【モデル末期は“買い”か“待ち”か?】次期型スズキ・スイフトスポーツはHV化の可能性大?この安さで楽しめるのはこれが最後のチャンス!?

スズキ・スイフトスポーツ
スズキ・スイフトスポーツ
近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されているモデル末期の車種が、いま“買い”か“待ち”かを検証する当企画。今回はスズキのBセグメントホットハッチ「スイフトスポーツ」の6速MT車に、ワインディングと高速道路、市街地を中心として総計約300km試乗した。

REPORT&PHOTO●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)

純内燃機関で生き残ったライトウエイトスポーツの価値ある一台。細かな欠点の多くはチューニングで解決できる

スズキ・スイフトスポーツ
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この四代目スイフトスポーツがデビューしたのは、ちょうど6年前の2017年9月。ベース車とともに実施された2020年5月のマイナーチェンジ……これが現時点で最後の一部改良となっているが、そこからもすでに3年以上の月日が流れている。

その間に、新型コロナウイルスの世界的流行をはじめとして、世界中の様相は大きく変わった。クルマの世界も、「CASE」(=Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング)、Electric(電動化))と呼ばれる先進技術、なかでも自動運転と電動化の技術が急速に進化・普及していった。

だがスイフトスポーツは、そうした世間の荒波にもまったく呑まれることなく、いささかも揺らぐことなく、今日まで生き残ってきた。いやむしろ、その価値はますます高まったとさえ言えるだろう。そんなスイフトスポーツに試乗するのは、マイナーチェンジ直後の2020年7月以来約3年ぶりだが、走り始めた直後に思わず出た第一声は「こんなにしっかりしていたっけ?」だった。

なおテスト車両は、特別塗装色のバーニングレッドパールメタリック ブラック2トーンルーフ(6万6000円)、全方位モニター用カメラパッケージ(5万2800円)、パナソニック製スタンダードプラス8インチナビ(17万1105円)など計30万6350円分のオプションを装着し、車両本体価格202万8400円と合わせて240万6250円の仕様となっていた。

スズキ・スイフトスポーツ
スズキ・スイフトスポーツ(FF・6MT) 車両価格:202万8400円

専用のセミバケットシートは身体をしっかりホールドしてくれるが…

赤のアクセントが随所に入った運転席まわり。Aピラーの傾斜は弱く車両感覚が掴みやすい
赤のアクセントが随所に入った運転席まわり。Aピラーの傾斜は弱く車両感覚が掴みやすい

スイフトスポーツ専用のセミバケットシートは背もたれ・座面・サイドサポートともクッションが硬く、またヒップポイントの落とし込みも深いため、車両の前後左右Gに対し身体をしっかりホールドしてくれる。
前回試乗した際は、クッションが柔らかいうえに弾力がなく、しかもファブリックのシート生地がツルツルと滑りやすいように感じられたのだが、今回はまるで正反対の印象だ。

なお、前回試乗した車両の総走行距離は約2300km、今回は約4300kmと、今回の方がむしろ走り込まれている。試乗した季節もコースもほぼ同じため、個体差だろうかと思いきや……その答えはしばらく乗り続けているうちに見えてきた。体温でシートが一定以上暖まると、クッションの硬さが急激に失われていくのである。

フルモデルチェンジの際は、最低でもクッションを一新するか、2代目(XC31S型)のようにレカロシートを設定してほしいと願わずにはいられない。

シートのクッションは、街乗り主体のモデルであっても、表層の当たりが柔らかく、ある程度沈み込んだらしっかり反発し、身体にフィットしホールドするのが理想的。スポーツ走行に特化するなら徹頭徹尾硬く、身体を一切動かさない方が好ましいのだが、このスイフトスポーツのセミバケットシートはどちらの観点から見ても嬉しくない特性の持ち主。

なお、後席の基本設計はベース車と共通で、クッションは前席より柔らかめ。背もたれ・座面とも小ぶりなうえ、形状も平板なため、これでスポーツ走行されたらひとたまりもないだろうと想像できる。だが、身長174cmの筆者でも膝回りは約15cm、頭上は辛うじて天井につかない程度の余裕があるため、近隣へのドライブ程度であれば問題なく過ごせそうだ。

6:4分割可倒式リヤシートの左側を倒した状態のラゲッジルーム。奥行き×幅×高さは60~135×101×86.5cmで、倒した後席背もたれとフロアとの間には15.5cmの段差が生じる(いずれも筆者実測)
6:4分割可倒式リヤシートの左側を倒した状態のラゲッジルーム。奥行き×幅×高さは60~135×101×86.5cmで、倒した後席背もたれとフロアとの間には15.5cmの段差が生じる(いずれも筆者実測)

荷室の容量は5名乗車時で265Lと、日常の買い物程度であれば充分だが、決して広くはない。また後席を倒しても背もたれの傾斜は強く、フロアとの段差も大きい。サーキット走行などで工具やスペアタイヤ、油脂類などを満載するならば、ディーラーオプションのラゲッジアンダートレー(2万5960円)を装着し、この段差を埋めた方が、使い勝手は良くなるだろう。

ボディの四隅が掴みやすく、視界は広々と良好

いざ走り始めようと、6速MTのシフトレバーを1速に入れると、その長いストロークと柔らかな手応えに「なぜアルトワークスのようにクイックかつソリッドな味付けにしてくれなかったのか」と、思わず恨み節がこぼれてしまう。

ともあれ踏力が軽めのクラッチをつないで走り出すと、ボディの四隅が掴みやすいうえ、視界は広く、窮屈さも感じないことに気づく。これはAピラーの傾斜が弱いうえ、ボンネットの左右前端が運転席から辛うじて見え、またリヤフェンダーの膨らみもドアミラーから視認しやすいことによるもの。

6速MTのギヤ比は1速:3.615、2速:2.047、3速:1.518、4速:1.156、5速:0.918、6速:0.794、後退:3.481、最終減速比:3.944
6速MTのギヤ比は1速:3.615、2速:2.047、3速:1.518、4速:1.156、5速:0.918、6速:0.794、後退:3.481、最終減速比:3.944

また、195/45R17 81Wという太めのタイヤを装着しながら、最小回転半径が5.1mに留められていることも、とりわけ狭い町中を走行する際に絶大な安心感をもたらしてくれた。

195/45R17 81Wのコンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5を装着。最小回転半径は5.1m
195/45R17 81Wのコンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5を装着。最小回転半径は5.1m

そして、現行モデルより採用されたK14C型1.4L直列4気筒直噴ターボエンジンは、エスクード用よりも絶対的な性能とレスポンスを重視したセッティングながら、低回転域からトルクが厚く、街乗りはもちろん高速道路でもいたって快適。2000rpmシフトでも充分に流れに乗れる。

140ps&230Nmを発するK14C型エンジンと6速MTを搭載するエンジンルーム
140ps&230Nmを発するK14C型エンジンと6速MTを搭載するエンジンルーム
K14Cのエンジンヘッドカバーは天面も含めてポリウレタンフォームの一体成形品
K14Cのエンジンヘッドカバーは天面も含めてポリウレタンフォームの一体成形品

ただし、そのエンジンサウンドや排気音はロードノイズに打ち消されがち。シフトチェンジのタイミングを掴みやすくするうえでも、純粋に音を楽しむうえでも、エンジンサウンドがもう少し室内に入るようにした方が、むしろ良いのではないだろうか。

裏を返せばそれだけロードノイズは大きいということだが、スポーツカーとして考えれば充分に許容範囲。また低速域の乗り心地も基本的には硬めで、リヤが若干跳ねるものの、その収束は早く、左右方向の揺れも少ないため、決して不快には感じられなかった。

【スズキ・スイフトスポーツ】全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm ホイールベース:2450mm トレッド前/後:1510/1515mm 最低地上高:120mm 最小回転半径:5.1m
【スズキ・スイフトスポーツ】全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm ホイールベース:2450mm トレッド前/後:1510/1515mm 最低地上高:120mm 最小回転半径:5.1m
【スズキ・スイフトスポーツ】全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm ホイールベース:2450mm トレッド前/後:1510/1515mm 最低地上高:120mm 最小回転半径:5.1m
【スズキ・スイフトスポーツ】全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm ホイールベース:2450mm トレッド前/後:1510/1515mm 最低地上高:120mm 最小回転半径:5.1m

ステアリングの反応が良く、クルマとの一体感は非常に高い

では、ワインディングでの走りはどうか。ここでは970kgという車重の軽さ、全長3.9m弱のコンパクトなボディが、水を得た魚のように活きてくるのを、全身で味わえる。

コーナーでは進入時のステアリング切り始めのみならず、その後の切り増し、そして立ち上がりで徐々に直進状態へ戻していく際も、レスポンス良くリニアに反応してくれる。加減速に対しても同様で、入力直後もその後の収束も素早いため、クルマとの一体感は非常に高い。

急斜面の狭いタイトコーナーが続く芦ノ湖スカイライン周辺でも、どこかへ飛び出してしまうのではないかという恐怖感を抱くことなく、安心して走りを楽しむことができた。

モンロー製ダンパーを採用したフロントのストラット式サスペンションはロアアームを拡大し、ハブベアリングユニットの剛性をアップ
モンロー製ダンパーを採用したフロントのストラット式サスペンションはロアアームを拡大し、ハブベアリングユニットの剛性をアップ

速度域の高い箱根ターンパイク周辺に入ると、直進性がやや怪しくなるものの、不安を覚えるほどではなく、充分に制御可能なレベル。下り坂の高速コーナーではオーバーステアの予兆を若干見せるものの、こちらも唐突さは感じられない。サーキットであれば存分に振り回すことができるだろう。

ただし、LSDがオプションでも用意されていないため、タイトコーナーの立ち上がりではトラクション不足に悩まされがち。またエンジンのパワー・トルクとタイヤのグリップは高い一方、それらに対しブレーキは容量・制動力とも役不足。この辺りもそろそろ抜本的な対策を講じてもらいたいものだ。

リヤのトーションビーム式サスペンションはトレーリングアームが専用形状となっている。ダンパーはフロントと同じくモンロー製
リヤのトーションビーム式サスペンションはトレーリングアームが専用形状となっている。ダンパーはフロントと同じくモンロー製

最後に、ADAS(先進運転支援システム)についても軽く触れておきたい。
現行スイフトスポーツにはデビュー当初より、6速AT車のみならず6速MT車にも「セーフティパッケージ」や「全方位モニター用カメラパッケージ」が設定されている。しかも、6速AT車と異なり全車速追従機能は備わらないものの、ACC(アダプティブクルーズコントロール)が6速MT車にも用意されている。

さらに2020年5月のマイナーチェンジでは、「セーフティパッケージ」が「スズキセーフティサポート」となり、「リヤパーキングセンサー」用ソナーを追加するなど、機能を充実のうえ標準装備化された。

これらを改めて試してみると、ACCがやや車間距離を多く取りがちな点以外は申し分ないものの、「これでレーントレースアシストが実装されれば、高速道路での長距離長時間ドライブがより一層快適になるのに……」とないものねだりをしたくなるあたり、最新モデルとの差を感じずにはいられない。

2020年5月のマイナーチェンジで追加された「リヤパーキングセンサー」用ソナー
2020年5月のマイナーチェンジで追加された「リヤパーキングセンサー」用ソナー

純ガソリンエンジン車ゆえの圧倒的な安さ&軽さは“買い”だ!

スズキ・スイフトスポーツ
スズキ・スイフトスポーツ

そろそろ結論に入ろう。モデル末期のスズキ・スイフトスポーツは、ズバリ“買い”だ。
これまで長所も短所も詳らかに述べてきたが、ADAS関連を除く短所の多くは、アフターマーケットに星の数ほど存在するチューニングパーツを装着することで解決できる。

そして現行スイフトスポーツは、なんと言っても安い。メーカーオプションの「全方位モニター用カメラパッケージ」を装着しても、6速MT車で208万1200円、6速AT車で215万2700円(なしの場合は202万8400円/209万9900円)という、今となっては破格のバーゲンプライスだ。

だがこの圧倒的な安さが、フルモデルチェンジ後も完全に維持されるとは考えにくい。昨今の物価高は言うに及ばず、欧州仕様にはすでに搭載されているK14D+48Vマイルドハイブリッドが日本仕様にも適用される可能性が高いからだ。

さらに言えば、このマイルドハイブリッド化に伴い、6速MT車で970kg、6速AT車で990kgという、1t未満の車重も維持できなると予想される。となれば、自動車重量税の区分が、現在の1t以下から1.5t以下へとランクアップされるため、長く乗るほど維持費への影響も大きくなる。

そして、スポーツ走行やチューニングを本気で楽しみたいクルマ好きにとって、電動化技術は邪魔以外の何者でもないだろう。純内燃機関車ならではの音や鼓動を純粋に楽しみたいというマニアにとっても、現行モデルが最後のチャンスとなるかもしれないのだ。

次期スイフトおよびスイフトスポーツ誕生の噂は、これまでも何度となく上がっては消えたものの、早ければ2023年末、遅くとも2024年内というのが、現時点では有力な説。現行モデルの新規生産分受注が終了するのは、当然ながらそれよりも数ヵ月早いため、本気で欲しいなら今すぐディーラーに駆け込むべきだろう。

■スズキ・スイフトスポーツ(FF)
全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:970kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1371cc
最高出力:103kW(140ps)/5500rpm
最大トルク:230Nm/2500-3500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/45R17 81W
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:17.6km/L
市街地モード燃費:13.8km/L
郊外モード燃費:18.8km/L
高速道路モード燃費:19.2km/L
車両価格:202万8400円

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…