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控えめなクラッディングで土の香りを消す
スバルの新星、レヴォーグ・レイバック。これまでレヴォーグの販売の6〜7割をSTIスポーツが占めていたが、今後はSTIとレイバックの二枚看板になりそうだ。スポーツワゴンとしてのレヴォーグの価値を強調するのがSTIなら、レイバックはそこにSUVの魅力をプラスした……だけではない。
サイズ的にはアウトバックとクロスバックの中間に位置するレイバック。これで「バック3兄弟」(筆者命名)が完成かと思いきや、少し意外なのがSUVらしさを表現するクラッディングが控えめなことだ。アウトバックやクロスバックは黒いクラッディングをもっと広範囲に、そして特徴的な形状でデザインしている。なぜ、レイバックはそれが控えめなのか?
佐渡島で開催された試乗会で、デザイン主査=チーフデザイナーの源田哲朗(げんだあきろう)氏に、まずこの点を聞くと……。
「デザインの狙いは『より豊かに』、『リラックス』、『コンフォート』。イメージとしては、都市に住むお客様が大切なパートナーと共にこれに乗ってお気に入りの場所に出かけて豊かな時間を過ごし、豊かな気持ちで帰宅していただく。そんなクルマを目指しました」
「そこで考えたデザインコンセプトが『凜(りん)』と『包(ほう)』です。骨格はレヴォーグなので、それが持つスポーティでシャープな、凜とした佇まいは受け継ぎながら、すべてをおおらかに豊かに包み込みたい。凜とした佇まいにおおらかさを付け足すのではなく、『凜』と『包』を掛け合わせたというのがこのデザインの大事なポイントです」
都市住民がターゲットだから、クラッディングが醸し出すアウトドア感覚を控えめにしたというわけではない。
「土の香りがしないデザインにしたかった。フォレスターを含めて、スバルには土の香りがするSUVがすでに揃っていますからね。それとは違う価値観を提供するのがレイバック。レヴォーグならではの凜とした佇まいがあるからこそ、土の香りがしないという新しい価値を創り出すことができたと考えています」
サイズは中間でも、商品性は中間ではない。クロストレックやアウトバックやフォレスターで出かけるアウトドアが自分でテントを張るキャンプだとすれば、レイバックのそれはグランピングだろうか? そう問い掛けると、源田チーフは「その通り。そういうイメージです」と答えてくれた。
豊かな面を基本に『包』の表情を作る
骨格=鉄板部分は従来のレヴォーグと同じ。変更部位はグリル回りやバンパーに限られるが、レイバックはそこのデザインに新たな発想で取り組んだ。源田チーフデザイナーがこう説明する。
「今まではグリル、ヘッドランプ、バンパーなど、要素ごとのデザインをひとつのクルマに組み上げていたけれど、今回は豊かな表情にこだわりたい。例えば顔回りでは、グリルのウィングがヘッドランプに突き刺さる構成にしているので、グリルの枠がない。豊かな張りのある大きな面にグリルを構え、その面が左右に流れていったところを縦長のフォグランプで引き締めています」
水平に広がるシルバーのウィングは、光を受けやすい上向き面にしてその存在感を強調。一方、そこから下のグリルはひとつの連続面で左右のボディ色面につながりながら、縦フォグを包み込むコーナー部の立体に融合する。その下のバンパー面もグリルとは連続面で、それが縦フォグへと滑らかに延びていく。
ひとつの連続面を基本に、フロントをデザインした。「グリルは宙に浮いた小さなフィンがいくつも並べたデザインですが、実はこれもすべてひとつの面に載っている」と源田チーフ。そしてその面に豊かな張りを持たせることで、コンセプトの『包』を表現した。「従来のグリルの作り方から脱却して、豊かに包み込まれた新しい価値を創造しました」
リヤバンパーも従来のレヴォーグとは違う。ボディ色の面積を増やした。その狙いは、「SUVにとってはリヤビューの縦方向の厚み感が大事。変更したのはバンパーだけだが、そこに厚みを見せることにこだわった」とのことだ。
従来のレヴォーグのリヤバンパーは、ディフューザー・イメージの黒いガーニッシュをバンパー上端近くまで持ち上げつつ、コーナー部では操縦安定性に寄与するエアアウトレットを含む黒いガーニッシュを斜めに切り上げていた。
それに対してレイバックは、黒いガーニッシュをサイドからリヤへ低い位置でラウンドさせている。そうやってボディ色を増やすことに加えて、リヤバンパーの垂直面をしっかり見せたり、コーナー部に垂直方向の折れ線を通すなどによって、厚み感を強調。黒いガーニッシュを垂直に延ばしたところにエアアウトレットを入れたのも、厚みを見せる要素だ。
「リヤバンパーの豊かな表情にもこだわった。フロントバンパーの両側を縦フォグで引き締めたように、リヤではアウトレットで引き締めている。フロントとリヤでテーマを合わせることで、リヤでも『包』を表現できたと思います」と源田チーフは語っている。
内装はアッシュとカッパーで『包』を表現
インテリアは色でレイバックの個性を表現した。注目はシートに採用した新色のアッシュだ。標準のファブリックシートもオプションの革シートも、アッシュとブラックのツートーンにカッパー色のステッチを配している。
「これまでスバルが使ってきたアイボリーやグレー、ベージュではレイバックの新しい価値を伝えられない」と源田チーフ。そこでアパレル業界で注目度が高いアッシュを選んだ。
アッシュはわずかに暖色系の色味を持つグレー。ベージュとグレーの中間であるグレージュは他社でも採用例が多いが、アッシュはそれより色味を抑えたところが新しい。ステッチのカッパーも暖色系の色だが、ただ暖色系でコーディネートしたわけではない。
「インパネのシルバー加飾は従来のレヴォーグと同じですが、それがほんのり青味を帯びている。寒色系の青味のシルバーが持つ凜とした表情を受け継ぎながら、暖色系のアッシュとカッパーで『包』を表現した。あえて寒色と暖色を組み合わせることで、レイバックならではの華やかさを味わっていただけると思います」
ボディカラーの新色はアステロイドグレー・パール。クロストレックで新色だったオフショアブルー・メタリックは青味のグレーだったが、これはそれより少し赤味(=暖色系)に振ったパープル味のグレーだ。源田チーフは「凜としたスポーティさを持ちながら、『包』の豊かさも表現できる色としてこのアステロイドグレーを開発した」と説明している。
内外装を通じて、レイバックのデザインは従来のレヴォーグをまったく否定していない。レヴォーグといかに差別化するかではなく、その良さ=『凜』を最大限に活かして、レイバックならではの『凜』×『包』の個性を表現した。インプレッサとの差別化を重視したクロストレックとは、そこが違う。だからクロストレックよりクラッディングが控えめで当然、というわけなのだ。