トヨタ、グループ不正を受けて新しいビジョンを策定。豊田章男会長が「グループ責任者」として全責任を負う覚悟を表明

トヨタ自動車は、1月30日、愛知県名古屋市にある「トヨタ産業技術記念館」において、「トヨタグループビジョン説明会」を開催した。日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機と続いた主に認証における不正を受けた、トヨタグループ17社の会長・社長・リーダーを集めて新しいグループビジョンの説明を行なったあと、報道陣への説明と質疑応答を豊田章男トヨタ自動車会長が行なった。その全発言をお届けする。

豊田章男会長のプレゼンテーション

登壇した豊田章男会長

豊田でございます。本日は、ご多用の中、ご足労いただき、誠にありがとうございます。先ほど、 私たちの原点とも言えるこの産業技術記念館に、トヨタグループ17社の会長、社長、 現場のリーダーが出席し、トヨタグループの進むべき方向を示したビジョンと心構えを全員で共有いたしましたので、皆様にご報告申し上げます。

最初に、 トヨタグループの歴史について少しお話をさせていただきます。こちらをご覧ください。これは、1895年、トヨタ商店の設立に始まるトヨタグループの系譜です。

報道陣にも資料として配付されたトヨタグループの系譜

苦労する母親を少しでも楽にさせたい。その一心で豊田佐吉は1890年、 豊田式木製人力織機を発明いたします。誰かを思い、学び、技を磨き、 物を作り、人を笑顔にする発明の情熱と姿勢こそトヨタグループの原点であると私は思っております。その後、豊田紡織、 豊田自動織機製作所の設立へとつながり、系譜図ご覧のように縦に置いてまいります。

ステージ横には豊田式木製人力織機が展示されていた。

1930年代に入りますと、豊田喜一郎が立ち上がります。当時の日本の工業は、技術水準において欧米に大きな後れを取っておりました。ただ自動車を作るのではない、日本人の頭と腕で 日本に自動車工業を作らなければならない、その一心で喜一郎はこの国の 産業のモデルチェンジに挑んだわけでございます。部品、鉄、ゴム、電池、多くの会社がトヨタと歩み始めます。さらに、独自の個性や強みを持つ会社との提携が進み、トヨタグループの系譜図は横に広がってまいります。未来を切り開くぶれない意志 により進化し続ける縦の系譜。同志、志を同じくする仲間とともに進化し続ける横の系譜。私たちはこれまで、先人たちが紡いでくれたこの縦糸と横糸で 織りなされた自動車産業の中で生きてきたと言えます。しかし、自動車産業が発展し、グループ各社が成功体験を重ねていくなかで、大切にすべき価値観や物事の優先順位を見失う。恥ずかしながら、そんな状況が発生してまいりました。

最初にその事態に直面したのが、他でもないトヨタ自動車でした。もっといいクルマを作る。 それよりも台数や収益を優先し、規模の拡大に邁進した結果、リーマンショックにより創業以来初めての赤字に転落。自動車産業をお支えいただいている多くの方々に ご迷惑をおかけすることになりました。さらには、世界規模でのリコール問題により、 最も大切なお客様の信頼を失うことにもなりました。私はこの時、

トヨタは一度潰れた会社だと思っております。そこから私自身のすべてをかけて、 仲間とともに、ようやくクルマ屋と言えるところまで立て直してまいりました。しかし、 創業の原点を見失っていたのはトヨタだけではありませんでした。今、グループ各社にも当時のトヨタと同じことが起きている、私はそう思っております。

2009年のリコール問題の時、私は、トヨタの責任者として、現在、過去、未来、 すべての責任を背負う覚悟を決めました。あれから14年、トヨタグループ全体の責任者はこの私だと思っております。今、私がやるべきことは、 グループが進むべき方向を示し、次世代が迷った時に立ち戻る場所を作ること。 すなわちグループとしてのビジョンを掲げることだと考えました。

トヨタグループの原点は、多くの人を幸せにするために、もっといいものを作ること、すなわち発明にあります。 次の道を発明しよう。このビジョンのもと、ひとり一人が自分の中にある 発明の心と向き合い、誰かを思い、技を磨き、正しいものづくりを重ねる。お互いにありがとうと言い合える風土を築き、未来に必要とされるトヨタグループになる。 本日、私たちの原点とも言えるこの産業技術記念館で、そう誓い合いました。

私自身が責任者としてグループの変革をリードしてまいりますので、皆様のご支援をお願いいたします。

最後になりますが、日野自動車、ダイハツ工業、トヨタ自動織機の相次ぐ不正により、 お客様をはじめステークホルダーの皆様にご迷惑、ご心配をおかけしておりますことを 深くお詫び申し上げます。

当初、グループビジョンは豊田佐吉の誕生日である2月14日に共有する予定でございましたが、 昨今のグループ会社の状況を踏まえ、前出しをして実施し、メディアの皆様にも 発表させていただくことにいたしました。本日は、グループビジョンをベースに、皆様からのご質問にお答えさせていただければと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。

報道陣との質疑応答

ここから質疑応答となった。

Q:先ほどもご説明ありましたように、 あの会見に先立ってですね、グループ各社の幹部に対して、今回のビジョンについて説明されたということでした。 今、グループで不正が相次ぐなかで、その各社の幹部は、今回のこのビジョンについて、どのように受け止められていましたでしょうか。

豊田会長:はい。ビジョンというかですね、トヨタグループを統括する会社はないんですね。そもそもガバナンスとはものはどういうものか。私の理解では、 統治、支配、管理を意味する言葉だと書いてあります。企業におけるガバナンス等は、健全な企業経営を行なうための管理体制を作ること。私がトヨタでやってまいりましたことは、 主権を現場に戻し、どんな立場、どんな出身であっても、 経営に参加できるようにしてきたのが、私流のガバナンスだったと思います。かっこいい言い方をすれば、もっといいクルマを作ろうという、単純なビジョンに基づき、 現場が自ら考え、動くことのできる企業風土を作ったこと。そして言わば、そのビジョンドリブンの経営であり、現場経営であり、商品経営、経営であるということが言い切れると思います。で、ガバナンスの語源を調べてみますと、 船の舵を取る、導くという意味がありまして、語源からいくとで、ガバナンスは、統治、支配、管理というよりは、私がやってきたものに近いんじゃないのかなと。

で、それができた理由は、トヨタの現場には思想、 技、所作という、ものがございました。そして、先ほども言いましたように、もっといいクルマ作ろうよという、単純なビジョンがありました。そして、何よりも、私という人間が、現在、過去、未来において責任者となるということが、トヨタの中で、主権を今、現場に戻す、そのことが、ガバナンスができたことだったという風に思います。それで、今回、『企業の衰退の5段階』という話がよくありますけれども、そういう意味では、トヨタグループの私自身が責任者となろうということを表明することによって、先ほど言いました、現場が自ら考え、動くことができる企業風土の構築に、一歩進み始めたいということを、グループトップの方々、そして、現場のリーダーの方々を含めて、話をしました。そして、 一方通行の話だけではなくて、現場の人を中心にいろんな方からも、質問を受けながら、私の考えはこうですよという情報交換の場をお持ちました。最初は私自身から、相当強い言葉で 言われるんじゃないかと思って、会場に来られた方が多かったと思うんですが、ある面、そこは期待を裏切り、どちらかというと、こういう状況を作ると、誰でも声を発することができるんだよというのを、 トップの方々含めて多少共感していただいたものになったんじゃないのかなと思っております。

Q:相次いでいる不正についてもう少し詳細をお聞きしたい。 率直に会長として、その今回のこれらの不正はどのように受け止められているのか。今回、そのトヨタグループとしてやっぱり不正が相次いでいる状態ですが、なぜトヨタグループでは今、不正が相次いで発生しているのか、不正が相次いで出てきてしまったのか、 この原因をどう考えられているのか?

豊田会長:はい。まず、不正は、 やっちゃいけないことをやった、ということだと思います。で、やっちゃいけないことはなんなのか。 ダイハツ、日野、そして豊田自動織機に共通していますのがは認証制度に対する不正が行なわれたということになると思います。で、私も第三者委員会のレポートにすべて目を通そうとはしたんですが、ちょっと色々あって、私自身、全部に目を通しておりません。しかしながら、 全部目を通した人から解説をしてもらいました。その内容を言いますと、日野自動車、豊田自動織機、ダイハツの問題、すべてに共通することは、認証試験において不正があったということで、 日本国内における認証試験は、安全と環境の分野において、 ルールに沿った測り方で決められた基準を達成しているか確認する制度であると。認証試験で基準を達成できなければ、クルマを生産、販売することができない。ですから、認証を通らない限りクルマを量産することができない。 しかし、認証で不正をしながら量産をしてしまったというのが起こったことだと思います。そして、日野自動車、豊田自動織機、ダイハツは、本来は、販売してはいけない商品をお客様に届けたということが起こったことだと思います。これは 本当に、最初言いますけど、絶対にやってはいけないことをやってしまった。認証制度があるからこそ、お客様は、安心してクルマに乗ることができる。認証において不正を働くということは、お客様の信頼を裏切り、認証制度の根底を揺るがせる 極めて重いことであると受け止めております、で、グループ責任者として、お詫び申し上げますし、また、お客様から信頼を取り戻すということは、時間がかかることだと思います、ですから私がまずは、責任者となり……責任者と言ってもですね、 社長時代の14年間は、社長という立場で、責任者でありましたので、 その立場で、決断もでき、責任を取れるですから、自分の覚悟でできた話が、今度は、グループの責任者というのでは、トップではありません。ただ、 私が、トヨタで体験してきた、グループの中でも最初に信頼を失ったのは、トヨタ自動車でありますので、 その経験、そして、そのトヨタをクルマに戻してきたかという実績は、必ずや今のトヨタグループのトップに、相談相手としては頼りになる存在になるんじゃないのかなと思っております。トヨタの時よりも時間かかるかもしれません。 もしくは、もう少し短い時間かもしれません。今回、再発防止が話題になる場合、原因追求にいくと思います。その原因が、ひとつの原因であれば、ソリューションも簡単だと思いますが、いろんなことが重なり合って起きた現象で、 その辺りが、今ちょうど出てきたということだと思います。私は社長をやめてちょうど1年になります。 社長をやめて、その変化点によって、こういう問題が多々出てきたのかなというのは、ある面、私、良いことかなと思っておりました。そして、私自身、会長になったということで、執行に対しても、各、他の会社に対しても、 多少の遠慮を持ち、え、微妙な距離感を持っておりましたけれども、責任者ということで、もう一度、グループ、トヨタ自動車を見ていきたいなという風に思っております。決して、屋上屋を重ねるつもりもございません。決して、自分がもう1回粘ってという気持ちもございません。ただ、主権を現場に戻した実績を、ぜひとも活用し不正を起こした3社、そしてグループのビジョンに基づく第一歩につなげていきたいなと。

Q:産業技術記念館ではトヨタグループの発祥の地でもあって、 グループの最も大切な場所のひとつだと思います。 今日、この場所で、新しいビジョンを会長の口から発表をしようと考えた理由は?

豊田会長:グループのことなので、やはりグループ各社の本社ではダメだと。私が考えついたのは、この産業技術記念館でした。以前、産業技術記念館によくトヨタグループの幹部が集まった記憶がございます。そんな意味からも、言わば、再出発させていただくんであれば、再出発の場所としては、やはり、少なくともトヨタ本社ではなくて、産業技術記念館がいいんじゃないのかなということで、この場で本日、やらせていただきました。

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「トヨタ、グループ不正を受けて新しいビジョンを策定。豊田章男会長が「グループ責任者」として全責任を負う覚悟を表明」の8枚めの画像

Q:トヨタは古くからトヨタ綱領を持っていました。その他にも、トヨタとの基本理念やトヨタウェイ2020など、さまざまな指針を掲げてきたと思います。今回の次の道を発明しようという、新しいビジョンは共通するところ、あるいは、新たに変更・発展させたという、強調したい部分が、会長にあれば、教えてください。

豊田会長:このビジョンですけども、『次の道を発明しよう』これは、言葉の中に、現在、過去、未来があると私は思っています。「次の」というのは未来ですし、「道」は現在ですし、 「発明」がトヨタグループの原点である。これですね、英語の方がわかりやすいと思うんですが、 英語は『Inventing our path forward, together』。こちらの方が意味があるんじゃないのかなと思っています。

Q:この会見を2月14日から早められたわけは?

豊田会長:当初は豊田佐吉の誕生日である2月14日を予定していましたが、これだけ色々問題が出てきましたね。 正直、昨日の豊田自動織機の会見を待ちました。 待って速やかにと言いますと。今日以外ありませんでした。

Q:ビジョンの中で次の道を発明しようっていうことで、将来の取り組みを示されたと思います。先ほど発言の中で、もう一度責任者としてトヨタを見るっていう発言もありました。あの会長が足元でこれからどういうことに取り組むか、まず具体的な取り組みについて、教えてください。

豊田会長:具体的な取り組みと言われてもですね、ないんですけど、まず行動してみようと。そして、今日はですね、 各社トップ、また現場リーダーがいる前で、皆さんにお願いしましたのは、次の道を発明しよう、そして、私がこのトヨタという会社の主権を現場に戻した、商品を戻したことを、ちょっと一度、ご自身でお考えいただきたいということを言って、終わっております。そういうなかで、私の次の行動はまずグループ各社が、それぞれ別の会社でございますので、考え始めて、今年のグループ17社の株主総会に、私、全部出席します。一度、株主の立場、それぞれの会社を見させていただきます。勉強させていただきますと伝えています。ですから、まずは今年の6月の株主総会に行って、株主の立場、そして、いろんなステークホルダーの立場から、トヨタグループを一度、見てみよう。そして、それまでの間、数カ月ございますので、その数カ月、どういうことを考え、何をしたかなというのの意見交換をしていきたいなと思っています。

Q:グループで相次いだ不正について、調査報告書を見ると、効率を追求して認証を簡単に通したいっていうことで不正に手を染めたという記述が多く見みられます。効率を追求するあまり、品質が担保されていないっていう風に読めてしまいます。トヨタはTPSという考え方を大事にされていて、効率の追求はトヨタの競争力の源泉となっていることは理解した上で、法律と品質を両立させるためには どのような風にしていけばいいかと考えられているかについて、お尋ねできますでしょう。

豊田会長:トヨタ生産方式の目的は効率ではありません。トヨタ生産方式の目的は、 カイゼンが進む風土を作ることだと思います。今後、いかなる企業であっても、必ず問題は起きると思います。 今回どれだけいろんなことやっても、必ず問題は再度起こる時が来る。その時に、どういう対処をするか。トヨタ生産方式の考え方の中に異常管理という考え方があります。正常部分を全部管理することは非常に難しいのが現実です。それならば、何が異常か、何をやっちゃいけないのという異常をまず明確にすること。そうすると、異常管理ということで、その限度を超えたことをまず直していく。 そこでトヨタ生産方式の、カイゼンの形をやり、ずっとそのサイクルを回していくこと。回していくことこそが、より良い企業に近づいてくる。ただ、より良い企業に近づいたとしても、何かチャレンジをする、 何かしていく場合には、問題は起こってくると思います。ですから、その問題を、今回みたいに、大きな問題までしないで、早めにわかる段階でひとつひとつ潰していく体質を取り戻すことが必要なんじゃないのかなと思います。 だからこそ、まずはスタートポイントや、ポイントであるビジョンが必要であったと私は思っておりますし、ビジョンをベースに、私が株主総会に出たり、いろんな人の話を聞くなりして、何が異常かと明確にして、どうなのかなというのをですね、探りながらやってこうと思います。しかし、私自身、 ふたつの目と、ふたつの耳、そして時間にして、1日24時間、365日は他の皆様と同じ条件しか与えられておりません。ですから、私自身がひとりでできることは、大変限られております。ただ、10数年前、トヨタの社長になった時に比べれば、私には本当のことを言ってくれる、仲間がたくさん増えてきているのも事実でありますので、そういう、14年間で培った仲間、ネットワークを使いながら、ぜひともね、そんな風土を取り戻したいと思っていますので、ぜひ、厳しくも、かつ 長い目で、見ていただきたい。

Q:不正の問題について伺えればと思います。 日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機で、連続して起こったということはトヨタグループ内で、これ以外にも不正があるのではないかと多くの人が疑っているかと思います。 会長もぜひ、もし今、あの、似たような事象を、グループ内で考えて持っている社員の方がいらっしゃれば、隠してないで教えてほしい、伝えてほしい、ぜひ連絡してほしいというような、立場なのかどうかをあらためて伺いたい。また、トヨタは2009年から大幅に成長しておりますが、会長は、グループの責任者のゴールをどこに設定されているのか伺いたい。

豊田会長:他に(不正が)あるかないか、私が知っている限り、ございません。そして、この日を会見日に設定したのも、昨日、豊田自動車機があの件を発表することを知っていたからです。ただ、私が責任者で、いる、いない、でこの発表に何が違ったかを正直に申し上げますと、 発表の時期が遅くなったと思います。例えば、日野自動車は、私が(不正を)知ってからですね、1年を超えてから、世間に発表した。ダイハツは6カ月ほどかかりました。豊田自動織機も10カ月ほどかかっております。もし、私が初めからその事情を理解をしたら、 今言った前に発表をしたと思います。それは責任者だからです。責任者だから それができるんだと思います。トヨタグループも、私が(アメリカの)公聴会に行きました時、14年前になります。あの時、私はトヨタの社長だったのですが、トヨタ自動車のいろんな情報が社長の耳に入ってくるのには3カ月のギャップがありました。 現場でこういうこと起こっているよというのが、トップである私が情報を収集しようとしても、なかなか私の能力に限りがある程度で、約3カ月ほどギャップがあったと思います。ところが、それ以降、トヨタのトップダウンは、トップが下に降りていくもの、そして情報は自分が取っていくものとなりました。少なくとも、私の行動・実績を見てきた人がおりますので、私がトヨタグループの責任者として名乗りを上げたことで、「こういうことを言ってもいいんだな」となったと思います。それから、私が責任者に立ったことで、長期的なコミットメント、イコール、多少、安心感みたいなものに繋がるんじゃないのかなと思っております。今朝もトップが全員並んでいるなかで、Q&Aの時に現場のリーダーが、正直な質問をされました。いろんな質問に出たんですね。それが、話せる雰囲気は、私がこの14年間で作ってきたものだと思っております。そこに頼るだけではダメですが、少なくとも、そんなことを思っている社員の方々がおられると思います。それで、私が全部解決できるわけではありません。ありませんが、少なくとも、不安に思っていること、「これ、やっていいことですけど、やっちゃいけないんですかね」とかいうようなことを言える相手が、 顔が見えということだと思います。ですから、そういうことから一歩一歩、進めていくことなんじゃないのかなと思っております。それと、何がゴールか? ないですね、ゴールは。ゴールは、トヨタ生産方式もそうなんですが、カイゼンとはずっとやり続けることだと思うんですね。ですからゴールとあえて言わせていただくのであれば、私と同じセンサーを持った、そういう感覚を持った、経営層をひとりでも多く作り上げていくことだと思っています。そういうセンサーを身につけさせるような、アドバイス、 相談みたいなのをやっていき、世の中の方から、「トヨタグループ、人材豊富でいいですね」って言われた時が、自分自身のゴールなのかなと思っております。

Q:先ほど、豊田会長、「ゴールはない」ということだったんですけれども、グループ責任者としてどういった、タームで一定の成果みたいなものをどんな形で見せることが、責任者としてのその成果につながるとお考えなのかを教えてください。

豊田会長:はい。ゴールがない、そして、いつかと言われても、わかりません。これは、 社長をやって、14年で、佐藤社長にバトンを渡しました。 そういう感覚なのかなとも思っております。自分自身が社長をやり、私自身、 例えば、今のトヨタ自動車に、「はい、もうこれだけやったんだから(社長を)やめなさい」という人はいないと判断しました。ですから、 私自身の引き際、辞め時は自分自身で判断すべきと思い、14年目に社長を譲る決心をいたしました。その心はトヨタ自動車がモビリティカンパニーに 変革するにあたり、自動車屋という土台は作ったなと。そして、体力をつけたなと。ここから先、モビリティカンパニーにリードしていくためには、やっぱり、若い世代、リーダーが若い人になれば、それを支える人たちも より多様化してくると思います。そういう意味で、若いリーダーに託したということと重ねて考えますと、このトヨタグループの場合は、責任者であっても、会長とか社長のポジションを取るわけではございません。そういう意味で、自分の想いは、主権を現場と商品に戻すところではこだわりを持ちたいので、グリップ力を今おっしゃられた形のグリップ力ではなくて、どちらかというと、現場や商品軸でのグリップ は固めていきたいなと思っております。トヨタ自動車でも、今社長から会長職にはなりましたけれども、マスタードライバーの役割は、今も私の名刺上残っておりますし、マスタードライバーとして、もっといいクルマ作りのセンサーの決断者としては残っております。ですから、そういう意味で、私がダイハツ、日野、豊田自動織機のマスタードライバーをやるかと言うと、それもやりません。今日の午前中に、各社、まずマスタードライバーを作りなさいというお願いをしました。そして、マスタードライバーをどういう人を人選してくるのかというところから、私のグループ力というのが始まっていくとご理解いただきたいと思います。

Q:マスタードライバーの仕事とは当然その乗り味を決めるというところもある思うんですけれども、僕の解釈としては、この最後のフィルターという機能が多分マスタードライバーだと思うんです。そういう意味では、やはり、今回色々な問題起きた、ダイハツや豊田自動織機のマスタードライバー、最後のフィルターとして、機能すべきなんじゃないかなと思うんです。そのあたりの想いをお聞かせください。

豊田会長:はい、おっしゃる通りだと思います。私が、今トヨタで与えられている役割は、会長とマスタードライバー です。グループ各社の責任者になる場合、どういう役割を一番使うかというと、トヨタの会長というよりは、マスタードライバーという役割を前面に出して、その商品、そして現場力という形でグリップをかけていきたいと思っております。単にそれぞれのブランドの味作りを担当するわけじゃなくて、どんなクルマにしたいのか、このクルマによって何を得られたいんだとか、その商品コンセプトを超えたクルマ自身の役割・使命みたいなのを語れるのかというような人選をお願いしたいと思っています。まずは、各社が人選をした人と 私自身が一緒にクルマに乗り、どういうセンサーを持っているのか、どういう会話ができる人なのか、そのあたりをまず共感することから始めようと思ってます。 あんまりこの場で言いますと、各社がそれに合ったスペックで、人選をすでにやってくると思います。それでは会話が成り立たないと思いますから、まずは各社の意思を尊重し、どういう方を選ぶのか。話変わりますけど、話変わりますけど、じつは今日も 会社のグループリーダーの方を呼んできてくださいと申し上げました。トヨタ自動車は運動部のヘッドコーチだとか、リクレーション研究部のリーダーとか、そういう方々が今朝のミーティングに参加されました。残念ながら、トヨタグループ各社は肩書きで今日来られるリーダーを選んでおります。やはりこのあたりの差が出たと思います。ですから、私は、肩書きではなく、マスタードライバーという役割で、グリップ力を上げていく、これこそが私ができるやり方なのかなと思います。他とは手法が違うかもしれませんが、ぜひ、見ていただきたいですし、その延長線上には、商品が中心で、人を大切にする企業風土は間違いなくできると思いますので、ご理解いただきたい。

Q:今日の会見で、あの冒頭に、それからあの会場の入口にも、トヨタの系譜が貼ってあるのがすごく印象的でした。 今回のこの一連の不正が、トヨタグループの歴史でどれくらいの重大性を持つものなのか、どういった意味を持つものなのか。こういったあたりの受け止めを改めてお聞きしたいと思います。

豊田会長:これは大変大きな重要性を持ったことだと思います。何が一番その重要性を持っているかというと、 ちょっと原点を見失っているというところになるんじゃないのかなと思います。 会社自体の運営というか、会社自体の経営という意味ではどうだろうと。そして、トヨタが発注者になっている場合も多々ございますので、トヨタにものが言いづらいという点もあると思います。ですから逆に、そういう、変なヒエラルキーじゃなくて、元々同根で、元々ものづくりをやってきた同志だよね、で、発展してきた、その継承者だよねということを出発点に新たなビジョンを掲げ、まずは、上からでも下からでもない、上から目線もダメだけど下から目線もダメだよというようなことで、普通に話せる、私自身が社長を辞めて普通の自動車好きのおじさんになったように、普通のマスタードライバーとして、まずは、いろんな方と語っていくことが必要なんじゃないのかな。そこにやはり、トヨタの会長という肩書きはやっぱり邪魔をするところがありますので、そこを、崩しながら仲間たちとともに、そういうことをひとつずつ探りながらやってくってことなんじゃないのかなと思います。そして、やはり原点を見失ったってことが一番問題だと思いますので、原点を今日共有いたしました。共有したからスタートできるということじゃなくて、共有をし、しっかり消化し、しっかり理解し、そして初めて行動に移っていくと思います。そのあたりを私も見てまいります。ぜひとも皆さんからも厳しい指摘をお願いしたいな思います。

Q:カーボンニュートラルについての取り組みのお話があんまり出てきませんでした。今日、お話しされたビジョンと、カーボンニュートラルの取り組みの両立について、どうお考えですか?

豊田会長:両方に力入れております。我々が自分たちを理解しなきゃいけないのは、トヨタはグローバルでかつ、フルラインの会社であると理解をしております。フルラインで、グローバルで1000万台以上を売っている会社は、全世界に3社ございます。そのなかで、トヨタの特徴は、世界のいろんな地域に最大20%くらいですね。満遍なく、いろんな地域とお付き合いがあるということなんですね。そこにモビリティを提供している会社でありますので、どんな方へも移動の自由を失わせてはいけない。カーボンニュートラで行きますと、いろんな形で、エネルギー事情とかですね、随分やり方、登り方は変わってくると思います。ただ、トヨタはフルラインでグローバルですので、どなたも置いてはいかないという覚悟を持っております。ですから、そういう意味で、マルチパスという手段を取らざるを得ないというところだと思います。

Q:トヨタグループのこの成長の歴史には、今回の17社のようなトヨタグループ各社の努力モあって、トヨタはこれまで大きくなってきたと思います。今回のグループビジョンの策定にあたって、トヨタ自動車のこれまでの成長の、その戦略の転換っていうのはあるのでしょうか。トヨタ自動車のあの規模の成長の考え方について教えてください。

豊田会長:それはCEOである佐藤社長に聞いてください。唯一私が言うなら、私がなぜ佐藤社長にたすきを譲ったか。そしてその彼、彼ら若い世代に委ねたか。やっぱりそのトヨタグループというのは、かつて織機から自動車に企業全体のモデルチェンジをした経験を持ったグループだと。今、CASEをはじめ自動車産業が大きく変化していくなかで、今までの単なるクルマ屋だけで果たして未来は作れるんだろうか。自動車が起源となったモビリティ会社に変革する気持ちの変化が、今起こったと思います。ですから、そういう意味で、戦略というものは、多分、佐藤社長を中心に、トヨタの執行メンバーそしてグループ各社のCEOの方々が中心に作るものであって、私は、モビリティカンパニーというものに、チャレンジしていこうよ。そのクルマ屋が作るモビリティ会社というのは一体なんですか。というのを、自問自答も含めてやっております。答えが出たらお知らせしますので、今しばらくお待ちいただきたい。

Q:本日、グループの変革を進めていく決意が語られました。日本の多くの人の中には、トヨタは、自動車、自動車産業は日本の産業をリードしているので、しっかりしてほしいと期待している人も多いとも思います。これから変革を、グループの変革を進めていく上で、直近のダイハツ工業、豊田自動織機をリードしてきた経営陣の経営責任をどのように考えていらっしゃるか。そして、再発防止に向けて不正があった企業に対する発注の仕方を見直す考えはあるのかどうか?

豊田会長:はい、トヨタも14年前に一度潰れた会社だと思っております。 そんななかで、14年間かかりましたけれども、トヨタをいろんな形で変革をしてまいりました。そして、今回の3社、 色々不正を起こした会社は、いわばやっちゃいけないことをやったわけでありますので、それに対しては、会社を作り直すぐらいの覚悟でやらざるを得ないと思っております。作り直すという意味は、それの会社が強みを生かし、そして、今までやってきた仕事が、無駄にならないっていうかね、自分が人生をかけて、色々仕事をやってきたわけですので、そういう人たちが、「あー、やっぱりこの会社で良かった、変革してもこの会社で良かった」と思えるような変革の仕方を探していくことが、私が責任者としてやっていくべきことなんじゃないのかなと思います。それぞれの、その変革の仕方は、時期を見て、それぞれの会社から発表があると思いますので、ぜひ、見守っていただきたいと思いますし、それまでの間、 私は責任者であるということを明確に示した以上、相談にも乗っていく。私が相談に乗るポイントは、今までその仕事をやっていた人が、この会社にいて良かったなと思える変革の仕方になっているかどうか。そして、確実に、未来における種まき育成、刈り取りができる形で、ちゃんとソーセスが配分されているかどうか。その二点が私の役割だと思っています。

Q:一連の不正のなかでダイハツ工業の不正に関しては、ダイハツ工業はトヨタ自動車の完全子会社でありますし、 会長が社長でいらっしゃった時に、それを決められて、かつ、ダイハツにもたくさん、トヨタから幹部の方が入っていた。ご自身のダイハツ工業の不正を見抜けなかった責任、トヨタ自身の責任はどういう風に考えていらっしゃるんでしょうか。

豊田会長:はい。まず自分自身がなんで見られなかったのっていうところなんですけど、私自身、社長として14年間やってきた時は、平穏無事ではなかったんですね。まず、赤字で引き継ぎました。そして、リーマンショックがあり、リコール問題、 東日本大震災、タイの洪水など、色々危機の連続がありましたので、ゆとりがなかったというのは、正直なところだと思います。トヨタをなんとか立ち上がらせるだけで、 正直、精一杯だったということです。見てなかった、というよりは、見られなかったというのが、正直な見方だと思います。そういう意味で、昨年、私が会長になったのは、大きな変化点なんじゃないのかなと。社長よりは会長の方が、もうちょっと時間にゆとりがあると 思っておりましたね。実際は違いますけど。そうなると、ただ、社長から会長になったのは、大きな変化点のひとつだと思いますので、そういう変化点を、今、活用して今度はトヨタグループのビジョンを掲げ、そういう目で責任者としての役割というのを果たしていきたいと思っております。あと、やっぱり、なんだかんだと言って、やっぱり別会社なんですね、資本というだけではですね、なかなか、理解、解決できない、企業間の歴史、企業間の付き合い方というのがあると思います。単に資本の論理だけではなくて、そこに働いておられる従業員、 そして取引先、そしてお客様、そのすべてのステークホルダーが、この会社をもっと発展していいよという風に言ってもらえるためのトヨタに再生するようリードしてまいりたいと思いますので、ぜひとも、ちょっと長期目線で、見ていただきたいなと思います。

今日は急遽お集まりいただきまして、本当にありがとうございました。ビジョンの発表、ということで個別のことには入りませんでしたけれども、私自身の、ものの見方、考え方みたいなのを多少ご理解は進んだんじゃないのかなと思っております。 そういう意味で、やっちゃいけないことをやったグループの責任者として、改めまして、色々ご心配をおかけしたこと、大変申し訳なく思っております。今日から、グループ責任者として、いろんな形で動いてまいりますので、ぜひとも、今後ともでよろしくお願いをしたいと思います。今日は誠にありがとうございました。

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