脱・温暖化その手法 第82回 ―総まとめ―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。 今回最終回と宣言したが、あと一回おつきあい願いたいとのことだ。

求められるCO2からの解放

本連載で述べたかったことは、カーボンニュートラルは一刻も早く実現しなくてはならないこと、そのための技術は「太陽光発電」と「電気自動車」に集約されること、これらは本来、日本が得意とする技術なので「大きな投資を一気に行なうこと」の3点であった。その結果、温暖化の問題が一気に解決でき、地球上から飢餓がなくなり、日本の経済力が大きく発展する。

本連載の骨子を示した。

これらをもう少し具体的に述べる。温暖化の問題は、もし、カーボンニュートラルが実現しても、その時の地球に現在のような高い平均気温は長く継続する。その理由は、一旦大気中に放出されたCO2は長期にわたって地球上に存在し続けるためである。CO2を吸収する唯一の方法は、植物の光合成により葉の中で水を化合してデンプンを作ることである。このデンプンは植物の葉と実と根、それに枝や幹に蓄積される。これは地球上で再放出される。わずかに海の水に溶け込むがその量は極めて少ない。

2023年は地球上が最も暑い夏だった。その被害は地球全体に及んでいる。このためにCO2発生を速やかにゼロにしなければならない。

必要悪という概念からの脱却

このCO2発生の原因は、昔ながらの燃料を燃やして熱を得ること以外は19世紀に発明された火力発電、自動車、製鉄とそれにセメント製造が原理を変えずに、今でも使われていることである。特に発電は約3分の1のCO2を排出し、車からは2割が出ている。

これらの技術は遙か17世紀に発明されたニュートンの運動力学と、19世紀の電磁気学の2つの科学の応用としている。20世紀初頭に量子力学が生まれ、20世紀半ばからこれを基にした重要な発明があった。最も大きかったのは、半導体とそこから生まれたトランジスタとダイオードである。トランジスタを用いてコンピュータが作られ、大電力を制御することもできるようになった。ダイオードからはLEDが生まれ、これが照明に置き換わった。もう一つは太陽電池である。

さらに1980年代には日本でリチウムイオン電池とモーター用の非常に強力なネオジム-鉄-ホウ素磁石、及び、究極の効率を持つチッ化ガリウム(GaN)の製法が発明された。GaNは既に発光ダイオードに応用され、リチウムイオン電池はスマホ、パソコン、電気自動車用電源としてなくてはならない存在となった。これらはノーベル賞を受賞している。ネオジム-鉄-ホウ素磁石は家電でモーターを用いる冷蔵庫やエアコン等に利用され、省エネ家電として2000年以降、節電に大いに役立ち、今、電気自動車用のモーターにはこれが使われている。これを発明したのは佐川眞人氏であるが、ノーベル賞の候補として言われてはいるが、まだ受賞には至っていない。ノーベル賞の受賞には世界中に居ると言われている推薦者からの意見が集約されることでその対象となる。それにはその価値が推薦者の多くに知られることが必要で、噂としては推薦者と思しき人々への組織を挙げた働き掛けが重要とされている。佐川眞人氏の場合、強く推してくれる組織がない。ここは日本全体が声を上げるべきで、特にマスコミからの発信力が期待できる。

この連載では、カーボンニュートラルを実現するには、太陽から地球にやってくる巨大なエネルギーの極く一部を直接太陽光発電で電気とし、世界中のエネルギー源とすることができることと、電気自動車の普及ということを挙げた。熱のすべては電気で得ることができるし、その他のエネルギーもすべて電気でまかなうことができる。電気自動車に変えることで内燃機関自動車の発生して来たCO2もすべてなくせる。航空機や船舶で使われるエネルギーも電気由来燃料を用いることができる。

そして、これから世界で最も使い易い太陽光パネルとして普及すると予測しているのは、日本生まれのフレキシブルCIS型太陽電池である。これはこれまでのシリコン型太陽電池とほぼ同様の効率を持つと同時に、非常に軽量で、フレキシブルであるため、設置する場所を選ばない。

プラスα

もう1つの重要技術は日本で生まれたリチウムイオン電池とネオジム-鉄-ホウ素磁石を用いたモーターで走る電気自動車である。実用化目前の大電流を流すことができるGaNトランジスタが応用されれば、航続距離を伸ばすことに大いに貢献する。

太陽光発電を用いれば世界中のどこでも極めて安価な電力を得ることができる。その結果、水を引くことができ、どこでも十分な農作物を生産できるため、飢餓はなくなる。

電気自動車は2010年には日本は唯一の大量生産国であった。しかし、2022年には世界の生産台数が700万台に対して日本はわずか4万台である。この差が生まれた理由は、世界特に中国は国としての大きな普及をさせなくてはならない理由があったが、日本は内燃機関自動車で十分な利益が得られていたために細々とした投資しか生まれて来なかったことによる。ところが中国は2016年以降10兆円という大きな政府の投資があったことにより、急激に生産量を伸ばすことができた。

それでも世界で最も優れた電気自動車を開発し、生産する能力については今でもまだ日本は世界で最も優れている。

バブルの崩壊以後、経済的に日本は長い低迷の時代にある。2000年に失われた10年と言われ現在では失われた30年になっている。

だが日本には大きな投資を行う力は残っている。本連載では電気自動車に一気に50兆円の投資をすべきであることを述べた。同様の投資は太陽光発電にも行う。これにより日本の経済は蘇る。1つの産業が大きな牽引力を持つとその国全体が発展することは1990年代以降、アメリカでITが生まれ、GAFAに代表される企業の牽引力でアメリカのGDPは伸び続けている。

日本も中国同様に太陽光発電と電気自動車に政府からのファンドとして大きな投資を行なうことができるということを述べた。大きなファンドを実行する能力を持つ組織は日本には存在しないため、この投資を実行することはすべて民間に行なわせるのが良い。但し、民間の組織でも既存の組織では存在しないため、新しい組織を作ることが求められる。その組織作りの頂点となる人物を電気自動車と太陽光発電の分野で1人ずつ選ぶことが最も重要である。それにふさわしい人物とは、これが好きで、あるいはこの分野に強い情熱を持ち、国民全員が納得し、かつ、長くこの分野に携われる人である。

この一連の事業を決断するのは政治であり、それを後押しする世論である。

今回で連載終了の筈だった。書き上げてみると今回の内容だけで大きな反論が出る。これに応えなくてはいけない。このために連載後記として続けたい。

ゴッホさんが描いた電動消防車のコンセプト
簡単な図を渡すと、あっという間に描いてくれる。はしご
車、ポンプ車、タンク車を3台兼用できる消防車。3トンの
水を積む。消防士が運転もし、現場に到着次第消火を始め
る。火元に直接水をかけられる。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…