やはり壊れた。ネオクラ車に乗るなら購入と同時に「エアコン」「パワステ」「AT」が壊れてもいいように対処できる心構えと予算が必要だ。これは取材を通じて何度も感じたことで、事実1980年代や90年代のクルマに乗るオーナーの多くが三大トラブルを経験していた。我がジャガーXK8は1997年式なので、26年落ちの立派なネオクラシックカー。いずれかが壊れるのは時間の問題だと覚悟していたが、前回の記事で紹介したようにまずパワステが壊れた。といってもポンプからのオイル漏れが原因だったため、ポンプ本体と高圧ホースの交換で事なきを得ている。
次に壊れるのはエアコンかATかと予想しつつ、相も変わらず取材のアシとして各地へ走り回っている。それまでも時々エアコンの効きが悪くなることはあったが、しばらくすると回復していたので楽観視していた。ところがある日、都内の取材を終え気温が体温近くまで上昇するなか帰路に着くと、エアコンの効きが悪くなってきた。都内のノロノロした流れのせいだと楽観、その後に使う高速道路を走れば解消するだろうと考えていた。ところが、高速道路に乗っても効きが回復することはなく、次第に温風が出てくるようになってしまった。もはや限界と左右のウインドーを全開にして走ることになった。
ところが帰宅直前に寄ったコンビニから再出発すると、なぜかエアコンが効く。どうやらエアコン本来の故障ではないようだ。とはいえ自分では判断することが難しいため、またもJ-Gear Labを訪問することになった。なにやら毎月、長澤さんと対面しているような状態だが、こうした時に限ってエアコンがまるで生き返ったかのように快調。アイドリングのまま放置しても冷風が出続けているのだ。
症状が出ないことには診断のしようもない。ひとまずエアコンの配管から圧力を測定しつつ、エアコンガスを若干補充してみる。エアコントラブルの診断として、XK8の場合エンジンルーム左前にあるコンプレッサークラッチの作動音を聞き分ける。クラッチが作動すると軽い音とともに冷風の回路が開く構造。またコンプレッサークラッチが作動する条件として、ラジエターに2機ある電動ファンが正常に機能していることが挙げられる。さらにエアコン回路に使われているリレーも疑わしいため、予備のリレーと交換してみる。これらを観察しつつも、この日は何事も起きなかったため仕方なく帰路につくこととした。
帰路の半分を過ぎた頃、やはりエアコンの効きが悪くなってきた。肝心な時に症状が出ないのは「ネオクラあるある」である。そこで長澤さんから聞いていたエアコントラブルの診断方法を試してみる。まず前述のコンプレッサークラッチの作動音だが、先ほど工場で聞こえた音がまるで発生しない。ただ電動ファンは正常に働いているし、水温計も中間あたりで安定している。そこで次にエアコンパネルを操作して温度をHiまで上げて暖房モードにする。しばらくしてから今度は温度をLowまで下げてクーラーになるか試す。これを何度か繰り返してもエアコンは回復しない。またも諦めて窓を開けて走行することに。しばらくしてからエアコンスイッチを入れると、今度はエアコンが生き返った。もはや堂々巡りである。
この時期のジャガーのエアコンには通常のエアミックスタイプではない方法が採用されている。エアミックスタイプは国産車の多くが採用している方式で、コンプレッサー〜コンデンサー〜リキッドタンク〜エバポレーターを経由して冷気を作り出し、ヒーターからの回路と交わり合う場所にエアミックスドアという弁が設けられている。この弁が開閉して温度を調整しているわけだ。ところが我がXK8の場合、エバポレーターまでの動きは通常のクーラーと同じだが、その先のヒーターとの組み合わせが異なる。冷気と暖気を弁により調整するのではなく、冷気をヒーターラジエターに通してしまっている。ヒーターラジエターに流れる温水の量をヒーターバルブで変化させて温度調整しているのだ。ヒーターバルブが壊れているのであれば、絶えず温水が流れ続けヒーターとしてしか機能しなくなるはず。ではトラブルの原因は別にあるようだ。
そんな折、愛知県岡崎市にあるロッキーオートさんを取材するためXK8で向かった。400キロほど走るうちの大半が高速道路だったためか、エアコンは快調。取材を終えた足で今度は大阪にあるスピードフォルムさんを取材するため、大阪入りして前泊する予定。するとやはりやってきた。エアコンが次第に効かなくなり、ついには温風しか出なくなった。日が暮れていたこともあり、窓を全開にして走っていれば我慢はできる。問題は次の日の帰路。気温が体温近くまで上昇するなか、500キロ以上ある道のりを走っていると、またしてもエアコンが効かなくなる。ここでオートではなくマニュアルにして温度をLowのままにすると、エアコンが効かなくなるまでの時間が多少伸ばせることを発見。だが根本的な解決にはなっていない。
そこで帰宅後、長澤さんに事の顛末を説明するとエラーコードを検出するように教えられた。エアコンパネルの内気循環スイッチとオートスイッチの両方を押しながらイグニッションスイッチをONにする。するとエアコンスイッチの全てが点滅するので、さらにオートのスイッチだけを押す。すると画面にエラーコードが表示されるのだ。試してみると「23」と「24」という数字が表示された。上のBコードリストという写真に照らし合わせると圧力スイッチ、デファレンシャルポテンショが異常だとわかる。このうちデファレンシャルポテンショは暖房時に吹き出し口を下げるためのものなので、今回は圧力スイッチが原因だろうと推測された。
冷媒圧力スイッチはラジエター直後のエアコン配管に差し込まれている部品で、整備に対して免疫がある人であれば交換作業は可能と長澤さんから聞いた。そこで部品だけ取り寄せていただき宅配便で送ってもらうことにする。確かにモンキーレンチやウォーターポンププライヤーでスイッチを挟んで回転させると簡単に抜くことができた。新品のスイッチを最初手で押し込み、同様の工具で若干締め込めば作業は完了。これでめでたくエアコンは完全復活した。
冷媒圧力スイッチを交換後、すでに1000キロ近く走行したが以前のような症状とは無縁のまま快適な室内温度を保ってくれている。このスイッチ、ディーラー価格は23,540円(税込)だが、長澤さんのルートで15,000円前後で入手可能。ところが今回は為替相場の変動と輸送費の高騰で2万円近くなってしまった。とはいえ、エアコンのトラブルがその程度の金額で解消するなら安いもの。今回はひとまず胸を撫で下ろした。