意外と知らない、ダイハツ不正問題で話題の「型式指定」って何だ?取り消されると何が困るの?

ダイハツの不正に対して国土交通省は「型式指定の取消処分」という制裁措置を取った。これにより、ダイハツが生産するグランマックス/タウンエース/ボンゴの各トラックモデルは実質的に販売ができなくなったという。では「型式指定」がないと新車販売ができない理由とは? あらためて整理してみよう。

REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

型式指定を受けたクルマは書類だけでナンバーが取得できる

衝突試験においてエアバッグを非正規の方法で展開するという不正が発覚したタウンエース(トヨタ)。グランマックス(ダイハツ)/ボンゴ(マツダ)は兄弟モデルとなる

ダイハツ工業の不正によって、グランマックス/タウンエース/ボンゴの各トラックモデルが型式指定の取消処分を受けた。これは自動車メーカーとしては、最上級に重い処罰といえるが、そもそも「型式指定」はなぜ新車販売において必要なのだろうか。

まずは、日本政府(国土交通省)による制度の説明から見てみることにしよう。

型式指定制度とは…
自動車製作者が自動車の生産又は販売を行う場合に、予め国土交通大臣に申請を行い、保安基準の適合性や品質管理(均一性)についての審査を受け、型式の指定を受ける制度。型式の指定を受けた自動車については、新規検査における現車提示が省略される。

日本に車検制度があるのは、ナンバーを取得して公道を走っているクルマは保安基準に適合していることが法律で求められているからといえるが、本来の制度設計では新車時にナンバーを取得する際にも保安基準を満たしているかを確認するために車検を通す必要がある。

車検証の赤枠で囲んだ部分が型式を指定された番号となる。

しかし、それではあまりにも手間がかかる。

そこで、自動車製作者(メーカー)が衝突試験や排ガス試験などを行い、保安基準に適合した状態であることを国土交通省に申請、国土交通省や関連機構が保安基準適合性を確認すると同時に、均一性(同じものを一定の品質で作れるかどうか)の判定を行った上で、問題ないとなれば「型式」が指定されるという流れになっている。

型式指定がなくとも「持ち込み登録」でいちいち車検ラインを通せばナンバーを取得することもできるが、数千~数万台レベルの量産車でそれを行うのは現実的に不可能なので、新車販売には型式指定が必要となる。

そして型式指定を受けた車種については、『新規検査における現車提示が省略』できる。いちいち車検ラインを通さなくともナンバーをつけることが認められるということになる。

ただし、型式の指定を受けていないクルマが販売できないわけではない。一台ごとに車検ラインを通すことを前提として販売は可能といえる。台数の限定された輸入車や、国産でもコンプリートカーのような車種においては「持ち込み登録」という手法によってナンバーをつけている。持ち込み登録=現車表示をしている、というわけだ。

型式指定がなくとも、すべて持ち込み登録しようとすれば販売することは可能かもしれないが、数千~数万台のレベルで販売するクルマにおいて、そうした業務フローは事実上不可能に近い。つまり、日本国内で新車を多量に販売しようと思うと「型式指定」を受けていることはマストといえるのだ。

例えば、日産車のコンプリートカーを手掛ける「オーテック」は、日産が届出を行ったクルマをベースに仕様変更(改造)をしているため、クルマを運輸支局に持って行き「持込み登録」でナンバーを取得する。持込み登録の車検証では、『型式指定番号』と『類別区分番号』の欄が空欄となる。

ダイハツの不正は「自動車認証制度の根幹を揺るがす行為」

そもそも、型式指定の指定というのは「自動車(の型式)認証制度」の主たるソリューションといえる。そして「自動車認証制度」というのは、日本国内において安全性や環境性能を満たしていない自動車が使用されないために存在している。まさに自動車が社会において認められるための根幹となる制度だ。

今回、ダイハツ工業の不正について、立入検査により新たな不正を見つけた国土交通省は以下のような厳しい表現を用いて批判している。

自動車ユーザーの信頼を損ない、かつ、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、今回更なる不正行為が明らかになったことは極めて遺憾です。

グランマックス/タウンエース/ボンゴの各トラックモデルが型式指定の取消処分を受けた理由は、型式指定の申請において不正が行われており、保安基準に適合していると認められなくなったからだが、その大きな理由は衝突試験においてエアバッグをタイマー着火により作動させていたというものだ。

再度実施されたグランマックス トラックの衝突実験の様子

センサーによって展開すべきエアバッグを人為的に作動させていたというのは言語道断であるが、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為というのは、量産車には備わらないタイマーを使ってエアバッグを展開した点にあるといえる。

冒頭で記したように、型式指定制度の基本となるキーワードは、「保安基準」と「均一性」になる。仮に量産車ではセンサーがきちんと機能していたとしても、型式指定の申請時に異なる仕様の車体を使ったということは均一性の点で大いに問題となる不正なのだ。

ダイハツ工業が国土交通省から是正命令を受けた際に、記者会見を行ったトヨタ自動車の佐藤恒治 代表取締役社長がもっとも問題視していたのも、この均一性の部分だったと感じた。ある意味でワンオフ加工した車体で合格点が取れても、そこには均一性はなく、量産車の現車表示を省略できる理由にはならない。量産メーカーとして、もっとも失ってはいけない矜持を忘れてしまったのが、いまのダイハツといえる。

自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、制度が存在する理由を理解していなかったといわれても仕方がないだろう。

ダイハツからニューモデルが登場するのは当分先になる?

ジャパンモビリティショー2023に出展されたダイハツのコンセプトカー「OSANPO」。ショーではダイハツの創業以来持ち続けてきた「お客様に寄り添い、暮らしを豊かにする」という思いを出展テーマに5台のコンセプトカーを展示していた。

型式指定の取消処分を受けるほどの不正をした場合の対応というのが完全にルール化されているわけではないが、不正を行ったメーカーに対しての制裁措置としては、「不正の公表」、「当該型式指定申請の却下」、「当該メーカーの他車種の審査の一時停止」といった内容になるといわれている。

このうち「不正の公表」についてはすでに実施されているといっていいだろう。この制裁措置として注目したいのは、型式指定を取り消された車種以外にも影響することで、ダイハツが新型モデルの型式指定を申請しようとしても、しばらくの期間は門前払い扱いとなることが予想される。つまり、型式指定を取り消された車種の再販売がしばらくできないだけでなく、新型モデルの登場も期待できないということになるのだ。

ちなみに、車両型式の取消処分を受けたモデルが再生産されたケースというのは、2022年にエンジン関連の不正が発覚した日野自動車の例がある。

同社の大型トラック「プロフィア」は2022年3月に型式指定の取消処分を受け、同年11月に型式指定を再申請、2023年1月に型式指定を受け、同年3月より生産が再開した。この一例をもって結論づけることはできないが、型式指定を取り消されたグランマックス/タウンエース/ボンゴについても再販売までの時間はそれなりにかかるといえそうだ。

日野・プロフィア

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…