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車重2トン超えのBEVは受け入れ難い
今年も数多くのニューモデルを乗ってきた。一年を振り返ってみると電動車が続々と登場してきて、その乗り味にもすっかりなれた。2022年頃までは静粛性の高さと、伸びのあるパワーフィールに感動したものの、最近になるとどれも似たり寄ったりな乗り味な上に、航続距離が伸びれば重く、軽いドライブフィールを持つ物は実用性に欠けるなど、どうしても馴染めない。環境性能も大事だけど、動力源をたどれば高い電気代にたどり着くし、車重2トンを超すクルマが、ちまたに溢れることを考えると受け入れがたい。
そんな思いがたまっていたせいか、今年は純エンジン車に心惹かれた。V8・5.0L搭載のレクサスのRCFやLC500、IS500。BMWの直6・3.0Lターボのパワーをリヤ駆動で受け止めるM2や国産ではV6ターボのスカイライン400RやNISMO。逆にフロント2輪駆動で300psオーバーのターボユニットを積むホンダ・シビックタイプRなど、振り返ってみれば心惹かれるモデルは多く存在する。
電動化の波が押し寄せるなかで息を潜めているが、乗ってみればやっぱりいい。くるくる回っているモーターに対して、精度の高い多くの部品と火種を元にパワーを引き出す過程はドラマチックだ。エンジンというユニットには小さい物から大きな物までひとつひとつに役割があって、そのすべての部品が規律正しくバランス良く機能することでようやくクルマという物体を動かすことができる。
アクセルのひと踏みのなかに、気密室に送り込まれた空気や混合気に火が入れられ、燃焼力によって生まれた上下運動が回転運動に変わって、パワーを可変に生み出すというストーリーが隠されている。モーターにそんな精緻で繊細な物語は生まれることはなく、感動も希薄。すでに食傷気味なのも仕方ない。
古いシャシーなのに……スカイラインNISMOに心奪われた
日産の老兵スカイラインは、そんな新しい時代に鞭打って生まれ変わったのがスカイラインNISMOだ。鞭の主はレースファクトリーのNISMO。レースエンジン同様に開発の台上に上げられたスカイライン400Rのパワーユニットは405psから420psへとパワーアップし、トルクも550Nmまで引き上げられた。組み合わされるミッションはフェアレディZの9速ATに対して7速ATと旧仕様ながらもスポーツモードでは専用ロジックを採用することで、ターボユニットの特性を最大限に発揮。小刻みにシフトを繰り返さないことで、過給を安定させ、常に太いトルクの波に乗る。
足元もタイヤを前後異形サイズの上にパターンまでも異なるものを採用。非ランフラット化に加えて、ホイールサイズをワイド化させることで路面変化に強くて柔軟な接地性を身に着けた。テストコースでの感動そのままに、街中に持ち込んでみると、その印象はさらに上回った。
ひと言で言うなら、スポーツハンドリングはもちろんのこと、実用性が高い。乗り心地が思いのほか良いのだ。足元が軽くて外乱に強いことから、ボディが悪影響を受けない。ベースとなった400Rはひと踏みするたびにお尻がくすぐったいほどに落ちつかず、じゃじゃ馬ぶりを見せたが、スカイラインNISMOは進路も操作も乱されることがない。フラット感を保って軽々と行きたい方向に身を寄せていく。
エンジンも軽々と回る上にカバーレンジが広いミッションが息の長い加速を生み出してくれる。軽い上に伸びがあって純エンジン車のパワーフィールを存分に味わえる。シフトアップ後のトルク感に不満はなく、ターボならではの粘り強さも味わえる。
古いシャシーにもかかわらずボディやサスペンション、そして、タイヤには大なたを振るい、軽さと正確さを持つFRモデルとしてリベンジ。
電動化への最後の抗いとして、老兵の戦いぶりは見事。純エンジンに再び惹かれた昭和世代にとっては、心奪われるばかり。今年の一台としてあげるなら、純エンジン車とその代表モデルとしてスカイラインNISMOを選びたい。
日産スカイラインNISMO 全長×全幅×全高:4835mm×1820mm×1440mm ホイールベース:2850mm 車重:1760kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式 駆動方式:後輪駆動 エンジン形式:V型6気筒DOHC直噴ターボ 型式:VR30DDTT 種類:筒内直接燃料噴射V型6気筒(DOHC) 排気量:2997cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 圧縮比: 最高出力:420ps(309kW) 最大トルク:550Nm 燃料:プレミアム 燃料タンク:80L トランスミッション:マニュアルモード付フルレンジ 車両本体価格:788万0400円