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ロータリーエンジンありき、では必ずしもなかった
「やりたかったのはEV(電気自動車)の拡張です」と電駆領域担当の技術者は説明する。「エンジンで発電ができるので、バッテリーが切れた後も安心して走れます。EVに興味があるけど二の足を踏んでいる方に、このクルマに乗って第一歩を踏み出してほしいと思っています。MX-30ロータリーEVに乗ることで、EVのいいところがいっぱい見えてきますから」
EVの所有に二の足を踏む理由のひとつは、航続距離だろう。MX-30ロータリーEVは発電用エンジンを積むことで、航続距離の問題を解決した。搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は17.8kWhなので、MX-30 EVモデルの半分だ。だから、EVとして走れる距離は半分以下で、カタログ上のEV走行換算距離は107kmになる。
とはいえ、片道50km程度の走行ならEV走行のみでこなしてしまう。不安なのは週末に遠出をするようなケースだが、この場合は発電用エンジンの助けを借りればいい。途中で充電の心配をしなくていい(急速充電に対応しているので、SAや道の駅などで充電することは可能だ)。燃料タンク容量は50Lもある。8C型シングルローターのロータリーエンジンでジェネレーターを回し、発電した電力でモーターを駆動することで走り続けることができる。
だからずっと、EV特有の、リニアで、静かで、応答性に優れた気持ちのいい走りを堪能することができる。ロータリーエンジンの採用はあくまで、“EVの拡張”のためだ。
「ロータリーエンジンが載ったクルマが作りたい。『よし、作るぞ』ではなくて、EVの拡張を実現するクルマを作ろうとしたときに、要求に合う特徴を持ったエンジンがたまたまロータリーエンジンだったということです。高負荷で燃費がいい特徴を持つエンジンを採用したいよねと。それなら我が社にはロータリーがあるじゃないかと。もちろん、頭の片隅にロータリーの特徴があったうえで検討したわけですが」
ロータリーエンジンありきではなかったということだ。ではなぜ、ピストンが往復運動する2気筒なり、3気筒なり、4気筒なりのレシプロエンジンではなく、三角おむすび型のローターが回転することによって動力を取り出すロータリーエンジンが適していたのだろうか。
「繰り返しになりますが、我々がやりたかったのはEVの拡張でした。バッテリーが切れた後は発電のためにエンジンをかけなければなりませんが、エンジンがかかっている時間をできるだけ短くしたいと考えました。エンジンをあまりかけずに極力静かな走行をしてEVの拡張を実現しようとした場合、単位時間あたりの出力を増やさなければなりません。つまり、大きなパワーが必要になります。レシプロエンジンは特性上、軽負荷側に燃費の目玉(燃費率がいい領域)があります。いっぽうで、ロータリーは高負荷側に高効率の領域を持ちます」
エンジンをかけている時間を短くしたい→大きな充電パワーが欲しい(高出力で発電したい)→高負荷(高出力付近)で効率のいいエンジンが適している→ロータリーエンジンがあるじゃないか、という論法だ。
ロータリーエンジンはコンパクトなのが特徴で、その特徴を生かせば大きなモーターを載せることができる。MX-30ロータリーEVはコンパクトなロータリーエンジンの特徴を生かし、EVモデル(最高出力107kW)よりも高出力(最高出力125kW)のモーターを採用することができている。
3つの走行モードの狙いは?
走行モードは「EVモード」「ノーマルモード」「チャージモード」の3種類だ。EVモードはSOC(使用可能なバッテリー残量)が0%になるまでEV走行を継続するモード。SOCが0%になるとエンジンがかかり、SOC0%を維持しながら走行を続ける。EVモード選択時でも、ドライバーが強い加速を求めた際はエンジンを始動して発電し、バッテリー出力をサポートする。
ノーマルモードは必要なエネルギーに応じて自動的にエンジンを始動する。基本はEV走行だが、ドライバーの加速要求が大きいときはエンジンを始動して発電し、バッテリー出力をサポートする。SOCが45%になるまでは、基本的にEV走行だ。45%になってからは、走行音にエンジン音がまぎれる状況(車速40km/h超)を極力選び、エンジンをかけて発電。SOC45%を保とうとする。なぜ、45%がしきい値なのか。
「SOCが減ると、バッテリーが出せる出力も減っていくからです。バッテリーからたくさん出力を出すことができて、そこに発電パワーを足すと、125kWのフル加速ができる。(都市高速などの)ランプウェイを気持ち良く登っていく程度にはフル加速を持続させることができます」
ある程度の時間、フル加速を持続させるためのSOCの下限が45%というわけだ。SOCが45%残っていれば10km単位でEV走行を続けることができるから、45%を切ったからといって慌ててエンジンを始動して発電したりはしない。車速が高くなって走行音が増し、エンジン音がマスクされる機会を待ってエンジンを始動させる。
最初にEVモードを選択し、SOC66%で走り始めたのだが、試乗時は時間が限られていたこともあり、SOCを50%まで減らすのがやっとだった。だから、ノーマルモードを選択してSOC45%を切り、8C型ロータリーエンジンが発電のために始動と停止を繰り返す制御を確認することはできなかった。この点については、別の機会に改めて確認したい。
チャージモードは「ターゲットSOCモード」
一度もエンジンをかけずに試乗を終えるのは癪なので、試乗時間終了間際にチャージモードを選択した。このモードでは発進させると低車速でもエンジンが始動し、相応のボリュームでエンジン音を響かせる。ドライバーが求めるターゲットまで早くSOCを回復させるためだ(車両停止時はエンジンを停止する)。
チャージモードでは筆者に誤解があった。そのネーミングゆえと責任転嫁しておくが、高いSOCに向けて回復するだけではなく、現状より低い側のSOCを設定した使い方も可能だ。「ターゲットSOCモード」のほうがより正確である。
例えば、出張などに出ていて深夜の帰宅を強いられる日があったとする。自宅周辺の住宅街はEVモードで静かに走りたいので、SOCを20%は残しておきたい。帰宅したら自宅で充電できるので、それ以上残す必要はない。それまでのルートはガソリンを使うより電気を使ったほうが経済的だし快適なので、電気エネルギーを目一杯使いたい。というような使い方が想定できる(EV走行が主体になる)。チャージモードはSOC20%から100%の範囲で10%刻みでの設定が可能だ。
いっぽう、週末にキャンプに出かけるシーンを想定すると、現地で車両から電気を取りだして電気ケトルでお湯を沸かしたり、照明を使ったりしたい。なので、80%はSOCを残しておきたい。この場合はエンジンを頻繁に稼動させる、モード名どおりのチャージ(充電)が主体になる。
MX-30ロータリーEVは「EVの拡張」を目指したモデルと記した意味がおわかりいただけただろうか。少し寂しい気もするが、ロータリーエンジンはあくまで、モーター走行するクルマの使い勝手を高めるためのデバイスにすぎない。重要な役割を果たしてはいるが、目立ってはいけないのである。
130kg RE-EVの方が重い
MX-30 Rotary-EV Edition R Technical Specifications 全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1595mm ホイールベース:2655mm トレッド:F1565mm/R1565mm サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式 車重:1780kg パワートレーン:8C-PH型 エンジン形式:水冷1ローターロータリーエンジン 排気量:830cc 圧縮比:11.9 最高出力:72ps(53kW)/4500rpm 最大トルク:112Nm/4500rpm 燃料供給:筒内燃料直接噴射 燃料:レギュラー 燃料タンク容量:50L 駆動用モーター:交流同期モーター モーター型式:MV型 最高出力:170ps(125kW)/9000rpm 最大トルク:260Nm/0-4471rpm 駆動用二次電池:リチウムイオン電池 総電圧:355V 定格出力:60kW バッテリー容量:17.8kWh 水冷式 充電:DC充電 CHAdeMO AC(普通)充電 最大6.6kW EV走行換算距離(WLTCモード):107km WLTCモード:15.4km/L 市街地モード 11.1km/L 郊外モード 18.5km/L 高速道路モード 16.4km/L 車両価格:491万7000円