発電機に徹した8C型ロータリー搭載PHEVはクルマ好きを満足させてくれるのか? マツダMX-30RE-EV

マツダMX-30ロータリーEVインダストリアルクラシック
マツダファンならずとも待望のロータリーエンジンが11年ぶりに復活。まずはシリーズ式PHEVの横置き発電用1ローター「8C-PH」型が「MX-30」に搭載され、日本でも2023年11月より「MX-30ロータリーEV」として販売開始された。果たしてその走りはクルマ好き、そしてロータリーエンジンへの思い入れが深いマツダファンを満足させるものに仕上がっているのだろうか?
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、マツダ

ロータリーファンは満足できるのか?

読者の皆さんは、ロータリーエンジンに対してどのようなイメージをお持ちだろうか?

一度でも体感したことのある人なら、独特の軽やかなアイドリング音、極めて滑らかな回転フィール、レシプロとはひと味違う甲高さを持つ中高回転域でのエンジンサウンド、か細いトルク、どうしても伸びない燃費、などといった、ロータリーエンジンならではの特徴が、強く印象に残っていることと思う。

かく言う筆者も、かつて所属していた自動車雑誌編集部で、RX-8タイプS初期型の長期レポートを担当しており、その13B型NAロータリーエンジンの記憶が今なお鮮烈に残っている。

だからこそ、2012年に6月にRX-8が生産終了し、ロータリーエンジンの灯が一度途絶えた時は、少なからず寂しさを覚えたのだが、どのような形であれ復活したのは、素直に嬉しく思う。

マツダRX-8。同車も観音開きドアを採用していた

しかしその一方で、MX-30に搭載される8C-PHはあくまで発電用。そのうえ1ローター。

「もしかしたら、従来のロータリーエンジンのような気持ち良さは味わえないのではないか?」

多くのクルマ好き、とりわけマツダファンが抱く興味や疑念、不安は、この一点に集約されるのではないだろうか? 筆者もそのひとりである。

今回は、リサイクル糸を20%使用したブラックのファブリックとブラウンの高触感人口皮革「プレミアムヴィンテージレザレット」、ダーク調コルクを組み合わせたインテリアを特徴とする「インダストリアルクラシック」グレードに試乗。本誌・鈴木慎一編集長とともに、新子安のマツダR&Dセンター横浜から三浦半島・城ヶ島までの、高速道路を主体としつつ市街地と郊外のワインディングも交えた約120kmのルートを往復した。

なお、「ロータリーEV」には数多くの技術的トピックがあり、マツダ自身もMX-30を「マツダの電動化を主導するモデル」、その「ロータリーEV」を「基本的な提供価値はそのままに、EVとしての使い方を拡張したシリーズ式プラグインハイブリッドモデル」と位置付けている。

その観点でのインプレッションは、世良耕太さんのインプレッション記事に詳しいので、そちらをぜひお読みいただきたい。

「e-スカイアクティブR-EV」の作動イメージ

MX-30というクルマ自体の成り立ちを改めて振り返ると、端的に言えばCX-30をベースとして、前後ドアを観音開き式の「フリースタイルドア」に変更。よりシンプルな内外装デザインを備えた、2+2シーターのクーペライクなB-CセグメントクロスオーバーSUVである。

マツダCX-30

また前述の通り「マツダの電動化を主導するモデル」として、PE-VPH型2.0L直4ガソリンエンジンと6速AT、5.1kW(6.9ps)と49Nmを発するMJ型モーターに24Vリチウムイオンバッテリー(総電力量は未公表)を組み合わせたマイルドハイブリッド「e-SKYACTIV G 2.0」搭載モデル(以下、ガソリン車)、107kW(145ps)と270Nmを発するMH型モーターに総電力量35.5kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせた「e-SKYACTIV EV」を搭載する「EVモデル」、そして排気量830ccの8C-PH型1ローターを発電機として使用し、125kW(170ps)と260Nmを発するMH型モーターに総電力量17.8kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせた「e-SKYACTIV R-EV」を搭載する今回の「ロータリーEV」を設定している。

マツダMX-30ガソリン車のメカニズム透視図
マツダMX-30EVモデルのメカニズム透視図
マツダMX-30ロータリーEV(欧州仕様)のメカニズム透視図

これらのCX-30にはないMX-30ならではの独自性は、残念ながら功を奏しているとは言い難い。フリースタイルドアを採用したことによって、大きなドア開口部を必要とする車いすやベビーカーのユーザーを除き、特に後席の乗降性と居住性が大幅に悪化。シンプルかつクーペライクなフォルムも、スポーティさに乏しいうえSUVらしい力強さにも欠けている。

ベースとなったCX-30が持つ凛とした佇まいと、合理性の権化のようなパッケージング、双方の美点をMX-30は根底から覆しているのである。

全長×全幅×全高:4395×1795×1595mm ホイールベース:2655mm
トレッド:F&R 1565mm 最低地上高:130mm
車両重量:1780kg 最小回転半径:5.3m

それらMX-30が生まれ持った欠点は、当然ながらこの「ロータリーEV」でも何ら変わらない。後席は背もたれが平板なうえ、座面が短くヒール段差も少ないため膝裏が完全に浮いてしまう。そしてリヤ→フロントの順に閉じ、フロント→リヤの順に開けなければならないフリースタイルドアをひとたび閉めれば、遥か前方にあるフロントドアハンドルを引かなければならないため、同乗者の助けなく降りるのは困難を極める。

ではその分前席が快適かと言えばさにあらず。後席ほどではないものの、座面がやや短く、高めに調整してもヒール段差が少ないため、面圧がヒップに集中しやすく、下半身の支えが心許ないのも、既存モデルと同様だった。

フリースタイルドアの採用により開口部は大きいものの後席の乗降性・居住性には難あり

バッテリー残量をゼロにして、ロータリーエンジンを稼働させると……

ともあれ、ドライブモードはデフォルトの「ノーマル」のままマツダR&Dセンター横浜を出ると、「EVモデル」と同様にモーターのみで加速。エンジンの音も振動もない、静かな空間を保ったまま、粛々と市街地のストップ&ゴーを繰り返す。それでいながら、「EVモデル」よりも各段に乗り心地が洗練され、路面の凹凸をその大小問わず綺麗にいなすようになっていた。

直線基調のシンプルなデザインを採用した運転席まわり。ドライブモードの切り替えスイッチはシフトレバー右側に備わる。

なお、各モデルの車重は、ガソリン車(FF車)が1460kg、「EVモデル」が1650kg、「ロータリーEV」が1780kgと、「ロータリーEV」が「EVモデル」と比べても130kg重い。筆者の手元にある車検証上の前後重量配分は、「EVモデル」が前920kg:後730kg=56:44、「ロータリーEV」が前1090kg:後690kg=61:39と、後者の方が圧倒的にフロントヘビーでもあったが、発進時のトラクションのかかり具合も含めて好印象だった。

8C-PH型1ローターエンジンとMH型モーターを搭載する「ロータリーEV」のエンジンルーム

こうした印象は走行ステージを高速道路に移してもほぼ変わらず。電動車の宿命で、風切り音や荒れた路面でのロードノイズこそやや目立つようになるものの、オン・ザ・レールな走行感覚はむしろ際立ったとさえ感じられる。

テスト車両は215/55R18 95Hのブリヂストン・トランザT005Aを装着。アルミホイールは空気抵抗を低減した「ロータリーEV」専用デザイン

しかし、エンジンが始動しない。首都高速道路の合流や横浜横須賀道路の料金所などで急加速(といっても最高でも170psと260Nmなので1780kgの車重に対し不足気味だが)を試みても、「ノーマル」モードでは駆動用バッテリーの残量が、エンジン始動のしきい値である45%を下回らない限り、エンジンがかかりそうな気配すら感じられない。

「EVとしての使い方を拡張したシリーズ式プラグインハイブリッドモデル」というマツダ側の主張はなるほどその通りだが、新たなロータリーエンジンの感触を確かめないわけにはいかない。

そこでドライブモードを「チャージ」モードに変更。強制的にロータリーエンジンを目覚めさせたが……インパネ中央のディスプレイにシステム作動状態を表示させていなければ、エンジンが始動したことに気づかないほど、その静粛性は高く、振動も少ない。

舗装したての良路で注意深く耳を澄ませば、従来のロータリーエンジンとはかけ離れた「モワー」という低くくぐもった音がわずかに聞き取れるものの、何も気にせず運転していれば、誇張抜きでBEVさながらの運転感覚で走り続けられることが感じ取れた。

エンジン稼働中の「システム作動状態」表示画面

城ヶ島に着き、撮影を済ませたところで、運転を鈴木編集長に交代。帰路は後席左側に座り、前後席での乗り心地や静粛性の違いを確かめることにした。

そして鈴木編集長は、ドライブモードを「EV」に変更。早々にバッテリー残量をゼロにして、その後ロータリーエンジンを常に稼働させる作戦に出る。とはいえ運転を交代した時点でメーター上のバッテリー残量は43%、EV走行航続距離は34kmと表示されていたため、三浦半島のワインディングではEV走行に徹することに。

道幅が狭く路面の凹凸も大きいこの区間では、フィット感とサポート性に乏しいリヤシートの不出来さに少なからず苦しめられるものの、乗り心地や静粛性が前席より各段に劣るかと言えば、さほどでもないというのが率直な印象だった。

メーターパネルは燃料・バッテリー関連表示を除けば「EVモデル」に準じたデザイン

そして横浜横須賀道路に乗ると、朝比奈IC付近でバッテリー残量がゼロに。ついにロータリーエンジンがフル稼働状態に突入すると、前席よりも明確に、その低い排気音とかすかな振動を感じ取ることができた。

フィアットのツインエアのNVを格段に良くしたような感じ

その鼓動はフィアットの2気筒ターボエンジン「ツインエア」によく似ながらも、振動が圧倒的に少ないため、良くも悪くも「官能的」あるいは「エモーショナル」という表現からはほど遠い。

なお、ドライブモードを「EV」あるいは「ノーマル」から「チャージ」に切り替えると、独特の1ローターサウンドは一層強調されるようになるのだが、それでも決して音量や振動は不快なレベルには至らない。レンジエクステンダーとして黒子に徹する、そんなマツダ開発陣の強い想いがうかがえる仕上がりだった。

バッテリー残量がゼロになりエンジンが始動した直後の車内。後席からはロータリーエンジン本体のメカニカルノイズよりも排気音の方が明確に感じ取れた

だから、「ロータリーエンジンを搭載したマツダのクルマ」と認識し、期待タップリで運転すると、その余りに従来のロータリーエンジンらしくない振る舞いに拍子抜けしてしまう。それは、マツダとロータリーエンジンへの思い入れが強い人ほど、言葉を選ばずに言えばガッカリするはずだ。

だが、そうした先入観を一切捨て去り、努めて客観的に見ていくと、このクルマに対する評価は180度変わる。これほど限りなくBEVに近く、それでいて実質的な航続距離は約600kmと長く(試乗終了後のトリップメーター値は123.1km、航続可能距離は466km、燃費は41.4km/L、電費は6.1km/kWhだった)、また不快なクセを感じさせない走り味を実現したPHEVも、そうはあるまい。

マツダが初代CX-5以来一貫して、車種横断的に目指してきた「人馬一体」。それは「一切の違和感や不快感、クセを感じさせない走りと運転環境」と言い換えられるが、このMX-30ロータリーEVで、ようやくひとつの完成形にたどり着いた気がしてならない。

しかし、だからこそ、鈴木編集長と筆者は試乗終了直後、口を揃えてこう嘆息した。「これがCX-30だったら」と。

ボディカラーはジルコンサンドメタリック(2トーン)
マツダMX-30ロータリーEVインダストリアルクラシック(FF)
全長×全幅×全高:4395×1795×1595mm
ホイールベース:2655mm
車両重量:1780kg
エンジン形式:水冷1ローター
総排気量:830cc
エンジン最高出力:53kW(72ps)/4500rpm
エンジン最大トルク:112Nm/4500rpm
モーター最高出力:125kW(170ps)/9000rpm
モーター最大トルク:260Nm/0-4481rpm
使用燃料・タンク容量:無鉛レギュラーガソリン・50L
バッテリー種類:リチウムイオン電池
バッテリー総電力量:17.8kWh
WLTCモードハイブリッド燃費:15.4km/L
同市街地モード:11.1km/L
同郊外モード:18.5km/L
同高速道路モード:16.4km/L
WLTCモード充電電力使用時走行距離:107km
WLTCモードEV走行換算距離:107km
WLTCモード交流電力量消費率:176Wh/km
同市街地モード:165Wh/km
同郊外モード:168Wh/km
同高速道路モード:190Wh/km
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:215/55R18 95H
乗車定員:5名
車両価格:478万5000円

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…