1970年にモデルチェンジした3代目スズキ・フロンテは画期的な存在だった。それまで空冷だったエンジンを水冷化するとともにリッター当たり100psとなる最高出力36psを達成。エンジンをリヤに搭載するRRレイアウトを先代から継承していたため、前後独立懸架サスペンションを採用することでスポーティなハンドリングが楽しめた。この性格をさらに推し進めたのが1971年に追加されたフロンテクーペだ。この時代は軽自動車にもクーペスタイルの採用例が増えていたが、ここまで先鋭的なスタイルは完全に振り切れていた。全高はわずかに1295mmでしかなく、しかも発売当初は2シーターのみ。実用性よりスポーツカーとして割り切って開発された。
発売後に2+2のGXFやデチューンした廉価版も追加されることになるほど人気を獲得したフロンテクーペは、1972年に究極的なグレードが発売される。フロントにディスクブレーキを採用するGXCFが登場するのだ。この当時の軽自動車は前後ドラムブレーキが当たり前。フロントのみとはいえディスクブレーキを採用したのはフロンテクーペとホンダのライフ系車種くらいなもの。そのため軽自動車によるレースでもホンダ対フロンテクーペという構図が成立したほどだ。
近年、国産旧車を数多くレストアして東京オートサロンに展示するのが恒例となっているエンドレス。ブレーキやサスペンションを開発販売する大手メーカーであるエンドレスは、各種モータースポーツにも参戦していることで知られる。さらに昨年お亡くなりになった花里功会長の趣味でもある旧車をレストアして東京オートサロンに展示することも事業化。これらレストア車は130コレクションとして長野県佐久市にある本社に展示されている。入場料こそ必要だが、貴重なレストア車やレーシングカーを見学できる。
毎回、どんなクルマをレストアしてくれるのか楽しみでもあったエンドレスのブースに、今回は黄色く塗装されたフロンテクーペが展示され目を引いた。自社工場でレストアしているだけに妥協のない仕上がりであり、全塗装しただけやエンジンをオーバーホールしただけという内容の伴わないレストアとは次元が異なる。まさにレストアという言葉通りの内容であるのだが、さらに特徴はエンドレスらしさが随所に発揮されていることだろう。エンドレスといえばブレーキやサスペンションの開発。そこでレストア車には自社製のブレーキやサスペンションが装着されるのが恒例なのだ。
フロンテクーペは最上級モデルであるGXCFにフロント・ディスクブレーキを採用していた。そのためブレーキキャリパーやディスクローターを変更しても、違法にならない。構造が変わらないため改造申請する必要がないのだ。そこで今回のフロンテクーペにもエンドレス製4ポットキャリパーが組み込まれた。ただし、4ポットキャリパーは純正の10インチホイールでは収まらない。そこでRSワタナベ製の12インチホイールを履かせている。インチアップ効果も得られるが、12インチにすることでタイヤの選択肢も広がる。カスタムの好例といえるだろう。もちろんサスペンションもエンドレスによるオリジナル専用スプリングを装備している。
美しく仕上げられたエンドレスによるフロンテクーペは、さらにチューニングが施されている。純正の356ccエンジンから400ccにまで排気量を拡大してあるのだ。吸気こそ純正の3連キャブレターをオーバーホールして使っているが、排気系はFUJITSUBOによる特注品とされている。2ストロークエンジンは排気系のチャンバーを変更することで大幅なパワーアップを実現できる。ただし性能ばかり追い求めると音や排ガスなどの理由から車検に合格しない仕様になってしまう。そこで多大なノウハウを持つFUJITSUBOへワンオフ依頼をしたのだろう。チャンバーは気筒ごとに出口まで独立させることが多いが、このFUJITSUBO製は最後の最後で集合させている。これも環境性能のためと思われる。単にカスタムするだけでなく、しっかり車検に適合する仕様とすることも旧車のレストアに求められるところだ。