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「いつかはクラウン」がクラウンセダン
「いつかはクラウン」という名コピーがある。
頑張って働いてきた証、成功の証としてのいいクルマがある。それがクラウンだった。
16代目クラウンは、長い伝統と多様化した価値観に向かい合うために、4つの車型を用意した。クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートである。先陣を切ったクラウンクロスオーバーが、シリーズの基本形だ。感性/理性、創造/基盤という尺度で言えば
感性・創造に振ったモデルがクラウンスポーツ
理性・基盤に振ったモデルがクラウンセダンとなる。
ちなみに今後ラインアップに加わるクラウンエステートは理性・創造に振ったモデルだ。
クラウンセダンに求められるのは、「ブランドの伝統と歴史を継承するニューフォーマルセダン」だ。トヨタブランドのフラッグシップの役割もクラウンセダンが担う。
プラットフォームは、ほかの3モデルと違う後輪駆動プラットフォーム「GA-L」を使う。ロングノーズと6ライトキャビン、水平基調のエクステリアは、まさにフォーマルセダンだ。
クラウンセダンのターゲットは、従来のクラウンユーザー、官公庁の公用車、企業の社用車(といっても、社長や役員用)だろう。ドライバーズカーとしての資質とともに、ショーファーニーズにも応えないといけない。つまり、後席の居住性だ。
というようなことを考えながらクラウンセダンと対面した。
全長×全幅×全高:5030mm×1890mm×1475mm ホイールベース:3000mm
のボディは、堂々としてもっとも「クラウンらしい」佇まいだ。ただし、5m超えの全長はこれまでのクラウンよりだいぶ大きい。4車型で5m超えはセダンだけだ。メルセデス・ベンツEクラスより大きいのだ。
2.5L直4マルチステージハイブリッドより水素
最初に試乗したのは、2.5L直4+マルチステージハイブリッドだ。じつは、これ、クラウンセダン用に仕立てられた新しいパワートレーンだ。これまで3.5L V6エンジンに組み合わせていたマルチステージハイブリッドを2.5L直4エンジンに換えて成立させた意欲的なパワートレーンだ。
開発陣に、なぜわざわざ2.5L直4と組み合わせたのか質問したら「水素燃料電池でカーボンニュートラルと言っているのに、3.5L V6というわけにはいかないでしょう」という答えが返ってきた。官公庁で公用車として導入する際にも「3.5Lというよりも2.5Lの方が受けがいい」ということもあるのだろう。
A25A-FXS型直4エンジンの後ろに4速AT(プラネタリーギヤセットをふたつ)組み合わる。モーター+エンジンの出力軸に変速機構を追加したことで駆動力を向上。これに疑似10段変速制御(そのうち4速は変速機によるリアルな変速)を組み込んでいる。
WLTCモード燃費は、18.0km/L……もなかなか優れた数字だが、高速道路モード燃費19.7km/Lが特筆すべきポイントだ。従来、高速走行は苦手とされたトヨタ・ハイブリッドシステムだが、このマルチステージハイブリッドは高速走行燃費を苦手としない。
とはいえ、2020kgでエンジン出力(185ps/225Nm)、モーター出力(180ps/300Nm)だから、有り余るパワー&トルクという感じではない。ちょっと車重が重すぎる? BEVではないのだから、なんとか2トンは切ってほしかった。同様に、5030mmの全長も5m以下に収めてほしかった。
市街地をひと回りしたあと、首都高速へ。後席にはカメラマンに座ってもらった。後席の第一印象は、いまひとつだった。あまり広くないし、つま先を前席の下に入れることができない。1000mmというカップルディスタンスの割には、膝周りが狭い。後席には、左右席は座面内のエアブラダー(空気袋)を膨張させることで乗員の背中から大腿部を押圧するマッサージ機能があるが、そもそも期待していたほどの広々感がないことが気になった。
次に試乗したのは、FCEV(水素燃料電池車)だ。
これがまったく別物のように、素晴らしい乗り味だった。静かで滑らか。車重は2000kだからハイブリッドモデルとほぼ同じ。モーターの出力も182ps/300Nmだから取り立ててパワフルなわけでもない。でも、FCEVモデルの方が、高級セダンとしての能力が高いように感じた。
ハイブリッドが悪いわけではない。FCEVがいいのだ。
後席に座ったカメラマンも、「こっちならずっと乗っていたいですね、静かで乗り心地もいいです」という感想だった。
FCEVの価格は830万円
ハイブリッドが730万円
だから、価格差は100万円だ。FCEV補助金を受ければ、価格差は縮まる。東京都なら110万円の補助金が得られるから価格は逆転する。
これは、もうクラウンセダンを選ぶならFCEV一択でしょう。となるのだが、もちろん水素インフラを考える必要がある。近くに水素ステーションがあるのなら、FCEVを選んで後悔することはない。官公庁の公用車ならなおさらだし、社長・役員用車としても水素の方がいいだろう。これまで定評のあったMIRAIのいいところにさらに磨きを掛けたのがクラウンセダンFCEVだ。
後席の居住性や乗り心地だけを考えるなら、アルファード/ヴェルファイアでいいじゃないか、という見方もある。そしていまやその方が主流なのもわかっている。が、「やはり後輪駆動のセダンでないと」というユーザーは存在するし、そうでないと乗り付けられない場所もあると思う。
このカテゴリー、いまや絶滅寸前で
クラウンセダン:ハイブリッド730万円 FCEV830万円
レクサスLS500h:1288万円
くらいしか国産車にはないのだ。公用車で1000万円超えは納税者の眼が厳しいだろうし、社長・役員用車としてはインポートカーは選びにくいという場合もあるだろう。となると、もう新型クラウンセダン一択なのだ。
船出したクラウンセダンにかかる期待は、おそらく販売台数の多寡によらず大きい。日本にはクラウンがある。そこがとても大事なのである。
トヨタ クラウン セダン2.5LハイブリッドZ 全長×全幅×全高:5030mm×1890mm×1475mm ホイールベース:3000mm 車重:2020kg サスペンション:Fマルチリンク式 Rマルチリンク式 エンジン形式:直列4気筒DOHC+ハイブリッド エンジン型式:A25A-FXS 排気量:2487cc ボア×ストローク:87.5mm×103.4mm 圧縮比:- 最高出力:185ps(136kW)/6000rpm 最大トルク:225Nm/4200-5000rpm 過給機:- 燃料供給:DI+PFI(D-4S) 使用燃料:レギュラー 燃料タンク容量:82L トランスミッション: モーター: リヤモーター 2NM型交流同期モーター 最高出力180ps(132kW) 最大トルク300Nm バッテリー:リチウムイオン電池 容量:4.3Ah 駆動方式:RWD WLTCモード燃費:18.0km/L 市街地モード14.4km/L 郊外モード18.4km/L 高速道路モード19.7km/L 車両価格:730万円 ブラックパッケージ19万8000円(245/45ZR20タイヤ+ヘッドランプモール漆黒めっき加飾/ロワーグリルモール/フェンダーガーニッシュ/ベルトモール/リヤバンパーモール) パノラマルーフ11万円、デジタルキー3万3000円、フロアマット7万3700円
トヨタ クラウン セダンZ(燃料電池車) 全長×全幅×全高:5030mm×1890mm×1475mm ホイールベース:3000mm 車重:2000kg サスペンション:Fマルチリンク式 Rマルチリンク式 FCスタック:固体高分子型 最高出力:174ps(128kW) セル数:330 接続方式:直列 燃料種類:圧縮水素 貯蔵方式:高圧タンク(3本) タンク容量:141L(前方64L+中52L+後方25L) 公称使用圧力:70MPa モーター: リヤモーター 3KM型永久磁石式交流同期モーター 定格出力:48.0kW 最高出力:182ps(134kW)/6940rpm 最大トルク:300Nm/0-3267rpm バッテリー:リチウムイオン電池 容量:4.0Ah 駆動方式:RWD 一充填走行距離:820km(参考値) WLTCモード燃費:148km/kg 市街地モード14.4km/L 郊外モード18.4km/L 高速道路モード19.7km/L 車両価格:830万円