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ショーファーカーを必要とするオーナー=リーダーたちの変化
まさに「鳴り物入り」での登場、とはこういうことを言うのかもしれない。と思わせる登場ぶりだった。期待どおりというのではなく、常識的に考えて期待の斜め上をいっていた。本当にドラの音がどこかから聞こえるほどの圧倒感とともに、これが新しく追加されたセンチュリーなのか! と驚嘆を抱かずにはいられなかった。しかもこのモデルはSUVではないと明言され、このスタイルはセダンの先にある必然の結果であったというのだ。
威風堂々とした造形は、面の張り、エッジの構成や精度、断面と連なる面、キャラクターラインとの構成の妙によって醸し出されている。
「開発にあたり豊田会長(当時社長)からは、センチュリーの新しい価値を与えてくれという示唆があったのです」と、デザイン部長の園田達也氏は話してくれた。
ショーファーカー(運転手つき車)を利用するオーナーは多様化しており、スペースを求める向きにはミニバン発祥のアルファード/ヴェルファイアなどが好まれる傾向もある。
そのなかで、センチュリーの新しい価値とはどのようなものなのか?
重要なキーとなるのは、前述したユーザーの多様化だ。それは単に室内の広さを好むオーナーが増えてきたというだけではなく、より深い根の部分でオーナー自体にさまざまな価値観を持った人たちが現れている、ということ。これまでの「いわゆる昭和の社長」のイメージではなく、新進気鋭のITデザイナーからCEOへ、あるいはアーティストからの起業……などという以上に、現代の世の中には「小説よりも奇なるサクセスストーリー」は山のようにある。
それら現代のショーファー(運転手)を必要とする新たなリーダー=オーナーは、どっしりと後席に座るだけではなく随時PCを稼働させては新たなアイデアを即座にまとめ上げたり、移動する社内でオンライン会議に臨むような、時間や場所を気にしていられない型にはならない存在であったりもする。その反面では、週末にはそのクルマを自ら運転し、家族とも過ごすというスタイルも。そんな、アクティブでアグレッシブなセンチュリー・・という考えかたもひとつにはある。
主役はあくまでもオーナー
その一方で、センチュリーの代々もつ、オーナー中心の考え方も進化させる。
発表会では、取締役・執行役員デザイン領域統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏によるプレゼンテーションが行なわれたが、その最後には左右から2台の新しいセンチュリーが登場。向かって左側のクルマからは男性が、右側のクルマはGRMN仕様となったが、そのリヤドアはなんと参考出品のスライドドア仕様となっており、そちらからは女性が登場した。
注目なのはそのふたりの降りかたで、まるでスポットライトの当たるステージに登場するかのような威風堂々とした所作が印象的だった。
SUVではないと主張する意味がまさにここにあり、首や腰を曲げた前屈みで降りるのではなく、腰をすっと伸ばした姿勢で登場できるのがこの新しいセンチュリーのパッケージだ。もちろんこれは、乗り降りのしやすさも意味する。
センチュリーのオーナーにとって、クルマは快適であること、スタイリッシュであることもマストな条件なのだが、自分を主役にしてくれることも重要だ。この思いは、初代センチュリーから常に受け継がれてきたもの。こうした点は、継承されるだけでなく大きな進化をもさせている。
もっとも重要なのは後席乗員=オーナーのための空間の確保。座った時だけでなく、乗り降りする時の快適性もポイント。ドア開口部の高さから、乗降時の把手の位置、シートの座面高は乗降しやすさとともに座った時のフロアとの高さも重要だ。
これまでのセダンプロポーションでは、ソファーのような安心できる高さは提供できるが、乗降に楽かというと「どっこいしょ」と力を込めて立ち上がるスタイルとなる。一般的なセダンの全高もせいぜい高くても1500〜1600mm程度と身長に対して低く、降り姿は頭をかがめながら立ち上がる姿勢は決して美しいものではない。これまではセダンなら当たり前、と疑わなかったことなのだが改めて考えてみると、オーナーオリエンテッドとするにはセダンスタイルには限界があったのかもしれない。逆に大型ミニバンであれば、地面に降りていく感じになるので常に下を向いての下車ということになり、これもムービーや写真に収められるには美しさに欠ける場合もある。当然、乗降性もベストではない。
デザインにおけるマストのパッケージ構成は、まずここから。この基本を満たしながら、センチュリーの造形づくりが進められた。
ここでプロポーション上の疑問があるはず。なぜ3ボックスではないのか? ということだ。ここは、ベストの後席空間とベストの乗降性といった狙いが鍵になりそうだ。3ボックスとしないことで、全長を抑えながらリヤシートを後方にずらし、乗降時の頭上空間も拡大しやすい・・という点にある。これはトヨタのジャパンタクシーのプロポーションの考え方と同じだ。
ちなみに後席の乗降性を意識したコンセプトカーとして、メルセデスが2018年にヴィジョン・メルセデス-マイバッハ アルティメット ラグジュアリーというショーファードリブンにも向く3ボックスセダンスタイルのモデルを発表したことがあった。こちらはSUVのように背の高いモデルでありながら、3ボックススタイルを堅持したモデルだった。しかし、後席の広さや乗降性はむしろ3ボックスのスタイルが故にゆとりを規制してしまったと言わざるを得ないことは、いまになって新しいセンチュリーと見比べることでわかったことだ。
3ボックスの最大のメリットは、荷室をキャビンと分割することで快適な居住空間を得ることなのだが、新しいセンチュリーは2ボックススタイルでありながらも、荷室との間をウインドウで完全に区切るパーテーションパネルを持つことで、荷室とは完全に別の空間としている。
初代から通じるセンチュリーへの想い
もう一度エクステリアを見てみよう。初代より連綿と継承されているのは、リヤシートから生まれるスタイルだ。フロントピラーとリヤピラーの延長線は、リヤシートの直上で交わる。これがセンチュリーの代々のプロポーションの作り方で、この新しいモデルもその流儀を守っている。
また、歴代センチュリーにとって常に継承されているモチーフに「杼(ひ)」というものがあるのはご存知だろうか。これは布を織る織機(しょっき)の横糸(緯糸)を通すための道具で、縦糸(経糸)を互い違いに上下に分けた間に杼に導かれた横糸を通して布を織り込んでいくもの。この杼の形をサイドのキャラクターで表現している。織機はトヨタ自動車の起源である豊田自動織機にゆかりのあるもので、創業者豊田佐吉の思いが、センチュリーというモデルにいまもなお息づいていることを示した表現でもあるのだ。さらに、この新型ではフロントヤリやのライト周りの造形にも、その杼の存在を感じ取ることができる。
センチュリーの「継承と進化」には語りきれないほどのストーリーがあるというのだが、その話には過去と未来をつなぐ日本のトヨタならではの伝統と、新たなものづくりに対する趣向が凝らされていると感じるものばかりだ。
ロールス-ロイス、ベントレー、アルファード、クラウン、メルセデス-マイバッハ、アウディA8、BMW 7シリーズなどなど、次々と往来する帝国ホテルの車寄せに、この新しいセンチュリーが登場する日も近い。そこでこのセンチュリーがどんな見え方をするのか、少し控えめで、それでも堂々たる佇まいの脇役ぶりに期待したい。