【新型車デザイン探訪】ヒョンデ・コナはデザインも開発手法もチャレンジだった!大胆な“顔”となった理由をデザイン責任者に聞いた

新型コナ・エレクトリックが日本上陸。ヒョンデ・モビリティ・ジャパンでは兄貴分のアイオニック5より「馴染みやすいデザイン」と考えているそうだが、いやいや、これも非常に個性明快な風貌の持ち主だ。それがどのように生まれたのか? 

コナ・エレクトリックの発表会のために来日したサイモン・ローズビーに聞いてみた。サイモンは2019年からヒョンデ・ブランドのデザイン責任者を務めている。

TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:Hyundai/編集部

正常進化だけど大胆な顔付き

BEVらしく開口部を最小にとどめ、ボディ色の面を最大化したフロント。小さな正方形が並ぶロワーグリルの奥に、バッテリー冷却の通風を制御する開閉式フラップを備えている(写真はアメリカ仕様)。

コナ・エレクトリックのエクステリアで最も大胆で特徴的なのはフロントだろう。なにしろボディ色の面積が広い。“シームレスホライゾンランプ”と呼ぶ横一文字のDRLの下に、立体的で艶やかなボディ色の面が広がる。その下は、日本にはないICE版のコナでは黒いグリルを構えるのだが、エレクトリックはグリルをICE版より縮小しつつ、さらにそこにもボディ色の帯を入れている。

ヒョンデ・ブランドのデザイン責任者を務めているサイモン・ローズビー氏(正式な肩書きはHead of Hyundai Design Center )に、東京・渋谷で開催されたコナ・エレクトリックの発表会にてインタビューを実施した。

「ICEで見慣れたバランスとは違うので、チャレンジだと思っている」とサイモン。「BEVに見えること、モダンに見えることが狙いだ。もしもICEを先にデザインしてから『それをどうBEVに見せるか』と考えていたら、こんなにモダンな表情にはならなかっただろう」

新型コナは2代目。初代コナは2017年にデビューし、翌18年にはBEVのエレクトリックが追加された。そのときからチャレンジが始まっていた、とサイモンは言う。

初代コナ・エレクトリック。グリルレス・マスクにチャレンジしつつも、細かいレリーフパターンを刻むことでグリルの名残をとどめたデザインだ。充電リッドは向かって右側。しかし左側にもダミーの開口線を入れて左右対称に見せている。今となっては「思い切りが悪いデザイン」に思えてしまうが、この経験を経て新型は正常進化ながら大胆な顔付きを実現できたのだ(写真はアメリカ仕様)。

「初代コナ・エレクトリックをデザインするとき、我々はフロントからICEの伝統的な要素を取り去ることにした」。いわゆるグリルレスの顔付きにしたわけだ。そして、それによって増えたボディ色の面に充電リッドを埋め込んだ。「初代はどこか”アイアンマン”的なキャラクターの顔付きだった」と微笑みながら、サイモンは新型の進化のポイントを次のように説明する。

「初代ではスリムなDRLを左右に置いていたが、新型はそれを“シームレスホライゾンランプ”で結んだ」。“シームレスホライゾンランプ”はICE を含めて最近のヒョンデのニューモデルの多くに共通する要素だ。「さらに、ヘッドランプを外側に押し出して、フロントフェンダーのクラッディングに組み込んだ。初代からのナチュラルな進化を実現できたと思う」。

初代と比べると、新型がいかにモダンに見えるかがわかりやすい。それは新型が当初から「BEVありき」で開発されていたからでもある。ICE車の”シームレスホライゾンランプ”は一本線で光るが、コナ・エレクトリックの中央部分は小さな四角い光を並べており、”ピクセレーテッド・シームレスホライゾンランプ”と呼ばれる(写真はアメリカ仕様)。

背景を知らずに新型コナを見ると、ずいぶん大胆な顔付きにしたものだと思ってしまいがちだが、実はそれは初代からの正常進化なのだ。ただしヒョンデにとって、コナ・シリーズにおけるエレクトリニックの重要性はもちろん高まっている。正常進化といえども守りのデザインではない。

デジタル活用で開発手法も革新

前述のように先代コナにもICEとBEVがあったが、ヒョンデは新型を「BEV優先」で開発したと表明。エレクトリックへの本気度を強調している。

ICEとBEVが存在するなかで、BEVに見えるプロポーションを追求。その鍵はフロントオーバーハングの短さだが、コナは充電口がノーズにあるので少し不利になる。ヘッドランプを外に出しつつ後ろに引くことでそれをカバーし、オーバーハングを短く感じさせたのは巧い工夫だ(写真はアメリカ仕様)。

とはいえICEがある限り、エンジンを搭載するスペースを確保しなくてはいけない。BEV専用車のアイオニック5よりパッケージングの条件がより複雑で、より難しかったのではないかと想像できるのだが・・。

「チャレンジだったよ。BEVとICEを両立できるパッケージングとエンジニアリングが必要だった。デザインテーマはBEVで始めたけれど、それがICEでも成り立つのか?」とサイモン。そしてこう続けた。

「主な違いは冷却に必要なスペースだ。開発を進めるなか、ICEの冷却性能が課題に浮上した。最も難しかったのはフロントエンドのパッケージングだが、それは全体のプロポーションにも影響する」

ICEではグリルから入った風がラジエーターを通り、エンジンルームを換気して床下などへ出ていく。ラジエーターの搭載スペースに加えて、エンジンの周囲に換気のための空間を確保しなくてはいけない。

それに対してエレクトリックで大事なのはバッテリーを冷却するための通風だ。当然ながら大きなラジエーターが存在しない反面、初代と同様にノーズに置いた充電口がフロントオーバーハングを延ばす要素になる。

それらを勘案して、最適なパッケージングとプロポーションをどうやって導き出すか? サイモンがこんな秘話を披露してくれた。

「7案のプロポーションモデルをデジタルで作成し、議論した。VRルームで合計20人がワイヤレスのVRゴーグルをかけて、同時に7案を原寸大で比較検討する。そうやって、どれが『BEV優先』に感じられるプロポーションかを選んだ。それを量産化できたのは、エンジニアとパッケージングチームが素晴らしい仕事をしてくれたおかげだ」

ノーズの” ピクセレーテッド・シームレスホライゾンランプ”をリヤにも反復。新型コナ・エレクトリックの後ろ姿を特徴づける(写真はアメリカ仕様)。

リヤにもサイモンのこだわりがある。フロントと同様に、”シームレスホライゾンランプ”のテールランプを配置。それを際立たせるため、その周囲の断面の美しさを追求したという。

「我々は韓国、ドイツ、カリフォルニアにデザイン拠点を持っている。例えばカリフォルニアのスタジオで修正案のデジタルデータを作り、そのデータでクレイモデルを切削する。その日の仕事が終わるときにクレイモデルを計測したデータを韓国のスタジオに送ると、韓国でそれをクレイモデルに再現し、修正し、そのデータを今度はドイツに送る」とサイモン。「こうして誰も残業することなく、毎日24時間、作業が続いていったのだ」。

フロントと同様にリヤコンビランプを外に出してフェンダーのクラッディングと一体化し、テールランプは横一文字。残された広いボディ色の面を、どう美しく見せるかにサイモンたちデザイナーはこだわった。

「ひとつのテーマに沿ってデータをやり取りしながら3つのスタジオが協業して、リヤ回りの美しい断面を生み出すことができた。。そこにあったのは、3つのスタジオのデザイナーが同じ廊下を歩いていくような環境だ。同じ廊下でトライとリファインを繰り返して、最終案に辿り着いた。コロナ禍で移動が制限されていたから、このやり方を考えたのだが、とてもエキサイティングだったよ」

プロポーションの吟味にVRを活用し、デジタルデータを介した3拠点の協業で造形的な完成度を追求。こうして開発手法の革新にもチャレンジしながら、新型コナのデザインが生み出された。それをサイモンは「エキサイティングだった」と振り返る。

大胆な顔付きも含めて、デザイナーは新たなチャレンジをいとわず、むしろそれを楽しんだ。作り手がワクワクしながらデザインしたものは、きっと見る人の気持ちもワクワクさせるはず。コナ・エレクトリックはその好例と言えるかもしれない。

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著者プロフィール

千葉 匠 近影

千葉 匠

1954年東京生まれ。千葉大学工業意匠学科を卒業し、78〜83年は日産ディーゼル工業でトラック/バスのデザ…