今でこそステップワゴンが人気のホンダ。そのご先祖に当たるのが1972年に発売された軽自動車のライフ・ステップバン。水冷2気筒OHCエンジンやサスペンションなどを乗用車のライフから流用しつつ、1ボックススタイルの商用車として開発された。兄弟車として運転席から後ろを荷台としたライフ・ピックアップも存在した。ステップバンは新車時、あまりヒットしたとはいえず2年ほどの期間だけ製作された。ところが’70年代後半から’80年代にかけて、サーファーなどから人気が集まり再注目された。同時にカスタムベースとしても人気となり、今でも数多くの台数が残っている。
旧車としても人気がある車種でワンメイククラブも存在する。可愛らしいスタイルは今見ても新鮮で、飽きることがない。そんなステップバンを過去にレストアしたのが東京自動車大学校。クオーターウインドーを埋めるなどカスタムされた個体を入手して、学生たちがレストアの勉強をする素材としたのだ。下の写真で白黒な姿が入手時のもので、右の黄色く塗装された姿が最初のレストア時のもの。今回の東京オートサロンに展示されたのは、さらにもう一度レストアした成果なのだ。製作のテーマは「アソビゴコロ」で、単にレストアするだけでなく荷室に手作りのクレーンゲームを設置。予算が限られていたため、使ったギアやチェーンは自転車の廃品を利用したのだとか。
以前にレストアしてあるため、同じことにしても面白くない。そこで入手時からカスタムされていたボンネットダクトを作り直したり、アルミホイールを手に入れリペアすることで13インチへインチアップする。また外装はブリティッシュレーシンググリーンをイメージしたグリーンメタリックとしつつ、内装にも英国車をイメージした革張り仕様へカスタム。また「ルーフラックを付けたい」という学生からの提案により、鉄パイプを自分たちの手で曲げ、溶接加工することでワンオフ製作している。
レストアする際には部品を脱着する作業が含まれる。今回は足回りをローダウンするため分解して採寸すると、どうもスズキ・キャリイのものと近いことが判明。そこで純正のままだと抜けてしまう可能性があるアッパーマウントごと合わせてみると、見事にピッタリだった。アッパーマウントの取り付け部だけ加工する必要はあるものの、比較的簡単に部品を流用することを発見した。
英国車を意識したインテリアは、純正のシートやダッシュボードを採寸してビニールレザーから切り出したものを使っている。ステップバンのダッシュボードは上で伝票に記入するような使い方を考慮して、硬質で平らな素材となっている。そこでビニールレザーを被せるだけでなく、内部にスポンジを忍ばせることによりクッション性を持たせた。スピードメーターパネルも表面を研磨しつつ、再塗装することで上質な仕上がりにしている。またカーペットがなかったため、ホームセンターで素材を入手してフロア形状に合わせてカット。端を縫って補強している。
ステップバンに限らず360cc時代の軽自動車は、そのほとんどで10インチのタイヤ・ホイールを採用していた。そこでローダウンと当時に13インチのブラックレーシングを履かせることで、現代的な仕様へモディファイされている。特筆すべきはボディの塗装技術で、通常ならガンで吹いた後に磨いたりクリアを塗り重ねるのだが、学生たちが奮起してクリアを1度だけのガン吹きで済ませている。いわば一発勝負だったわけで、なおかつ部位により塗装する作業者が異なる。それでもご覧の仕上がりになったのは、作業を指揮した教員が優れているためだろう。担当された三枝弘さんは筆者が旧車雑誌の編集部に在籍していた当時、旧車オーナーとして取材させていただいた方。旧車に対する理解が深い人だからこそ、指導方法も適切なものだったのだろう。