復活したロータリーはマツダのDNAだが「相変わらず燃費が悪い」のか?環境対応としての存在意義は疑問

2023年、自動車業界のニュースとして忘れられないのがマツダ「RE(ロータリーエンジン)」が復活したこと。4ドアスポーツカー「RX-8」の生産終了から11年を経て、帰ってきたREを搭載したモデルが、RX-8と同じ観音開きドアを持つMX-30であったことは偶然ではなく必然かもしれない。はたして、プラグインハイブリッドの発電用エンジンとしてREを採用することにブランディング以上の意味はあるのか。その性能と可能性から考えてみる。
REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)PHOTO:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)/MAZDA

ノンストップで877kmを走れる電動車としての価値は高いが…

MX-30 ROTARY-EV

2023年の自動車業界を振り返ると、じつに多くのニュースがあった。年末にはダイハツ工業による認証関連の不正事案という自動車業界を揺るがすバッドニュースもあったことは記憶に新しい。

さて、年末の明るい話題となったのがマツダ・ロータリーエンジン(RE)の復活だ。同社のDNAともいえるREは、排ガス浄化や燃費といった環境性能を実現するのが難しいということで、いったん新車ラインナップから消えていたが、スタイリッシュなSUV「MX-30」の追加モデルMX-30 Rotary-EVに搭載されたのはご存じの通りだ。

MX-30 Rotary-EVのメーカー希望小売価格は423万5000円~491万7000円となっている。コンパクトなクロスオーバーSUVの電動車としてみると割高な印象もあるが、帰ってきたREを所有できる金額としては十分にリーズナブルというのもファンの偽らざる思いかもしれない。

MX-30 Rotary-EVはベースモデルのMX-30と同じくフロント駆動となっている。そのため、通常のエンジンベイに発電用モーター、駆動用モーター、エンジンを積む必要がある。けっしてボディサイズに余裕のあるMX-30ではないが、こうしたパッケージを実現できたのはREが通常のレシプロエンジン(ピストン往復エンジン)に比べてコンパクトに作れるからというのが、マツダの説明だ。

発電用ロータリーエンジンを組み合わせたコンパクトな電駆ユニットと、17.8kWh のリチウムイオンバッテリーを搭載。

そのメカニズムをおさらいすると、新開発された排気量830ccのシングルロータリーエンジン「8C」を発電用に使い、最高出力125kWの駆動モーターを搭載、17.8kWhのバッテリーを積んだプラグインハイブリッドカー(PHEV)。外部充電だけで107kmの走行が期待できるため、日常的には純EVとして使え、長距離移動においてはREによる発電を利用してロングレンジを走ることができるという二面性を持つ。

充電した電力がなくなったのち、REで発電して走るときのハイブリッド燃費は15.4km/Lと発表されている。燃料タンク容量は50Lとなっているので、WLTCモードで計算すると、電気と燃料を使い切るとして、877kmをノンストップで走れる能力を持つというわけだ。

これまでのMX-30にないブラックを持つ「Natural Monotone」は478万5000円

市街地燃費はWLTCモードで11.1km/Lと他のPHEVより大幅に悪い

新開発されたMX-30のREについて、事前情報では「従来のREより環境性能が進化した」という評判だった。しかし、前述したハイブリッド燃費15.4km/Lというのは、PHEVの中で比べても良いほうではなく、むしろワーストランキングに入ってしまう数値だ。とくに市街地モードでの燃費は、はっきり悪いといえる。

●MX-30 Rotary-EV WLTCモード燃費
市街地モード:11.1km/L
郊外モード:18.5km/L
高速道路モード:16.4km/L

モード燃費の数字を素直に受け取り、計算すると市街地走行だけでは満充電・満タンから662kmで電欠・ガス欠してストップすることになる。そもそも11.1km/Lという市街地モード燃費はハイブリッドカーとしてはあり得ないほど極悪だ。

2023年12月にはトヨタがクラウンスポーツPHEVを発表している。2.5Lエンジンを積み、前後をモーター駆動することでシステム最高出力225kW(306PS)を誇るクラウンスポーツPHEVのWLTCモード・ハイブリッド燃費は20.3km/L。市街地モードだけを見ても17.5km/Lとなっている(郊外モード:21.5km/L、高速道路モード:21.0km/L)。

さらに燃費自慢のトヨタ・プリウスPHEVの2.0Lプラグインハイブリッドシステムが実現しているWLTCモード・ハイブリッド燃費は26.0km/L。市街地モードは23.7km/LとMX-30 Rotary-EVの倍以上となっている。ちなみに、郊外モードは28.7km/L、高速道路モードは25.5km/Lだ。

MX-30と同じく、マツダがラインナップしているPHEVであるCX-60のWLTCモード・ハイブリッド燃費を見ると、総合値が14.6km/Lで、市街地モードが11.1km/L、郊外モードが15.7km/L、高速道路モードが16.0km/Lとなっているので、マツダとしてはMX-30 Rotary-EVの燃費性能は悪くないと考えているのかしれないが、ユーザー目線でフラットに比べてみると、「相変わらずロータリーの燃費は悪い」という印象しかないといえるのではないだろうか。

新開発「8C」エンジンの単体スペックは最高出力53kW/4500rpm、最大トルク112Nm/4500rpmとなる。

2ローターPHEVの燃費性能は推して知るべし、存在意義は雑食性にある

マツダは、2023年秋に開催されたジャパンモビリティショーにて「アイコニックSP」という非常にスタイリッシュなスポーツカーのコンセプトモデルを展示した。そのパワートレインは2ローターREのPHEVを想定しているとアナウンスされている。

しかしながら、シングルロータリーエンジンを積んだMX-30 Rotary-EVのハイブリッド燃費を見ると、そのままの技術で2ローター化したときの燃費が現在の基準で良好といえるレベルになるとは、とても思えない。外部充電によるゼロエミッション領域で走行しているうちはいいが、燃料を使い始めると、とたんにかつてのREと同じ「ガスイーター(燃費の悪い)」なクルマになってしまうように思える。

はたしてマツダREに未来はあるのだろうか。

ポジティブな可能性としては、いい意味での「雑食性」が環境対応のポイントとなるだろう。

水素を燃料として使うことのできるバイフューエルタイプのREは、過去に公道実証実験が行われているが、その際に水素燃料電池に対するアドバンテージとして「燃料電池は水素純度が非常に高くなければシステムに悪影響を及ぼすが、水素REは多少の混ざりものがあっても問題なく燃やすことができる」というものがあった。また、アルコールを主体としたバイオ燃料との相性がいいとされているのもREの特徴だ。

もちろんガソリン仕様のまま水素やバイオ燃料を使えるというわけではないが、カーボンニュートラルモビリティのソリューションは再生可能エネルギーによる電気だけではないのも事実。様々なカーボンニュートラル燃料に対してアジャストしやすいというREのメリットを活かすことができれば、現状では課題となっている燃費性能のネガなど吹き飛んでしまう……マツダのDNAはそう囁いているのかもしれない。

「アイコニックSP」という名前が示すように、大変革期におけるマツダの象徴を示す。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…