メルセデスEQE 350 4MATIC SUV | BEVは最新が最良。Cd値0.25 ヒートポンプ、DCUの採用が白眉

EQE 350 4MATIC SUV Launch Edition
メルセデス・ベンツ日本は電気自動車(BEV)のラグジュアリーSUV、EQE SUVを発表した。納車は10月下旬以降の予定だ。先にEQS SUVが発表されているため、その縮小版と理解するのは簡単だ(そう単純ではない内容の持ち主であることは後述)。EQS SUVが3列シート7人乗りなのに対し、EQE SUVは2列シート5人乗りだ。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)
全長×全幅×全高:4880mm×2030mm×1670mm ホイールベース:3030mm 車重:2630kg ボディカラーはアルペングレー(ソリッド)

BEV専用プラットフォームを採用

まずは、サイズを見てみよう。EQE 350 4MATIC SUVの全長×全幅×全高は4880mm×2030mm×1670mm、ホイールベースは3030mmである。EQS 450 4MATIC SUVより255mm短い。全幅の違いは5mm(EQEのほうが狭い)なので、同等と捉えていいだろう。全高は55mm低く、ホイールベースは180mm短い。

BEV専用プラットフォームを採用しているのは共通。リチウムイオンバッテリーの容量は89kWhで、EQS 450 4MATIC SUVより18.8kWh少ない。一充電あたりの走行距離はEQS 450 4MATIC SUVの593kmに対し、EQE 350 4MATIC SUVは528kmだ。フロントとリヤにモーターを搭載するのは共通しており(ゆえに4MATIC=全輪駆動)、システム最高出力はEQS 450 4MATIC SUVが265kW、システム最大トルクは800Nm、EQE 350 4MATIC SUVのシステム最高出力は215kW、システム最大トルクは765Nmだ。車両本体価格はEQS 450 4MATIC SUVの1542万円(税込)に対し、EQE 350 4MATIC SUV Launch Editionは1369万7000円(税込)である。

EQU SUVのプロダクトハイライト

徹底した空力対策、ヒートポンプ、そしてDCU

ボディ床下は徹底的に空力対策が施されている。

EQE SUVの大きな特徴は3つある。ひとつは空気抵抗の低減。EQS SUVだって気を使っていないわけではないが、床下を覗き込んでみると、半端ない気の使いようがわかる。機能上動いてしまうサスペンションまわりを除いてほぼフラットになっている。リヤのロワーリンクは空力を意識したフラットな形状だ。メルセデス・ベンツがフロントホイールスポイラーと呼んでいるフロントタイヤ前のストレーキは、単純な矩形ではなくノコギリの歯のようにギザギザになっている。このほうがドラッグ(空気抵抗)低減効果が高いのだろう。Cd値(空気抵抗係数)は0.25だ。

ヒートポンプの採用で航続距離が最大10%伸びるという。

EQE SUVの大きな特徴の2つめはヒートポンプの採用だ。前後のモーターや高電圧バッテリー(リチウムイオンバッテリー)が運用中に発し、通常は捨てている熱を効率良く回収して車室内ヒーターの熱源にする仕組みである。このヒートポンプのおかげで航続距離が最大10%伸びるという。

3つめの大きな特徴は、ディスコネクトユニット(DCU)の採用だ。発表のタイミングがそう変わらないEQS SUVには適用されておらず、EQE SUVに適用されたところに、BEVに関連する技術開発のスピードを感じる。いずれ、アップデートのタイミングでEQS SUVやセダン系BEVにも追加適用されることだろう。

フロントアクスルのディスコネクト・ユニット: 最高のトラクションが必要な場合や高い駆動力が必要な場合、EQE SUV 4MATICはフロントとリヤのモーターで駆動する。しかし、多くの走行状況では、その必要はない。その場合、DCUが自動的にフロントモーター駆動を切り離し、その結果、フロント・ドライブ・ユニットは完全にオフになる。その結果、フロントドライブユニットは完全にオフになります。これで、フロントアクスルのドラッグロスがほとんどなくなる。
DCUのフロントモーターを機械式に切り離すユニット。
DCUはセーリング機能もサポートし、向上させる。その結果、航続距離は最大で約6%向上した。 

DCUはフロントモーターの駆動を機械的に切り離すユニット。高速道路のクルージングなどでリヤモーターだけを駆動して走行しているとき、フロントモーターの駆動力伝達部をディスコネクトし(切り離し)、モーターを引きずらずに済む機構だ。モーター引きずりによる損失が減るので、航続距離の伸長に貢献する。減速時に回生ブレーキを働かせる場合や、加速でリヤだけでなくフロントのモーターも使う場合は、瞬時(メルセデス・ベンツの発表によれば0.24秒)にコネクトしてフロントモーターが機械的につながる。センターのメディアディスプレイを切り換えることで、エネルギーフローを視覚的に確認することが可能だ。

「大きな」と大上段に構えて主張しない特徴はいくつもあり、リアアクスルステアリング(後輪操舵)もそのひとつ。もはや、BEVのEQシリーズに限らず、現行メルセデス・ベンツのお家芸になった感すらある。逆相の最大切れ角はEQS SUVと同じで最大10度。最小回転半径はなんと、4.8mである。トヨタ・アクアやスズキ・スイフトと同じ数字だと記せば、ハチャメチャぶりが理解いただけるだろうか。広いスペースでUターンを想定して試してみたが、笑っちゃうくらい小回りが効く。正直、この小回り性の高さはEQE SUVの大きな武器だ。

同相制御は車両重量2630kg(EQS 450 4MATIC SUVより270kgも軽い。それでも重量級に違いない)の車体をレーンチェンジなどでキビキビ動かすのに役立てているのだろう。低速で大転舵をあてたとき以外は、リヤが操舵しているのを意識することはなく、自然だ。動力性能も充分。というか、システム最大トルク765Nmの実力はすさまじく、重量級の巨体を軽々と走らせる。高速道路の追い越しで躊躇する必要はない。

最小回転半径:4.8m(後輪が最大10度切れるリア・アクスルステアリングを採用)

メディアディスプレイの左側に「DYNAMIC」とあるスイッチを操作することで、ダイナミックセレクトを切り換えることが可能で、コンフォート(デフォルト)、エコ、スポーツ、オフロード、インディビジュアル(自分好みの設定)が選択でき、パワートレーンやサスペンション(減衰力可変ダンパー+ハイト調整のエアサスペンション)、電動パワーステアリングなどの制御が切り替わる。メルセデス・ベンツの他のモデルにも言えることだが、モードによる違いがわかりやすく、切り替えて楽しむ価値のある機能だ。

回生ブレーキの強弱を切り換えるパドルが付いているBEVは少数派と言っていいと思うが、EQE SUVにはパドルが付いており、「付いているほうが好み」な人にとっては好材料だろう。左右どちらかのパドルを長引きするとD Autoモードに切り替わり、状況に応じて回生ブレーキの強弱を最適に制御する。先行車がいないか遠く離れていればクルージングし(回生ブレーキは効かない)、先行車がすぐ近くにいれば回生ブレーキかけて(減速度が大きい場合は摩擦ブレーキも併用)車間距離を自動的に調節する。先行車が停車すれば、自車も停車する。減速側に限っては、先行車追従式のクルーズコントロールを機能させているのと同じになる。

自分の意思ではなくシステムが判断して減速度をコントロールするので、自分の感覚と合わず「?」となる瞬間がある。そのいっぽうで、先行車に近づきすぎない安心感はある。ダイナミックセレクトと同様、クルマと付き合いながら、自分に合ったモードを探し出すといいだろう。なにしろ白眉はDCUだ。メルセデス・ベンツのBEVに限った話ではないが、機能・効率面(ということは電費も含め)に関しては、最新モデルが最良と言えそうだ。

EQE 350 4MATIC SUV Launch Edition
全長×全幅×全高:4880mm×2030mm×1670mm
ホイールベース:3030mm
車重:2630kg
サスペンション:F4リンク式/Rマルチリンク式 
駆動方式:4WD
駆動モーター
定格:145kW
システム最高出力:292ps(215kW)
システム最大トルク:765Nm
フロントモーター:EM0030型永久磁石式同期モーター
最高出力:71kW/2682-16931rpm
最大トルク:251Nm/0-2682rpm
リヤモーター:EM0027型永久磁石式同期モーター
最高出力:144kW/2682-15913rpm
最大トルク:514Nm/0-2662rpm
バッテリー容量:89kWh
総電圧:330V
交流電力量消費率(WLTCモード):208Wh/km
 市街地モード201Wh/km
 郊外モード201kW/km
 高速道路モード218kW/km

一充電走行距離(WLTCモードモード):528km
車両本体価格:1369万7000円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…