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2015年に誕生した現行4代目の、いわゆる「ND型」と呼ばれるマツダ・ロードスターが23年末に大幅な商品改良を受け、24年1月より発売された。
ロードスターに限らず、マツダのクルマは毎年のように細かい改良を施されることが通例となっているが、今回のマイナーチェンジはちょっとスケールが違う。それこそフルモデルチェンジといっても過言ではないほどの大刷新なのである。
ひとまず改良点を箇条書きにしてみよう。 ●マツダ・レーダー・クルーズ・コントロールの採用 ●スマート・ブレーキ・サポート採用 ●8.8インチセンターディスプレイ採用 ●ヘッドランプとリヤコンビネーションランプのデザイン変更 ●ホイールのデザイン変更 ●新ボディカラー「エアログレーメタリック」追加 ●アシンメトリックLSD採用 ●電動パワーステアリング改良 ●エンジン出力向上 ●吸気系デバイス改良 ●DSC-TRACK追加 ●新グレード「S Leather Package V Selection」追加
今回の商品改良は、新しいサイバーセキュリティ法が継続生産車にも適用されることに伴い、電動パワーステアリングやスタビリティコントロールといった電子ユニットを刷新する必要が生じたことが発端だ。そのタイミングを活かして全方位的に走りの質を高めることとしたわけである。
ひとつひとつの刷新内容については各写真のキャプションをご覧いただくとして、本稿では走りの進化に的を絞ってレポートしたい。
ダイレクト感が増したステアリング
走り出して、駐車場内を移動した瞬間に感じたのはステアリングフィールの変化だ。新型ではモーター制御を従来のサプライヤーからマツダ内製に変更したのに加え、ステアリングギヤの構造変更によってフリクションを低減させ、それによって自然ですっきりとしたフィードバック感を実現したという。
で、筆者が受けた印象はといえば、「すっきり」というより「がっしり」感が増した、である。なにかステアリングのシャフトからラックまでがひと回り太くなったようなイメージ(あくまでイメージ)で、最初に切り始めた際には「重くなった?」とすら感じた。もちろんネガティブな意味ではなく、しっかりとした手応えがあり、よりダイレクト感が増したということだ。
エンジンは従来型と比べて4ps向上している。これは、従来型が欧州のレギュラーガソリンであるRON95に合わせてセッティングしていたのを(日本のレギュラーガソリンは約RON90であるため、従来型の日本仕様もハイオク指定だった)、新型では日本のハイオクガソリンであるRON100に合わせて最適化させた結果だ。だからパワーアップさせたというよりも、エンジンがもっていた本来のパフォーマンスをより引き出せるようになったと解釈するのが正しいだろう。
実際、全開加速をしても筆者は4psのアドバンテージを感じ取ることはできなかったが、レスポンスは向上しており、より右足の動きにダイレクトに反応してくれるようになった。速くなったというよりも元気になったと言えばいいだろうか。とりわけアクセルを戻した際の応答性が引き上げられており、開発陣によればアクセルオフから加速度が低下し始めるまでの時間が0.2秒短縮されているという。もともとロードスターの1.5Lユニットは今どき貴重な自然吸気のライトサイズ(適正な排気量)エンジンならではの上質ですっきりとした吹け上がりが身上だったが、そんな魅力にさらに磨きがかけられたことは間違いない。
吹け上がりの気持ちよさといえば、改良が加えられた吸気デバイスの効能も大きい。
まず新型では、エアクリーナーの下部に開口部が追加された。そして従来から採用されていたサウンドエンハンサー(吸気音をコクピットに導くシステムで、従来型、新型ともにRSに標準、S Leather Packageとその派生グレードにオプション)の構造が変更された。これまではチャンバーの内部を共鳴させることで吸気音を増幅させていたのに対し、新型では吸気音をより効率的にコクピットに取り込めるようになった。それにより、従来は3000rpmあたりから効果が現れ、5000rpmくらいで効果が低下してしまっていたのが、新型では全域にわたって効果を発揮できるようになったという。
聴き比べてみれば効果は明らか。エンジンの回転数に比例した吸気音がドライバーの耳に届くから、心地よいのはもちろん、クルマの状況を感じ取る情報の正確性が増すことによって人馬一体感の向上にも寄与しているはずだ。
ただ、これは筆者の戯言として聞き流していただきたいが、従来型サウンドエンハンサーの、3000rpmから湧き上がってくる迫力あるサウンドのほうが高揚感という点では上回っていたと思う。普段はジェントルなのに、アクセルを踏みつければ胸のすくような快音が轟く──あれはなかなかドラマチックであった。従来型のオーナーのみなさん、こればっかりは新型を羨ましく思う必要はありませんよ~。
アシンメトリックLSDで走りはどう変わった?
そして今回の商品改良の最大のハイライトが、アシンメトリックLSDの採用である。従来型が搭載していたスーパーLSDは減速側も加速側も同じ差動制限力をもっていたが、アシンメトリックLSDは減速側の回転方向と加速側の回転方向で異なるカム角をもち、それぞれに最適な差動制限力を実現している。
この効果は絶大で、コーナーの進入でブレーキングにより積極的にフロントに荷重をかけるような場面でもリヤが不安定にならず余計な動きが出ない。だから不安なくラインをトレースすることだけに集中できる。
一方で面白いのは、立ち上がり時の効きは従来型と変わらないということ。アシンメトリックLSDの狙いが、あくまでコーナー進入(減速)時の安定感の向上にのみフォーカスしていることがうかがえる。減速時の効きを弱めてノーズの入りを良くし、加速時の効きを強めて高いトラクション効果を狙う1.5way式とは対照的であることが、あくまで人馬一体感を追求し続けるロードスターらしい姿勢だと感心させられた。
そして忘れてならないのは、2022年モデルより採用されているKPC(キネマティック ポスチャー コントロール)の存在だ。コーナリング時にイン側の後輪のブレーキをわずかにつまんで、リヤを安定させるシステムだが、これがまことに好ましい。モーターサイクルで、コーナリング時にリヤブレーキを軽く当ててリヤを安定させるテクニックに近い感覚で、4輪すべてがしっかり路面を捉え続けてくれるから安定感がすこぶる高いのだ。KPCによる重量増はまったくないとのことで、これぞロードスターに相応しいテクノロジーといえよう。
ちなみにアシンメトリックLSDも従来のスーパーLSDと重量はほぼ変わらない。ただ、これまでは1.5Lエンジン搭載車(つまりソフトトップ)と2.0Lエンジン搭載車(つまりRF)ではプロペラシャフト、ドライブシャフト、PPF(パワープラントフレーム)のサイズが微妙に異なっていたが、今回からは従来の2.0Lと同じサイズに統一された。1.5L用から2.0L用に変えたことによる重量増は、上記パーツをすべて合わせて2kgとのことだ。そしてつまり、RFに関してはアシンメトリックLSDへの進化に伴う重量増はゼロというわけだ。
それにしても、発売からもうすぐ9年が経つND型ロードスターに、まだこれほど進化の余地が残されていたとは心底驚かされた。そして、まだまだ熟成させ続けるマツダの姿勢にも感服せざるを得ない。
ピュアスポーツカーとしての高い完成度、ブレないフィロソフィー、長く輝かしい歴史とそれに伴うブランドイメージ、作り手の熱意、そして世界中のファンの存在……マツダ・ロードスターはポルシェ911に比肩する存在だ。今回の試乗で、その思いはさらに確固たるものになった。
■マツダ・ロードスター S Leather Package V Selection 全長×全幅×全高:3915mm×1735mm×1235mm ホイールベース:2310mm 車両重量:1030kg エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:P5-VP[RS]型 総排気量:1496cc ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm 圧縮比:13.0 最高出力:100kW(136ps)/7000rpm 最大トルク:152Nm/4500rpm 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) トランスミッション:6速MT サスペンション形式:Ⓕダブルウィッシュボーン Ⓡマルチリンク ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡディスク タイヤサイズ:195/50R16 乗車定員:2名 WLTCモード燃費:16.8km/L 市街地モード燃費:11.9km/L 郊外モード燃費:17.6km/L 高速道路モード燃費:19.7km/L 車両価格:355万3000円