2024年問題を解決できるか?トラック自動運転技術の現在地【ジャパンモビリティショー2023で出会った“素敵な近未来”】

東京モーターショーに変わって、新たに開催された「ジャパンモビリティショー2023」では、EVや自動運転技術など近い将来確実に実現されるであろう技術の展示が盛りだくさんだ。今回は早期実用化が望まれるトラックの自動運転について迫ってみよう。

TEXT&PHOTO:山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka)

東京〜名古屋間の270kmで自動運転テストを実施

ブースに展示されていた10tトラックの荷台に巨大なモニターが設置されていた。

華やかなコンセプトカーが並ぶジャパンモビリティショー2023の会場においては、技術系のメーカーブースが並ぶコーナーはちょっと地味な感じがする。だが、そこは驚嘆するような技術に出会えるワンダーランドだったりする。

「トゥーシンプルホールディング」のブースが、まさにそれだ。なんとなくモニターに映る映像を眺めながら通り過ぎようとしたら、ふとそのモニターは巨大な10tトラックのパネルの一部だったことに気づいた。その映像は、高速道路で行われている自動運転の実験の様子で、実は筆者はこれを実際に東名高速で見たことがあった。

東京〜名古屋間の270kmでレベル2の自動運転テストの実施に成功している。技術的にはレベル4も可能だという。

その時は、トラックの横に「自動運転社会実験中」的な表示を見て、“ふーん、日本でも着々と検証を進めているんだ”くらいにしか思っていなかった。正直、技術スタッフから説明を受けるまでは、その印象は変わらなかった。

トゥーシンプルホールディングという会社は、そもそもアメリカの企業で、日本の自動車メーカーに自動運転技術をソリューションパッケージとして提案しようとしているサプライヤーだ。アメリカやヨーロッパでは、すでに同社に技術が使われているという。

ルーフの上に多くの自動運転用カメラやセンサーを設置している。

で、どんな自動運転ソリューションパッケージなのかというと、構成されるパーツは「広角カメラ」「近距離カメラ」「LiDAR(レーザーのレーダー)」「マルチアンテナ」、そして「TS-Box」という頭脳部分だ。

どういう仕組みなのかごく簡単にと言うと、車両に取り付けられたカメラとLiDARによって、自車周辺の交通状況を把握し、それを基にTS-Boxがアルゴリズムに基づいて自動運転となるデータを作成し、クルマのECUに送る。このシステムは汎用性があるので、カメラやLiDARの数や位置、そしてTS-Boxを車両ごとに設定してやれば、どんなクルマにもマッチングさせることができるのだという。

自動運転ソリューションパッケージの構成パーツを簡略図にしたもの。

システムのサンプルを見せてもらったが、非常にシンプルで、しかもコンパクトで驚いた。実際に10tトラックに付いているシステムも見せてもらったが、これでこの巨体を自動化できるのかと思うと、それも驚く。日本のコンプライアンスの問題で、実験はレベル2の範囲で行われたというが、すでにレベル4の自動運転が実現可能だという。

ビックデータを活用した自動運転のシステムも登場

さて、近くにあった「アイテック」というイスラエルの企業が提供する「mobileye」という自動運転技術は、パッケージがさらにシンプルだった。なんと、アルゴリムと半導体チップ、そしてLiDARのみを自動車メーカーに提供することで、自動運転が可能になるというのだ。

しかもこのチップが凄い。クラウドと通信する機能を有することで、同技術を内包する車両が走った世界の道路で、どこが車線の真ん中なのかというビッグデータを蓄積しているらしい。車線の真ん中がどこかというのは、当然ながら自動運転には重要なデータであり、それをビッグデータで収集するというのはアイデアだ。

ビックデータを用いて車線の中心を導き出すアイデア。

両社の説明を聞いていると、自動運転技術に重要なのは、安全か危険かを判断するアルゴリズムであることがよく分かる。周囲の交通の状況をどう判断するかは、アルゴリズムによるからだ。ちなみに、歩行者の突発的な動きを判断するアルゴリズムの完成には至っていないらしい。つまり、高速道路のようなある程度規則性に則った道路では良くても、喧騒の都市部では難しいということだ。

高速道路のような規則性のある状況であれば、ある程度の速度でも対応できるという。

どこメーカーのとは言わないが、あるクルマの安全技術は歩行者の飛び出しで止まることができなかった…という話も聞く。それだけ人間は、不確実性の塊ということなのだろう。

ちなみに物流業界ほど、自動運転化への期待は大きい。2024年問題でトラックドライバーの時間外労働規制がかけられ、輸送能力不足に陥る恐れが指摘されているからだ。となると、運送会社は利益が低下し、荷主は物流コストが増加するからだ。

LiDAR(Light Detection And Ranging)は、 レーザー光を照射して、対象物に当たって跳ね返ってくるまでの時間差を計測し、対象物の形などを3次元で計測する技術。

現在、高速道路での実験は順調なようなので、後は一般路に降りてからということになる。トゥーシンプルホールディングでは、陸運貨物輸送量の約50%占める東京-大阪間での自動運転物流ネットワークの構築を目指し、2024年も実用に向けた実験を続けていくという。ちなみに、明かしてはくれなかったが、すでに日本の某トラックメーカーへのシステム採用が決まっているようだ。

間違いなく近い将来、無人のトラックが東名高速を走り回る時代がやってくる。もし自動化されれば、トラックが無理な追い越しをして車線が詰まるという事象も大幅に減るかもしれない。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…