戦うために生まれてきた「トヨタ GRヤリス」【最新スポーツカー 車種別解説 TOYOTA GR YARIS】

2020年、WRCで勝つために誕生した「トヨタ GRヤリス」。国際ラリー規定が変更になった現在でもトヨタが生真面目に作り込んできたクルマは完成度は文句なく抜群だ。軽さを重視したエンジンのセレクト、組み合わせるパワートレーン、駆動配分の柔軟な変更まで徹底した戦略が覗く。とはいえ完全なモータースポーツのためのブランドというわけではなく、エンジンを1.5ℓ、CVTに置き換えたリーズナブルに誰もがアグレッシブな醍醐味を味わえるグレードも設定されている。
REPORT:山田弘樹(本文)/小林秀雄(写真解説) PHOTO:宮門秀行

トヨタが作り出した勝つためのマシン

トヨタのBセグメントハッチバックである「ヤリス」をベースに、ラリーで勝つためのマシンとして鍛え上げたホットハッチがGRヤリスだ。WRCを始めとした国際ラリーのホモロゲーションを取得するためという大義名分こそコロナ禍の影響や2022年の規定変更から今は消失したが、そのためにトヨタが生真面目なまでにつくり込んだ車両の完成度は本物で、すべての要素が戦うマシンとしてつくり込まれている。

エクステリア

標準のヤリスよりもワイドなトレッドと低く下げられたルーフを採用。空力特性に優れたスタンスを実現した上、さらにカーボン製ルーフの採用で重心高も下げるなど、徹底してモータースポーツを意識した設計が取り入れられている。
ラリーで勝つことを目的に開発されたG16E-GTS型直3ターボ。排気量はWRCのレギュレーションから1618㏄に設定された。ボールベアリング式ターボと電子制御式ウェイストゲートを採用し、ハイレスポンスを実現。多板クラッチで前後駆動力を変えるGR-FOURも搭載。
「RZ“High performance”」はBBS製の18インチ鍛造アルミホイールを標準装備(「RZ」はエンケイ製の鋳造18インチ)。タイヤはミシュランのパイロットスポーツ4Sが組み合わせられ、バネ下の軽量化と優れたハイグリップ性能を実現。
3ドアハッチバックだが、ラゲッジルームは実用的な広さを確保。ホイールハウス間の最小幅が約880㎜、手前側の最大幅が約1090㎜。奥行きは約590㎜で、後席を格納すると約1440㎜まで拡大できる。

1.6ℓエンジンは軽さを重要視して直列3気筒を選択。その出力は272㎰/370Nmにまでハイチューンされている。ここに組み合わされるトランスミッションは6速MTのみで、駆動方式は4WD。またその前後駆動配分は通常の60対40からスポーツモードの30対70、トラックモードの50対50へと変更できる。グレードはベーシックな「RZ」、装備を充実させた「RZ〝HighPerformance〞」、KINTO専用車「RZ〝High Performance・モリゾウセレクション〞」、モータースポーツベース車両である「RC」をラインナップ。

インテリア

インパネの基本レイアウトは標準のヤリスと共通だが、GRエンブレム付きの本革巻3本スポークステアリングが装備され、雰囲気を高める。8インチのディスプレイオーディオも標準装備され、必要十分なユーティリティを確保。
GRマーク付きのスポーツメーターを搭載。レッドゾーンは7000rpmからで、速度計は280㎞/hまで刻まれる。
「RZ」系は自動レブマッチング機能付きの6速iMTを採用。
アルミペダルは全車に標準装備される。

またGRヤリスのボディと足まわりはそのままに、エンジンおよびトランスミッションを自然吸気の1.5ℓ直列3気筒(120㎰)とCVTに置き換えた「RS」グレードも用意して(駆動方式はFF)、誰もがそのシャシーの質感と、アグレッシブなデザインをリーズナブルに楽しむことができるようになっている。

駆動と車体の一体感を楽しめるトラックモードは強烈!!

WRCでリヤクォーター周辺の空力性能を向上させるため2ドア仕立てとし、約200ヵ所におよぶスポット溶接と構造用接着剤を用いて鍛え上げたボディは、ヤリスがベースとは思えないほど剛性が高い。エンジンは数値上3000rpmを超えたあたりから最大トルクを発揮するが、明確なブーストの盛り上がりを見せるのは3500rpmを超えてから。そのままアクセルを踏み込めば、4WDのトラクションとともに7000rpm付近まで一気呵成に吹け上がる。6速MTのフィールもガッチリ頼もしく、パワーを思い切りぶつけて走ることができる。

うれしい装備

4WDモードセレクトスイッチで前後トルク配分を変更可能。 
Sport/Trackモード選択時にVSC OFFスイッチを押すとEXPERTモードに突入。
「 RZ“High performance”」はインタークーラーの冷却スプレー機能を装備。
「 RZ」系はアルミ対向キャリパーと大径ディスクブレーキを標準装備する。フロントディスクは2ピース構造。

ハンドリングは、基本的に弱アンダーステアの安定志向。スポーツモードを選べばトルク配分が後輪寄りとなるが、舗装路ではパワードリフトを愉しむようなキャラではなく、ターンインが素直になる印象だ。むしろ50対50のトラックモードの方が駆動と車体の一体感が高く、微かなスライドを許容しながらも強烈なトラクションで前にクルマを引っ張っていく力強い走りが楽しめる。こうしたアグレッシブな走りをサーキットで愉しむならば、強化された足まわりとトルセンLSD、大径ブレーキローターを備えた「RZ〝High Performance〞」がお勧めだ。対して走りの質感を愉しんだり、自分好みのGRヤリスを仕立てるなら「RZ」を選ぼう。ともあれGRヤリスには、かつてないほどトヨタの本気が詰まっている。

Country       Japan 
Debut        2020年9月
車両本体価格     265万円~456万円

※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.151「2023-2024 スポーツカーのすべて」の再構成です。

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