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いまは基幹モデルではなくなったかもしれないけれど
冒頭「スバルの基幹車種」と書いたが、いまや世界販売台数ではフォレスターの方が売れている。インプレッサより少し前にフルモデルチェンジを受けたクロストレックの方が、国内月販目標台数は多い(クロストレック2600台・インプレッサ1600台)。
それでも、やっぱりインプレッサは少し特別だ。特別感の源泉はなんと言っても水平対向エンジンだ。スバルとポルシェだけが搭載する水平対向エンジンというだけで、ベーシックなハッチバックモデルがちょっと輝いて見える。
借り出したのは、オアシスブルーのST-G(AWD)。このブルーが鮮やかでいい。同じクラスでAWDを選ぶと
マツダ MAZDA3FB 20Sブラックトーンエディション(304万1500円)あたりがライバルになる。
新型インプレッサが搭載するエンジンは、FB20型水平対向4気筒DOHC(145ps/188Nm)。これに12Vで駆動するモーターを組み合わせた仕様(e-BOXER)がある。純エンジン搭載グレード(ST)は、FWD229万9000円/AWD251万9000円ととてもリーズナブルだが、装備はシンプル(というかちょっとショボイ)。FWDとAWDの価格差はグレードを問わず22万円だ。
ちなみに、これまでの販売実績で言うと
ST:28%
ST-G:27%
ST-H:45%
となっていて、意外とSTが売れている。駆動方式では
ST:FWD51% AWD49%
ST-G:FWD51% AWD49%
ST-H:FWD38% AWD62%
全体ではFWD44% AWD56%
だという。
さらに言うと、売れている順番は
ST-H(AWD):25.2%
ST-H(FWD):19.8%
ST(FWD):13.77%
ST-G(FWD):13.77%
ST(AWD):13.72%
ST-G(AWD):13.23%(小数点以下の関係で全体が100%になっていないが)
となっている。今回試乗したミドルグレード(ST-G)のAWDは、意外にももっとも売れていない組み合わせということになる。”スバルと言えばAWD”という固定概念も、じつはそれほど強固なものではないのかもしれない。
これは、もしかしたらスバルにとって朗報なのかもしれない。
なぜなら、スバルにとっての最大の特徴であり武器である水平対向エンジンは、同時にスバルにとって強い”呪縛”であるからだ。熱烈なスバリストは、水平対向エンジンはスバルの魂、と言うかもしれない。”AWDでなければスバルじゃない”とも言うかもしれない。だが、一般消費者がスバルに求めているのはそこではないのかもしれない。アイサイトと優れた視界などから成り立つ高い安全性、車両運動制御、デザイン、乗り味がスバルの魅力で、それを理解している顧客が多ければ、”水平対向エンジンの呪縛”からの解放は不可能ではないのではないか。
機構上、コストや燃費性能で直列4気筒になかなか敵わない水平対向に頼ってここまできたスバルだが、電動化時代になったらエンジンの存在感は低下する。それでも”スバルらしさ”が理解してもらえれば、選んでもらえるわけだ。
優れた視界、アイサイト、そしてジャストサイズのボディがいい
ということをつらつら考えながら恵比寿にあるSUBARU本社地下駐車場でクルマを借りだしてから向かったのは、WEC富士が開催されていた富士スピードウェイだ。
乗り込んでまず感じるのは視界の良さ。そしてボディサイズの調度良さだ。全長×全幅×全高:4475mm×1780mm×1515mm ホイールベース:2670mmというCセグのサイズは、やはり扱いやすい。水平対向エンジンを積む関係でどうしても長くなるフロントオーバーハングは、デザイン上うまく処理されていて、ある意味”スバルらしいエクステリア”を生み出している。最小回転半径も5.3mに抑えられていてライバルに対してのディスアドバンテージになっていない。
デザインは、結局人の好みというものだが、筆者はインプレッサのエクステリアデザインを好ましいと思っている。ディテールはともかく、全体のシルエットが他のクルマと似ていない(それは水平対向エンジンをフロントに積むことからきているのだが)のは、それだけで価値がある。
インテリアは最近のスバル流だ。質感はクラス標準。良くも悪しくも「日常の良い道具感」がある。というわけで、逆に言えば高級感とかプレミアム感とかは感じない。そりゃそうだ。だって、インプレッサなのだから。この「良い道具感」がベーシックなハッチバックには重要なのだ。
目立つのは、縦型の11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイだ。画面が大きいのでナビ画面は見やすい。ヘディングアップに設定すれば、行く先を広く見られる(が、筆者はノースアップ派だ)。
だが、これ、使いにくい。何をやるにしても、ディスプレイに指を伸ばさないといけないし、階層が深ければその分操作に時間がかかる。走行中にセンターディスプレイに手を伸ばすのは、慣れないとちょっと怖い。この縦型ディスプレイを採用するスバル車(いまやBRZとフォレスター、ソルテラ以外)に乗っていつも感じる、ユーザーインターフェースは、これでいいのだろか、と。
走りは、とてもしっかりしていていい。先代インプレッサがSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)の第一弾だったわけだが、一巡して新型インプレッサもSGPver.2とも言うべき、フルインナーフレーム構造を得たボディはガッチリしている。定評あるインサイトも最新バージョンで安心感も格別。渋滞時の運転支援もありがたい。
今回のドライブでも、東名高速道路上りの大渋滞に巻き込まれたが、アイサイトツーリングアシストのおかげで疲れはだいぶ低減された。ちなみに100km/h巡航時のエンジン回転数は1600rpmだ。
燃費はどうか? といえば、渋滞にまったく見舞われずに富士スピードウェイへ向かった約160kmでは15.0km/Lだった。帰路の大渋滞を含めての370kmでは13.0km/Lだった。やはり燃費は物足りない。WLTCモード燃費は16.0km/Lだから達成率は81.3%。CセグAWDでWLTCモード燃費が16.0km/Lなら悪くないと言うこともできるが、スバル車の場合、どれに乗っても11~13km/L台という印象がある。フルハイブリッドやディーゼルを持たないスバルとしてはe-BOXERで健闘しているという見方もあるが……。
ブレッド&バターカーとしてのインプレッサの魅力は新型でも健在だ。だが、そろそろ「水平対向後」のスバルが見たい。水平対向エンジンがなくても、スバルにはスバルの魅力があるのだから。
SUBARU インプレッサST-G 全長×全幅×全高:4475mm×1780mm×1515mm ホイールベース:2670mm 車重:1570kg サスペンション:Fストラット式/Rダブルウィッシュボーン式 駆動方式:4WD エンジン 形式:水平対向4気筒DOHC+モーター 型式:FB20 排気量:1995cc ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm 圧縮比:12.5 最高出力:145ps(107kW)/6000pm 最大トルク:188Nm/4000rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:48ℓ モーター:MA1型交流同期モーター 最高出力:13.6ps(10kW) 最大トルク:65Nm トランスミッション:リニアトロニックCVT 燃費:WLTCモード 16.0m/ℓ 市街地モード12.8km/ℓ 郊外モード:16.4km/ℓ 高速道路:17.6km/ℓ 車両本体価格:303万6000円 メーカーOP 32万4500円(運転席10way&助手席wayパワーシート メモリー機能+リバース連動ドアミラー+メモリー&オート格納機能/フルLEDハイ&ロービームランプ+ステアリング連動ヘッドランプ+アダプティブドライビングビーム+コーナリングランプ12万1000円、アイサイトセイフティプラス視界拡張テクノロジー6万6000円、ステアリングヒーター1万6500円、フロントシートヒーター3万3000円、ナビゲーション機能8万8000円)