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いま日本で一番売れている軽自動車「ホンダ N-BOX」と、時を同じくして新型となった「スズキ スペーシア」。ここではライバル同士の違いを比べてみることにしよう。
まず両者でハッキリと異なるのは、走りの質感だ。
N-BOXで特徴的なのは、ボディ剛性の高さ。かたやスペーシアで一番強く感じるのは、身のこなしの軽さである。
N-BOXの熟成された乗り心地と操縦安定性
ホイール&タイヤサイズによる走りの違いは?
通算三代目となったN-BOXのプラットフォームは、先代からのキャリーオーバー。ボディの骨格やプラットフォーム、フロアの構造は同じままに、ダンパーや電動パワーステアリングのさらなる磨き上げによって、乗り心地と走安性を熟成させる方向を選んだ。
ただそのボディの中身は、同じようで実は少し違う。今回N-BOXは衝突安全性能を大きく向上し、JNCAPの評価で五つ星を獲得した。開発陣は側面衝突要求に対応するべく、センターピラー上部のハイテン率(ハイテンションスチール率)を上げ、付け根部分の板厚を増やした。
しかし剛性値そのものは先代モデルのバランスが非常によかったため、他の部分を弱めることでバランスを取った。弱めると言うとネガティブな印象になるが、強化した部分だけが突出しないようにしたわけだ。そしてこれが、かなり大変だったのだという。
こうして得た五つ星ボディに対してN-BOXは、14インチ仕様車と15インチ仕様車のダンパー減衰力を、それぞれ別仕立てにしている。
ちなみに2車の作り分けは先代から行っているのだが、今回五つ星ボディに対して14インチ仕様車は、マッチングが良かったことから先代で使ったダンパーをキャリーオーバー。対して15インチ仕様車はロールが増えて挙動が大きくなる傾向があったため、新たに仕様変更を施したのだという。
そして電動パワーステアリングの制御にも、それぞれの特性に合わせてチューニングを施した。だからN-BOXの場合は、14インチ仕様車と15インチ仕様車のキャラクター差も、かなりある。14インチは街中での乗り心地もよく、ハンドリングも穏やかだ。しかしおおよそ70km/h以降の速度域に入って来ると、その操舵応答性が鈍くなる。
対して15インチ仕様(つまりカスタム)の操舵フィールは非常に素直で、高速巡航時も操舵追従性がリニア。またタイヤが大径化しても、街中での乗り心地は悪くなっていない。さらにこれがターボになると、動力性能にも余裕が出てくる。
結果的にはカスタムの方がリニアで、標準車の方が穏やかな操縦性となったが、本来であれば標準車のダンパーもこのボディに合わせて、カスタムと同じリニアな特性を与えてた方がよかったのではないかと思う。限られた予算の中で今回は、14インチ用ダンパーの開発をしなかったことがその差につながったと感じた。
N-BOXより30kg軽い! 軽さが身上のスペーシアはフットワークも軽快
スペーシアに乗って感じるN-BOXとの一番の違いは、前述した通り身のこなしの軽さだ。実際その車重を比較しても、14インチの「HYBRID X」(880kg)とN-BOX(910kg)で30kg、ターボエンジンの「HYBRID XSターボ」(910kg)と「N-BOX CUSTOM ターボ(940kg)でも30kg違うが、その上でフットワークがキビキビしている。
そこには、まずホイールベース長の違いがあるだろう。ちなみにN-BOXが2520mmで、スペーシアは2460mmだ。そしてスペーシアは14インチ仕様車と15インチ仕様車で、足周りを共用しているからだと思う。つまり車重に限らず全てのグレードをカバーする、中庸なサスペンションセッティングが採られている。
全体的にキビキビとした印象になっているのだが、それがより軽い自然吸気モデルでは顕著になる。だから若々しい乗り味を求めるなら、スペーシアがいい。足周りがシッカリとしているから、高速巡航時にアダプティブ・クルーズ・コントロールを使っても、N-BOXほど操舵支援時の修正舵が入らない。
対して乗り心地は、N-BOXよりも悪路での突き上げが厳しくなる。ただそれは前席での話で、後部座席の乗り心地に関してはN-BOXも、軽自動車の域を出ていない。根本的なリアサス剛性の低さや少ないサスペンションストロークに対して、スーパーハイトワゴンの重心の高さは、そろそろ限界が来ているように感じる。
その点で言うとスズキは「ソリオ」を用意して上級移行の道を開いているが、ホンダはリッターカーにトールワゴンを持っていない。あまつさえN-BOXが、身内のフィットを食ってしまっているのが現状だ。
エンジンはトルクの出し方とCVTの制御において、ホンダに若干軍備が上がる。少ないアクセル開度で推進力を出して、スーッとタイヤを転がして行く静粛性の高さが、NA/ターボに限らず得られている。
スズキはその点でエンジンサウンドを迷わず聞かせてくるが、前述した身のこなしとそのフィーリングは相性が良く、上質さには欠けるけれど嫌みがない。ロードノイズもうまく遮音されているし、すっきり爽やかである。
インテリアはN-BOXの方がシンプルで、デザイン的なノイズが少ない。比較するとスペーシアの方がその配色も含めて賑やかだが、実際に座ってみるとこれが悪くない。
コロナ禍を経験して「クルマの中でくつろぐ」というテーマに気付き、ダッシュボードをトレー形状にしたのはなかなかなアイデアだ。ベンチシートだからクルマを停めればサッと助手席側へ移動して、ご飯を食べたり一息ついたりできる。
ホイールベースが短いにもかかわらず室内長は、N-BOXの2125mmに対してスペーシアが2170mmと広い。また単純な広さだけでなく、生活へ寄り添い方はスズキの方がユーザーに近いと感じた。
※室内長はそれぞれカタログ記載のメーカー計測値
オットマンとして使える「マルチユースフラップ」はクッションの厚みもしくは形状の改善を望むが、やはり魅力的な装備だ。
ピクニックテーブルには「タブレットストッパー」として溝が切ってあり、待ち時間はくつろぎながらタブレット端末や携帯を立てて動画を楽しむこともできる。ドリンクホルダーにマグカップ用の切り欠きが付いているのも、子育て世代には嬉しいポイントだ。
こうしたあの手この手で、スズキはユーザーをワクワクさせてくれる。
質感とユーティリティ、そして価格……両車の実力は伯仲
価格的にはN-BOXが164万8900~236万2800円、スペーシアが153万100円~219万3400円で、質感の高さの分だけN-BOXの方が価格も高めか。とはいえ価格と内容を精査して行けば、どちらからもコストパフォーマンスの高いグレードが見つけられるだろう。
N-BOXとスペーシアは、今回もがっぷり四つの取り組みだ。そしてこれからも、ぜひガチンコで行って欲しい。