低く!ド派手に!美しく!最新ローライダーカスタムでアメリカンモーターカルチャーを楽しむ『第31回ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』

2023年12月3日(日)、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)を会場にカスタムカー&バイクの祭典『第31回ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』(以下、HCS)が開催された。HCSは日本最大の屋内カスタムショーにして、国内最高峰のカスタムマシンが集うイベントだ。今回はHCSでも人気のLOWRIDER(ローライダー)に゙注目。その起源を解説しつつHCSに集まったCOOLなマシンを紹介しよう。

クルマが250台! バイクが600台! スゴいマシンが勢揃いする日本最大級のカスタムショー『第31回ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』を見た!

2023年12月3日(日)、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)を会場にカスタムカー&バイクの祭典『第31回ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』(以下、HCS)が開催された。HCSは日本最大の屋内カスタムショーにして、国内最高峰のカスタムマシンが集うイベントだ。さらに海外からハイレベルなカスタムマシンがゲスト招致されることでも知られている。年跨ぎになってしまったが、今回は大いに盛り上がったHCSの様子をリポートする。 REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

アメリカのモーターカルチャーは人種や出自と密接に関係する

フレーク塗装が美しい1963年型シボレー・インパラ2ドアHT。

ご存知の通り、アメリカは「人種のサラダボウル」(現在では異なる文化が並立共存する多文化主義の観点から「人種のるつぼ」という表現は最近ではあまり使われない)にたとえられる通り、異なる民族・文化・宗教・出自を持つ移民たちが築き上げた多民族国家だ。そんなアメリカから誕生したモーターカルチャーもまた歴史的・文化的な背景から人種と密接に関わっている。

ボディだけでなくエンジンルームもスムージングされており、インテリアやオーディまで徹底的に手が入っている。

その中でもっとも古いのが禁酒法時代(1920年〜1933年)に登場したHOTROD(ホットロッド)で、第二次世界大戦後になって復員した白人の若者たちが格安で売られていた戦前型フォードの中古車を改造してエンジンをチューンナップしたり、パワフルなV8ユニットに載せ換えてストリートに繰り出したことで盛況を見せた。そうしたことからHOTRODは伝統的に白人文化の産物とされている。

一気に見せます! HOTRODカスタムの流れがSTREETRODに回帰した『第31回ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』で見つけたクールなマシン!!

2023年12月3日(日)、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)を会場にカスタムカー&バイクの祭典『第31回ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』(以下、HCS)が開催された。HCSは日本最大の屋内カスタムショーにして、国内最高峰のカスタムマシンが集うイベントだ。今回はHCSの花形である1949年までに製造された車両をベースとした伝統的なHOTROD(ホットロッド)マシンのSTREETROD(ストリートロッド)を中心にエントリー車両を紹介して行く。

1936年型プリマス4ドアセダンのBOMBカスタム。

一方、もうひとつのトラディショナルなモーターカルチャーであるLOWRIDER(ローライダー)はチカーノ(メキシコ系)が礎を作った。その発祥は1940年代後半のカリフォルニア州南部とされる。

ローダウンした足廻りにホワイトリボンタイヤを組み合わせ、後輪はスパッツを装着。フロントスクリーンにバイザー、右側のリアドアにはスワンプクーラーを装着する。

当時、メキシコなどの中南米諸国からアメリカへとやってきたチカーノの若者たちは、不法就労をする者が少なくなく、低所得に喘いでいた。彼らはクルマを買おうにも裕福な白人のように新車を買うことができない。そこで安価で売られていた戦前型のシボレーなどの中古車を購入し、新車に負けないゴージャスなカスタムを施すことにした。必要なパーツはスクラップヤードを漁り、改造やペイント作業は終業後に自身や友人が務める街工場や整備工場で行ったようだ。

1959年型シボレー・インパラ・コンバーチブル。

彼らが製作したマシンは白人のHOTRODとは違いスピードを求めてはおらず、車体をより大きく見せるために標準サイズよりも小さなタイヤとホイールを装着して車高を限界まで下げることで見栄えを良くし、どの車よりも目立つことに神経を注がれていた。

塗装を剥離しボディパネルをむき出した状態でフレイムス(炎模様)をペイントし、クリアーで仕上げたと思われる。ヘッドランプや左サイドのボディ側面のアンテナはフレンチング(段差のない状態に加工すること)加工がされている。

シルバーやゴールドなどのベースコートにクリアカラーを何層も重ねてペイントされた「キャンディーペイント」や、メキシコ文化やセクシーな女性を車体に描いた「ミューラル(壁画の意味)」と呼ばれるブラシアート、シルバーやゴールドの派手なメッキ加飾は彼らのカスタムマシンの特徴となった。

チカーノによって南カリフォルニアで産声を上げたLOWRIDER

彼らのクルマの楽しみ方は、休日に仲間と集まったり、街中をゆっくりクルージングしたりと危険な行為はなかった。だが、LOWRIDERを愛用したのはごく普通の若者だけでなく、メキシコ系ギャングのメンバーも好んで乗り回したことでイメージが悪化。

1938年型ポンティアック4ドアセダンのBOMBカスタム。BOMBカスタムとは1940年代後半からの初期LOWRIDERのスタイルに基づいてカスタムされた車輌のことをいう。

その結果、当時のアメリカ社会の人種的偏見と結びついたこともあって、州政府や法執行機関は人目を引く改造を施した彼らの存在を苦々しく見てお1958年1月にカリフォルニア州は車両法を改正して車高をホイールリム底部よりも低くする改造を禁止し、取締りを強化した。

1953年型シボレー150(ワン・フィフティーン)。

車高の低さこそがアイデンティティであったLOWRIDERはこれにより命脈を絶たれるかに思われたが、1959年に整備士のRon Aguirreが法の抜け道を見つけたことでLOWRIDERは辛くも存続ができた。Aguirreの解決方法は航空機用の部品を流用してフロントのサスペンションの高さを変更するというものだった。

この時代のシボレーのラインナップは下から150、210、ベルエアがあり、各グレードにはセダンやクーペ、ステーションワゴンがあった。写真の車両は2ドアクーペをベースにクーペピックアップに改造したようだ。

これにより停車時は車体をグランドタッチさせて見栄を切るが、走行時は車高を上げて合法的にクルーズを楽しむというスタイルが広く浸透した。
のちにこれが発展して「ハイドロリクス(通称ハイドロ)」となる。ハイドロは四輪独立ポンプを仕込み車輪のひとつを持ち上げて走行したり、強化ポンプを装着させて車体をホッピングさせたりするなどの派手なパフォーマンスは、あくまでもLOWRIDERを合法的に公道で楽しむための副産物として生まれたものなのだ。

1960年型ポンティアック・カタリナワゴン。

チカーノによって誕生したLOWRIDERは、のちに同じくHOTROD文化に馴染めなかったアフリカン・アメリカン(黒人)の参入により大きく盛り上がることになる。その一方で警察による執拗な取り締まりが続いた。しかし、1980年代に入るとヒップホップカルチャーの盛り上がりとともに、DJ、ラップ、ダンス、グラフィティが人種の垣根を超えて若者たちに浸透すると、そのマストアイテムであるLOWRIDERも徐々に肯定的に捉えられるようになる。

サーファーワゴンをイメージしたらしくシート地は椰子の葉柄の生地が使われている。

こうした時代の変化と愛好家たちの地道な働きかけもあり、カリフォルニア州の各自治体は徐々に車高規制を削除しはじめ、2023年10月に州政府が「人種的な偏見による過度な規制があった」ことを認め、LOWRIDERに対する規制が完全に撤廃された。

こうした流れは州内にも波及し始めており、ニューメキシコ州のアルバカーキでは長年続いていた反LOWRIDER政策を廃止したばかりでなく、守るべきアメリカのモーターカルチャーとの認識に基づき、警察の広報用にLOWRIDERパトカーを導入するまでに至っている。

日本国内のショーイベントではジャンルの垣根を超え
HOTRODと肩を並べるLOWRIDER

1950年型シボレーをベースにしたParadise RoadのULTIMATUM。

日本にLOWRIDERが入ってきたのは1980年代のことで、空前の好景気も追い風になって1990年代に本格的なブームが到来した。これはB-BOYや渋カジなどの当時若者の間で流行していたファッションとの相性が良かったこともひとつの要因だろう。

2020年のHCSに登場以来、毎年進化を重ねているCOOLなマシンだ。

一時期はMOONEYES主催のStreet Car Nationalsやヨコハマホットロッドカスタムショー(以下、HCS)の会場をLOWRIDERが埋め尽くすほどの盛況ぶりであった。現在では往時ほどの盛り上がりを見せてはいないが、それでも熱烈なファンによって日本におけるLOWRIDER文化は絶えることなく続いている。

オリジナリティあふれるULTIMATUMのフロントマスク。

その牽引役となったのが愛知県長久手市に店を構えるParadise Roadの下平淳一氏である。HOTRODビルダーでもあった下平氏は、2002年のHCSで発表したRod-Riguez(ロッド・リゲス)だった。

ポップアップルーフにシザーズドアの組み合わせで、おまけにクーペピックアップボディ。もはや原型が残っていないほどのカスタム。

チカーノによく見られる姓名をもじって名付けられたマシンは、1930年型フォード・モデルA 2ドアセダンをベースにしており、下平氏が尊敬するEd RothやGeorge Barrisの製作したマシンから着想を得つつ、アメリカ本国では水と油の存在とも言えるHOTRODとLOWRIDERを巧みに融合させ、それにKustom(いわゆるK-カスタム。George Barrisが提唱した1930~1960年代のカスタムスタイルの流儀に則って製作されたカスタムカーのことを指す)のエッセンスを加えることで斬新かつ魅力的なマシンを作り上げた。

ベッドにはこれまた徹底的に手が入ったスーパーカブが載せられていた。

2002年のHCSでRod-RiguezはBest Street Rodを始めとした数多くのアワードを受賞。2003年にはさらなるカスタムの手を加え再エントリーし、Best of Show Automobile、George Barris’s Pick、Street Rodder’s Pick Award、Line Dr.’s’ Picの4つの主要アワードを獲得している。

ダッジ・チャレンジャー。

そして、2005年には海を渡り、アメリカでもビッグタイトルのGrand National Roadster ShowとCruisin’ Nationalsにエントリーし日本のカスタムビルダーのレベルの高さをアメリカ本国に知らしめる結果となった。

このダッジ・チャレンジャーはSALTFLATSを実際に走行したスピードトライアルマシン。

アメリカでは文化的・歴史的な背景からアフターパーツトレードショーのSEMAを除けば、規模の大きなショーでHOTRODとLOWRIDERが轡を並べて展示されることは稀だ。しかし、ジャンルの垣根のない日本では国内最高峰のショーイベントであるHCSでも互いに仲良く並んだ姿を見ることができる。そればかりかRod-Riguezのように両者の魅力を融合させた素晴らしいカスタムマシンも登場し、世界のカスタムシーンにも影響を与えている。このことを日本はもっと誇りに思っても良いと思うのだ。

デ・トマソ・パンテーラをリフトアップし、オフローダーにカスタマイズ。
スーパーカーにワイドなオフロードタイヤ、ビス止めのフェンダーで迫力あるアピアランスに。
デロリアンDMC-12のカスタムマシン。無塗装ステンレスボディに大径タイヤ&オーバーフェンダーのインストールは新鮮。
1957年型シボレー・ベルエア。美しく仕上げられた人気のTRY CHEVY(1955~1957年に製造されたシボレーの愛称)。
1949年型フォードF1ピックアップトラックのキッチンカー仕様。美しい塗装とピンストライプに注目。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…