今回、新型アクアに採用される1年半前の2020年2月に、トヨタと豊田自動織機は、「ハイブリッド車用の新型電池を共同開発する」ことは発表していた。豊田自動織機は、2020~22年の3年感で最大300億円の投資を行ない、開発した電池、つまり今回話題となったバイポーラ型ニッケル水素バッテリーを量産する。
バイポーラ型バッテリーについては、トヨタと豊田自動織機だけでなく、川崎重工、古河電工・古河電池なども開発を進めている。
バイポーラ型(Bipolar)とは、「双極性」を意味する。バイポーラ型では1枚の電極基板の表と裏にそれぞれ正極と負極を有するシンプルな構造が特徴になる。トヨタ・豊田自動織機が共同開発した今回のバイポーラ型電池は、ニッケル水素を使うが、ほかにもバイポーラ型鉛電池もある。古河電工・古河電池が開発しているのは、バイポーラ型鉛電池だ。
バイポーラ型では集電体などの部品点数が少なくすることができ、コンパクト化できるのが特徴だ。従来型と同等サイズならより多くのセルを搭載できる。また通電面積が広いことで電池ないの抵抗を低減することができ、大電流を一気に流せるようになる。その結果、出力の向上につながるわけだ。
新型アクアに搭載するバイポーラ型ニッケル水素電池は前型アクアのニッケル水素電池の約2倍の高出力を実現したという。
[セル当たり出力約1.5倍]×[コンパクト化による同じスペースに1.4倍のセルを搭載]=約2倍の高出力
となる。
新型アクアの場合、ヤリス(リチウムイオン電池)と同じスペースに電池を搭載するが、ヤリスが0.74kWhなのに対して新型アクアは1.0kWhの電力量を搭載できる。同じ体積で25%も多くの電力量を積めるのは大きなアドバンテージだ。
新型アクアのバイポーラ型ニッケル水素電池のセル数は168セル(1モジュール=24セル)。公称電圧は201.6Vだ。つまり、1セル=1.2Vである。
これをヤリスハイブリッドと同じ580Vに昇圧してTHSⅡに送り込むわけだ。
ニッケル水素電池の電圧は普通1.2Vである。これは、正極の水酸化ニッケルが約0.5V、負極の水素吸蔵合金がマイナス0.7Vだから、その差が1.2Vとなるからだ。
リチウムイオン電池は、素材としてのリチウムの供給(リチウムの埋蔵量はチリ、オーストラリア、中国、アルゼンチンに偏っていて、この4カ国で9割超となる。精製では中国依存度がさらに高まる)、リサイクル性、安全性に問題がある。とくに安全性(発火性の高さ)については、リチウムイオン電池の弱点だ。全固体電池の実現までまだ時間がかかりそうだが、今回のバイポーラ型ニッケル水素電池はリーズナブルで性能の高い自動車用バッテリーとして、大きな存在になり得る。つまり、ゲームチェンジャーになり得そうだ。
現状では従来型リチウムイオン電池よりコストが高いというが、初めて採用する車種が大きな販売台数を見込めるアクアである。初代プリウスが切り開いたニッケル水素電池の低コスト化の道を、アクアとトヨタ×豊田自動織機はバイポーラ型ニッケル水素電池で歩むことになる。