新型N-BOX、ボディカラーだけでクルマを欲しいと初めて思った一台

【 2023年、今年のクルマこの1台】というテーマで印象に残ったクルマを振り返る当企画、自動車コラムニストという立場で活動しているためモータージャーナリストのようにあらゆる新型車に試乗するわけではないという山本晋也 氏が、2023年に感じたのは「熟成の力」だという。2023年に、一番欲しいと思ったクルマであるホンダN-BOXを例に挙げつつ、その真意について語ってもらおう。

REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)PHOTO:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)/SUBARU

財布の紐が緩むのはN-BOXファッションスタイル、オータムイエロー・パール一択

新型N-BOX(左)と、新型B-BOXカスタム(右)

【 2023年、今年のクルマこの1台】というお題で一年を振り返ってみて、あらためて思うのは新型N-BOXのインパクトが大きかったこと。

新車販売において日本一の台数を続けているN-BOXは万人に勧められるモデルであることに異論はないでしょう。そんなN-BOXがフルモデルチェンジをしたことは、言うまでもなく2023年のビッグニュースといえます。

実際に3代目となった新型N-BOXを運転したり、後席に座ったりしてみても、日本一の称号にふさわしいだけの実力モデルであることは実感できました……ということであれば、「N-BOXが2023年を代表する1台です」という当たり前の結論になってしまうと思うかもしれません。

しかしながら、N-BOXに魅力は、そうしたクルマとしての総合的な出来の良さだけではありません。

新型N-BOX

個人的には、N-BOX標準車の上級グレードにあたる「ファッションスタイル」専用カラーとして用意された『オータムイエロー・パール』だけにフォーカスしても、N-BOXは新車で購入したくなるだけの魅力を持っていると感じます。

ファッションスタイルの専用装備であるオフホワイトのドアミラーやドアハンドル、そしてオフホワイト+ブラック+ボディカラーという3色仕上げのホイールキャップと組み合わせられたオータムイエロー・パールは、新型N-BOXのスタイリングに似合った、キャラクターを象徴している色というのが第一印象でした。

新型N-BOX

そして、N-BOXに公道試乗して感じた「丁寧な作り込み」であったり、圧倒的に静かでスムースな「優しい走り味」といった新型の持つ世界観とのマッチングにおいても「オータムイエロー・パール」は高いマッチングを見せていると感じたのでした。

素直な気持ちで『オータムイエロー・パールのN-BOXファッションスタイルが欲しい』と思ったのです。ファッションスタイルFF車のメーカー希望小売価格は174万7900円。軽自動車としてはけっして安いとはいえないかもしれませんが、スタイリングと走り味とボディカラーの絶妙なマッチングを考えれば、十分に価格以上の価値があると個人的には考えます。

第三世代N-BOXのイメージカラー「オータムイエロー」が選べるのは標準系「ファッションスタイル」グレードのみ。FFの価格は174万7900円となる。

エンジンもプラットフォームもキャリーオーバーとは思えない走りの深化に驚いた

新型N-BOX

新型N-BOXの走りは静かで快適という、落ち着いたキャラクターだけではありません。

ホンダ伝統のVTEC(可変バルブリフト機構)とVTC(可変バルブタイミグ機構)を組み合わせた「i-VTEC」メカを採用したNAエンジンは、回していったときにホンダミュージックを感じさせる瞬間のあるホンダらしいエンジンとなっています。

市街地走行ではエンジンの存在を感じることなくしずしずと走るN-BOXが、高速道路の合流や追い越し加速といったシーンにおいて、4500rpmを超えてくると古き良きホンダエンジンを思わせるフィーリングを見せてくれるのは、隠れたファンサービスといえるのではないでしょうか。

さすがに、かつてのVTECホットハッチのようなハンドリングは期待できませんが、ステアリング操作に対するリニア感は十分にマシンを操っている感覚が楽しめます。元気よく走るくらいの領域であれば、N-BOXはその背高フォルムのネガを感じさせません。

新型N-BOX

とはいえ、新型N-BOXについてはエンジンもプラットフォームも、基本的には従来モデルから大きく変わっていないキャリーオーバーといえる内容。それでいて、静粛性、走り味の気持ちよさなど全体的にレベルアップしているのは驚きです。

キャリーオーバーだから基本的に変わっていない、のではなくメカニズムの基本を変えずに熟成させたからこそ、全体としてレベルアップを果たすことができたのかもしれません。

VTECとVTCを併用する「i-VTEC」を搭載したホンダらしいNAエンジン。スペックは43kW(58PS)、65Nmとなる。
純正アクセサリーの「サンシェード内蔵 大型ルーフコンソール」はワンタッチでフロントウインドウをシェードで隠せるというアイデアグッズ。N-BOXを欲しいと思わせる引力のあるアクセサリーだ。

インプレッサも熟成の力を感じた一台。FFの走りが秀逸になっていた

ご存じのように、グローバルには、クルマは電動化に向かって進んでいます。近年の電動化というのはエンジン車の延長にあるハイブリッドではなく、まったく異なるアーキテクチャーから生まれるEV(電気自動車)へのシフトを意味しています。

しかし、いきなり大衆向けモデルをEVにシフトするのは色々な問題が起きえます。

第一に、エンジン車を買ってきたようなユーザーの許容範囲となる価格を同クラスのEVで実現することが難しいのは、ご存じの通りでしょう。そうなると自動車メーカーとしては、EVのコストダウンを目指した技術開発にリソースを割くことが求められるともいえます。

逆にいえば、こうした状況において純エンジン車の開発リソースは抑えるしかなく、完全に新しいアーキテクチャーを生み出すというよりも、現状のエンジンやプラットフォームをブラッシュアップしながら、EVシフトまで一線級の性能を持たせるということが自動車メーカーのインセンティブとなることは容易に想像できます。

N-BOXがフルモデルチェンジで示した、基本メカニズムをキャリーオーバーして熟成を進めることで圧倒的な魅力を高めるという手法は、2020年代後半に向けてエンジン車、マイルドハイブリッド車では定番の手法になっていくかもしれません。

その意味では、2023年に触れることのできたクルマの中で印象に残っているもう一台がスバル・インプレッサです。

インプレッサについてはプロトタイプをサーキット(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)で乗っただけなのですが、エンジンやマイルドハイブリッド機構、プラットフォームといった基本アーキテクチャーは従来のまま熟成を進めることにより、圧倒的に曲がりやすく、気持ちよいハンドリングに進化していたことを、新旧比較試乗で確認することができました。

スバルの新型インプレッサについてはプロトタイプをサーキット試乗したことしかないが、そのシチュエーションにおいてはAWDよりFWDの気持ちよい走りが際立っていた。

N-BOXと同じくインプレッサにおいても「熟成の力」がクルマの魅力を高めることを実感できたのは、2023年というタイミングだからこその必然だったのかもしれません。

そして驚いたのは、新型インプレッサにおいてはFFの軽快さが際立っていたこと。インプレッサといえばAWD(全輪駆動)のイメージが強いモデルですが、ことサーキット試乗においてはFFのハンドリングが圧倒的にスポーティだと感じました。

熟成したシャシーにより、後輪の接地感に優れているためFFであってもリヤが不安定という感じは皆無。車重が軽く、駆動系のフリクションが少ないため加速は鋭く、AWDと比べてもFFのハンドリングがシャープに感じられたは驚きでした。

個人的には、2023年のベストハンドリングカーは、スバル・インプレッサのFFでした。こちらも【 2023年、今年のクルマこの1台】というテーマで、お伝えしておきたい忘れがたい事実です。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…