トヨタ3000GTというキャッチコピーで1986年2月に発売されたトヨタ・スープラ。国内ではセリカXXというネーミングが続いていたが、アメリカなどの輸出モデルでは1978年発売モデルからスープラを名乗っていた。このA70型で初めて内外とも共通のネーミングとされたのは、セリカのイメージと訣別するためでもあった。そのためトヨタ3000GTと2000GTの後継車であるかのようなキャッチコピーで登場したのだった。
採用されたエンジンはすべて直列6気筒で3リッターDOHCターボを筆頭に、2リッターDOHCツインターボ、同NA仕様、さらに2リッターSOHCまで用意されていた。最上級の3.0GTターボは335.5万円と非常に高価な価格設定とされ、高額だった自動車税とともに買う人を選ぶ存在。販売の主力は2リッターツインターボだったが、SOHCエンジン搭載車は200万円を切る価格設定とされ、この手のスポーツカーとしては幅広いラインナップだった。
基本コンポーネンツをソアラと共有するスープラだが、’86年6月には脱着式ルーフを備えるエアロトップを、さらに’87年1月には3ナンバーボディとなる3.0GTターボ・リミテッド・ワイドボディをそれぞれ追加して独自路線を歩むことになる。だが70スープラといえば、やはり’88年のマイナーチェンジ時に500台限定で発売された3.0GTターボAに始まる、後期モデルのハイパワー化が印象に残る。ターボAはグループAのホモロゲーションモデルであり270psを発生したが、その後税制が変わったことから2.0ツインターボにもワイドボディが追加された。さらに’90年になるとトヨタとして初めて280psを達成した2.5ツインターボが新たにラインナップされる。現在市場で流通しているものの多くが後期モデルなのも、これらが影響しているのだろう。
ネオクラシックカーとしての人気は後期モデルが上だが、ある年齢層から上の世代だと前期モデルが発売された時のインパクトが大きかったに違いない。主戦場であるアメリカを意識した大柄なデザインもさることながら、リトラクタブルヘッドライトを備える高級スポーツカーという存在は当時、独特な位置にあった。直接のライバルはZ31型フェアレディZに当たるがV型6気筒ターボの300ZXエンジンは190psであり、スープラ3.0GTターボの230psとは明らかに差があった。スタイリングも好みの分かれるところで、70スープラの前期モデルに憧れる人も数多かった。
2023年の締めくくりにあたる旧車イベントが12月10日に開催された「2023アリオ上尾クリスマスファイナル クラシックカーフェスティバル」は、ネオクラ車が多かった印象。その会場でとても珍しい前期モデルの3.0GTが展示されていた。イベントに展示される70スープラの多くが後期モデルであるから、見つけるや否やそばにいたオーナーにお話を聞くことにした。スープラのオーナーは佐野幸一さんで63歳になる方。やはり長年憧れてきたそうで、同時にトヨタ車好きでもある。
トヨタ好きであることは他に所有している車種からもわかる。こちらもネオクラ車の代表的車種である90チェイサーで、しっかり1JZエンジンの2.5モデルを選ばれている。そんな佐野さんだから、周囲にもネオクラシックカーに乗る友人知人がいて、クルマ談義には事欠かない。その中の一人に20ソアラをカスタムしてきた人がいる。その人と話をしているうちに、なんと前期型70スープラの3.0GTが不動のまま保管されていることを知らさせる。長年憧れてきたモデルだけに、この話に佐野さんは飛びついた。
詳しく聞けば友人の先輩が新車で購入したエアロトップ3.0GTターボだそうで、いわゆる1オーナー車。納車されてからは普通に乗られていたが、ある時から実家の納屋に入れて車検を切らしてしまう。それでも定期的にエンジンだけはかけていたそうだが、その習慣もなくなり13年が過ぎ去った。納屋に入っていたから傷みは少ないものの、話を聞いた時には完全なる不動車。復活には相応の苦労がありそうだが、長年の夢がかなうのならと譲渡してもらうことになった。
幸いなことに70スープラや20ソアラを専門に扱うショップが埼玉県内に存在する。県内に住んでいる佐野さんだから、専門店までの距離は遠くない。そこで積載車で納屋からショップまで直行して、フルメンテナンスを依頼している。ショップには苦労することもあっただろうが、それほど長い時間をかけずに路上復帰させることに成功した。納車後、洗車後に磨いただけのボディだから多少の傷みはある。けれど3リッター直6ターボエンジンの魅力は十分で、さらにエアロトップであることからルーフを外して走る爽快感は格別。
実はこのイベントへ参加する直前に納車されたばかりだそうで、これがイベント初お披露目。スープラとの縁を取り持ってくれた友人とともにイベントへ参加して、楽しい時間を過ごされていた。佐野さんも友人のように車高を落として社外ホイールを履かせてマフラーを変更しようかと考えていたそうだが、こればかりは周囲から猛反対を受け考え直した。これまで1オーナーでノーマルを維持してきた個体はとても貴重。できればこのまま維持していただきたいとお話しすると「カスタムするのはやめることにしました。これから純正アルミホイールを手直しする予定です」とお話ししてくれた。