時間耐久レースからは伊藤忠エネクス社が輸入するネステ(NESTE)社製のHVO燃料に変更することを発表した。*HVO100の100は100%の意味で軽油とのブレンドではない

同じHVO100燃料でありながらサステオからネステ社製に変更した理由は、幅広く市場で販売されているHVO燃料を使って実証実験し、価格やCO₂の低減率を紹介することが目的だと説明している。そしてゴールはHVOの市販車対応を目指すという取り組みであると。

HVOとは

ではHVOとは何か。水素化処理した植物由来のオイルで、Hydrotreated Vegetable Oilの略で主に廃棄される食用油を使って水素処理したオイルだ。

HVOの成分については主にイソパラフィンが93%を占め、軽油にも含まれている炭化水素と同じもので配分が異なっているものだ。だから軽油の代替として有望というわけだ。その軽油の成分はイソパラフィン、ナフテン、アロマがそれぞれ25%ずつ含まれている構成になっている。

合成燃料にはさまざまな種類がありグローバルで開発が進み、実用化も進んでいる。ガソリン、軽油ともに石油由来の燃料を使う日本としては、こうした取り組みに後れをとっていると言ってもいいだろう。その理由に、主に税収があると言われ、財務省の腰が重いと憶測されているわけだ。

世界の燃料事情

さて、グローバルでの燃料事情を見ると、カナダやスペイン、サウジアラビアを中心にしたガソリンの合成燃料開発は行なっているものの、市場に普及するにはまだ時間がかかる状況だ。またサトウキビやとうもろこしから作るエタノールをガソリンと混合して使う、いわゆるバイオエタノールE10とかE20などのブレンド燃料はすでにブラジル、コロンビアなど南米、インド、タイ、フランスで実用化されている。

そして軽油の代替燃料であるHVOは北米、欧州では普及期に入っている。欧州では年産520万トン、北米では540万トン、中国でも34万トンのHVOが生産されており、今回マツダが導入するネステ社のHVOは40%のシェアを持つ大手燃料メーカーなのだ。

そして価格だが、マツダ調べとして欧州では軽油に対してユーロ/Lで15~25セント高いという。ドイツでは軽油の€1.75に対して€1.90、イギリスも€1.70に対して€1.95、オランは€1.60に対して€1.74という価格だという。またCO₂の低減率ではつくる、はこぶ、つかうという場面すべてのカテゴリーで軽油に対して93.7%削減というデータが「国際持続可能炭素認証」というISCC(International Sustainability & Carbon Certification)の認証値としている。

カーボンニュートラルの考え方

もともとディーゼルはガソリンと比較してCO₂排出は少ないという特徴があり、フォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件がなければ、現在の主流になっていたかもしれず、BEV化の速度はここまで加速しなかったのではないかとも言える。また、HVOでは他のPMやNOxにおいても軽油と比較し低減するデータがあり、環境負荷低減には有効であるわけだ。

マツダはカーボンニュートラルに対して、「敵は炭素」というより、今あるCO₂を増やさないという考え方を持ち、地中や海底から資源を掘り起こさず、大気中にあるCO₂を回収することでCO₂の循環をさせることでCNを実現していく考えだ。もちろん電動化も進め、自然エネルギーで発電した電気でEVを使うのが将来の主流になるとも考えているのだ。

その未来のための途中にはCN燃料があり、従来の原油採掘をやめ、CN燃料であれば原油埋蔵の場所に縛られることなく、地政学的、経済学的な観点で事業の展開が進められるとしているのだ。つまり世界中のいろいろな地域で、さまざまな製法によってCN燃料が作られ普及していくと考えている。

今後の課題

もちろん、そうしたロードマップになれば、現在の需要から供給までをつなぐサプライチェーンが必要で需給一体のサプライチェーンが必要になる。マツダはそうした普及のロードマップを見据え、広島県のある中国経済連合会に参加し、安定的なサプライチェーンの構築に力を入れていることも発表している。

マツダは世界での普及期を見据え、まずはレースというフィールドで実証実験をし、HVOが軽油の代替燃料となることを証明し、市販車にも問題なく使用できることを広く世間に知ってもらうことを目指している。

日本政府が燃料に対する施策はガソリン価格の高騰に対する補助金という形でしか見えてこないが、税収入を含めた根幹の見直しが必要となる次世代燃料は世界で普及が始まっている現実があり、国内でもこうした取り組みは必要になるのではないだろうか。

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著者プロフィール

高橋 アキラ 近影

高橋 アキラ

チューニング雑誌OPTION編集部出身。現在はラジオパーソナリティ、ジャーナリスト。FMヨコハマ『ザ・モー…