【モデル末期は“買い”か“待ち”か?】フリードはすべてが「ちょうどいい」だが最新世代ホンダ車との差は歴然!

ホンダ・フリードハイブリッドクロスター・ブラックスタイル
近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されているモデル末期の車種が「いま“買い”か“待ち”か」を検証する当企画。
今回はホンダのコンパクトミニバン「フリード」のクロスオーバーモデル「クロスター」ハイブリッド車に、高速道路と市街地を中心としつつワインディングも交えて総計約300km試乗した。

REPORT:遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO:遠藤正賢、本田技研工業、ホンダアクセス

ホンダを支える隠れた大黒柱に成長した現行の二代目フリード

今やN-BOXに次ぐホンダの国内販売における大黒柱に成長したフリードだが、2016年9月に発売された現行二代目よりも以前、2008年5月に発売された初代(2列5人乗り仕様の「フリードスパイク」は2010年7月発売)の頃から、ある意味ホンダらしくないクルマである。

初代ホンダ・フリード

フリードの前身にあたるモビリオ(2001年12月発売)/モビリオスパイク(2002年9月発売)は、ヨーロッパの路面電車をモチーフにしたガラスエリアが大きく個性的なデザインや、センタータンクレイアウトによる広大な室内空間と多彩なシートアレンジなど、ホンダらしい独創性に満ち溢れていた。

ホンダ・モビリオ
ホンダ・モビリオスパイク

だが、その後継たる初代フリードは、良く言えば分かりやすくスポーティ、悪く言えば要素が多く煩雑なデザイン。燃料タンクは2列目下に移され、2列目の格納はダブルフォールディングのみ(スパイクはダイブダウンのみ)、3列目の格納は一般的だが斜め後方の死角が増える左右跳ね上げ式に変更された。

初代ホンダ・フリードスパイク

そして現行二代目フリードは、良く言えば上質で落ち着いた、悪く言えばより没個性的な内外装に。フリードスパイクが「フリード+」となり、荷室フロア高とバックドア開口部地上高が異なる関係でリヤまわりが異なる以外は外観が共通化されたのも、残念と言わざるを得ない。

二代目前期型ホンダ・フリード。右は5人乗り仕様の「フリード+」

そんな二代目フリードだが、2019年10月にはフェイスリフトを受けるとともに、インテリアもより落ち着いた色彩に。そして専用の内外装を持つクロスオーバー仕様の「クロスター」が、フリードとフリード+の双方に追加された。

二代目後期型ホンダ・フリード標準仕様

「ブラックスタイル」では、クロスターのアウトドアテイストが消えてしまっている?

今回テストする車両は、2023年6月に特別仕様車として設定された、「クロスター」の「ブラックスタイル」。2列目がキャプテンシートのフリード6人乗り仕様で、1.5L直4NAエンジンに1モーター内蔵7速DCT、リチウムイオンバッテリーなどを組み合わせる「スポーツハイブリッドi-DCD」を搭載した「ハイブリッド」のFF車だ。

メーカーオプションは新ボディカラーのソニックグレー・パール(3万3000円)、ディーラーオプションはドライブレコーダー(前後車内3カメラセット。6万7100円)、フロアカーペットマット(プレミアムタイプ・フリードハイブリッド用。4万8400円)、9インチプレミアムインターナビ(23万7600円)、ETC2.0車載器(ナビ連動タイプ。2万8600円)、計41万4700円分(いずれも消費税込、取付費別)を装着。車両本体価格303万3800円と合わせて344万8500円の仕様となっていた。

ホンダ・フリードハイブリッドクロスター・ブラックスタイル

標準仕様に対する「クロスター」の専用装備は、力強いSUVテイストのフロントグリルや前後バンパー、LEDフォグライト、ルーフレール、15インチアルミホイール。そしてシートのメイン生地をブラウンのファブリック、サイドをブラウンステッチが入った黒のプライムスムース(合成皮革)とし、プライウッド調パネルを装着したインテリアだ。

カタログモデルのフリードハイブリッドクロスター

「ブラックスタイル」はさらに、ドアミラー・アウタードアハンドル・アルミホイールをシルバーからブラックに、フロントグリルガーニッシュとリアライセンスガーニッシュをダーククロームメッキからブラッククロームメッキに、前後バンパーのロアーガーニッシュをシルバーからガンメタリックに、ハイマウントストップランプを赤からクリアに、シートのステッチをブラウンからシルバーに、それぞれ変更している。

ブラックに塗装された15インチアルミホイール。テスト車両の装着タイヤは185/65R15 88Sのダンロップ・エナセーブEC300

これらの都会的かつスポーティに見せる「ブラックスタイル」専用装備のおかげで、さり気ないながらもプラスされた「クロスター」のSUVテイストが、ほとんど打ち消されているのはいかがなものか。「クロスター」自体、最低地上高をはじめ走りのメカニズムは標準仕様と変わらないため、これがクロスオーバー仕様と言われても有り難みは全く感じられない、というのが率直な印象だ。

クロスターブラックスタイルのフロントまわり。細部が黒みを増したことでSUV色が薄れスポーティな雰囲気に

ともあれ室内に乗り込むと、見た目の質感こそ新型になってむしろダウンしたトヨタ・シエンタより高いものの、シートは3列とも小ぶりでサイドサポートに乏しく、生地も滑りやすく、クッションも硬いばかりで全身にフィットしにくい。シートの掛け心地が大きく進化したシエンタとは大きな差が開いてしまっている。

3列目シートは小ぶりだが大柄な男性でも辛うじて座れるレベル。2列目を最後端にセットした際のニールームは53cm、ヘッドルームは90cm(同)

ミニバンにとって重要なシートアレンジは、3列目はごく一般的な左右跳ね上げ式で直感的に操作しやすく、複雑怪奇な機構を持つシエンタより優れるものの、格納したシートがリヤクォーターウィンドウを塞ぐため、ゼロ次安全の観点からは×。

全席使用時のラゲッジルーム。奥行き×幅×高さは31×92×103cm、フロア高は48cm(同)
3列目格納&2列目最後端セット時のラゲッジルーム。奥行きは96.5cm(同)
3列目格納&2列目最前端セット時のラゲッジルーム。奥行きは134cm(同)

キャプテンシートの2列目は360mmの前後スライドと背もたれ調整以外の機構がなく、アレンジ自体が不可能だ。2・3列目を潰して荷物をたくさん載せるならば、ダブルフォールディングが可能な標準仕様の7人乗りベンチシート仕様、あるいは3列目が不要ならフリード+を選ぶべきだろう。

フリードハイブリッド7人乗りベンチシート仕様のインテリア
フリード+のインテリア

では実際に走り出すとどうか。ステアリングホイール上部から見るタイプのデジタルメーターがそびえ立つインパネと、今となっては太いAピラーのせいで、前方視界は決して広いとは言い難い。

運転席からの視界はインパネ頂部のデジタルメーターと太いAピラーに遮られて死角が大きめ

とはいえサイドとリアのガラスエリアは広く、また全長×全幅×全高は4265×1695×1710mm、ホイールベースは2740mm、最小回転半径は5.2mとコンパクトなため、狭い市街地やワインディングでのすれ違い、また駐車場での車庫入れは容易だった。

【ホンダ・フリードハイブリッドクロスター・ブラックスタイル(FF)】全長×全幅×全高:4265×1695×1710mm ホイールベース:2740mm トレッド前/後:1480/1485mm 最低地上高:135mm 最小回転半径:5.2m)

乗り心地とハンドリングに関しては、一言で言えば「可もなく不可もなし」。荒れた路面ではシエンタのように強いショックこそ乗員に伝えないものの、左右の揺れやフロアの微振動が出やすい。ハンドリングも軽快ではあるがロールの量・スピードとも大きく、また直進性に乏しく横風にも煽られやすいため、常にそこはかとない不安がつきまとう。この点において、ホンダアクセスが開発したコンプリートカー「モデューロX」と雲泥の差があることは、乗り比べれば誰もが走り出した瞬間に体感できるだろう。

フロントサスペンションはマクファーソンストラット式
リヤサスペンションは写真のFF車がトーションビーム式。4WD車はド・ディオン式

ハイブリッドシステムや先進安全装備は最新世代と比べ見劣りする

そしてパワートレインだが、フリードハイブリッドが搭載する「スポーツハイブリッドi-DCD」は、現行四代目フィットが搭載する2モーター式の「e:HEV」、あるいはシエンタの「THS2」と比較すると、そのマイナス面と古さが否応なく目についてしまう。とりわけそれを感じるのは、7速DCTによる変速ショックを伴うシームレスではない加速、そしてバッテリーの持ちが悪いことだ。

これらは特に、高速道路やワインディングで上り坂が続くと体感しやすい。前走車につかえた後で再加速すると、丁寧なアクセルワークを心がけてもギクシャクしがち。また、ハイブリッドメーター上のバッテリー残量がみるみる減っていき、残り2セグメントに達するとエンジントルクの大半が充電に回されるため加速力が急減。わずかな傾斜でも速度を維持するのが困難になる。

シームレスな加速を望むなら、燃費の悪さを甘受してでもガソリン車を選ぶべきだろう。なお今回の燃費は、外気温30℃超の猛暑ながら、高速道路&市街地で19.7km/L、ワインディングで14.0km/Lだった。

1.5L直4アトキンソンサイクルDOHC i-VTECエンジンと1モーター内蔵7速DCTを搭載するエンジンルーム

ADAS「ホンダセンシング」はミリ波レーダーと単眼カメラで構成される旧世代のもので、ACCの加減速制御は少なからずラフ。また渋滞追従機能も備わらない。また、他社ではLTA(レーントレースアシスト)に相当するLKAS(レーンキープアシスト)は、左右へのふらつきが大きく、先代N-BOX以降のホンダ車に対し大きく見劣りするのも気になった。

「ホンダセンシング」用の単眼カメラ(写真右側)

スタンダードなモデルを希望するなら、3代目フリードを狙うのが賢明

すでにお察しのことと思うが、モデル末期のホンダ・フリードは購入せず、2024年中頃と目される三代目へのフルモデルチェンジを“待ち”続けるのが賢明だ。最新世代の他のホンダ車と同様であれば、プラットフォームは流用されるものの、ハイブリッドパワートレインは最新の「e:HEV」となり、シートもフレーム・クッションから抜本的に改善されることだろう。

ただし、「モデューロX」がどうしても欲しいなら、話は別だ。三代目フリードのモデルライフ途中で追加される保証はどこにもない。それどころか、たとえ開発されたとしても、2代目ヴェゼルモデューロXのように、ベース車の供給体制の問題から突如開発中止となる可能性さえある。

また、「フリード+」と「クロスター」も、三代目に継続設定されるかどうか、定かではない。これらのモデルを確実に新車で欲しいならば、今すぐディーラーに行くべきだろう。

ホンダ・フリードモデューロX(後期型)

■ホンダ・フリードハイブリッドクロスター・ブラックスタイル(FF)
全長×全幅×全高:4265×1695×1710mm
ホイールベース:2740mm
車両重量:1440kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
エンジン最高出力:81kW(110ps)/6000rpm
エンジン最大トルク:134Nm/5000rpm
モーター最高出力:22kW(29.5ps)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160Nm/0-1313rpm
トランスミッション:7速DCT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:185/65R15 88S
乗車定員:6名
WLTCモード燃費:20.9km/L
市街地モード燃費:17.9km/L
郊外モード燃費:21.6km/L
高速道路モード燃費:22.0km/L
車両価格:303万3800円

ホンダ・フリードハイブリッドクロスター・ブラックスタイル

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…