リフトアップはカッコいいけど…後部突入防止装置はどうなる?ジムニーカスタムの行方は?

いま、ジムニーカスタムは80年代の「四駆ブーム」に流行していたような、トライアル競技車両を思わせる無骨なカスタムが注目を集めている。このラギッド感満載なカスタムカーだが、意外な問題点が浮上してきたと、あるカスタムビルダーは語る。いったいどんな問題なのだろうか?

TEXT&PHOTO:山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka)

ジムニーカスタムは競技系の無骨なカスタムがアツい!けど...。

東京オートサロン2024の出展車両を見るとその傾向が分かるが、ジムニーカスタムの手法はますます80年代の「四駆ブーム」時に回帰しているように思われる。

リフトアップはもちろんのこと、スチール製のショートバンパーを前後にあしらい、できるだけ3アングルを上げてオフロード性能を向上させるというものだ。こうしたカスタムは、四駆ブーム時に流行した「4WDトライアル競技」の出場マシンの定番であったもので、そのカッコよさに“シティオフローダー”たちが飛びついたわけである。

令和の今でも、本格的にクロスカントリーを楽しんでいる人や競技志向の人はこのようなカスタムをすることがスタンダードとなっている。だから、昔ながらの四駆乗りにとってみれば“いまさら”感があるのだが、四駆ブームを知らない年代にとってはラギッド感満点な新しいカスタムに見えるかもしれない。

80年代の四駆ブーム時に流行した「4WDトライアル競技」系のカスタムは、当時のブームを知らない年代にとっては新鮮に映るのだろう。

そんなヘビーデューティなジムニーが百花繚乱する中で、あるカスタムビルダーがぼそっとつぶやいた。「こういうカスタムはまもなく消えてしまうかもしれませんね」。かつて四駆ブームで、車両の前に装着する「グリルガード」「ブルバー」といったものが大流行したことがあったが、歩行者保護などといった観点の批判が社会で高まり、結局はその文化自体が廃れてしまったことがある。

日本においては、北海道などの一部地域以外では野生動物が車両にぶつかるといった事故はレアケースであり、こんな危ないパーツは法律で縛った方がいいというわけである。結果的には業界の自主規制という形で決着を見たが、この流れが四駆ブーム自体を沈静化してしまったことは否めない。もちろん、ディーゼル規制といった別問題も重なったわけだが。

話を戻すが、件のビルダーがなぜこのようにつぶやいたかには理由がある。それは「後部突入防止装置」の装着義務が強化されたことによる。本来は大型トラックやトレーラーに、後部からぶつかった場合、相手側車両の下にぶつかった車両が潜り込むことでライフスペースがなくなり、重大事故につながることを防止するために考えられた要綱だ。だが、その要綱は非常に玉虫色であり、読みようによっては最低地上高の高い4WDやSUVをさらにリフトアップした場合に、それが当てはまる可能性が出てきたのである。

日野の4tトラック「レンジャー」に装着された「後部突入防止装置」 画像:日野自動車

その小難しい要綱を読んでも、分かったような分からないような気になるが、メーカー純正オプション品なども手がける老舗パーツメーカー「JAOS」がまとめたサイトに詳しいので、ここにURLを記しておく。

では、一体どのような状態だと後部突入防止装置の装着の必要なのかというのを端的に言えば、地上からバンパー下部までの距離が550㎜以内に収まっていない場合は装着する必要がある。ちなみにスズキは、ノーマルジムニーのリアバンパーが後部突入防止装置の役割も兼ねているということで届け出を出しているようだ。

それはさておき、ではリフトアップしている車両は全部装着義務があるのかというと、それが違う。仮に2インチアップしていたとしても、タイヤサイズやバンパー形状を合わせて地上からの距離が550㎜以内であれば問題ないのである。昨今は1インチアップなどのチョイ上げがトレンドなので、一般的にそこまで後部にロードクリアランスができるカスタムをする人の方が少ないかもしれない。だが、競技に愛車で出場している人などは抵触する可能性はある。

難解な法文のため、陸運局でも徹底周知されていない?

だが、前述のように法文というのは難解でどうとでも取れるようにできているので、むしろ車検業務を行っている陸運局でも徹底周知されていないというのが現実のようだ。仲間のジムニー乗りに聞いたところ、ある東北のカスタムビルダーが車検に持ち込んだところ、「問題ない」ということで車検が通った。そこで敢えて残っている車検を切り、再び陸運局に持ち込んだところ、今度はNGになって大問題になったという。

このビルダーは車検の様子を許可の元に映像化していたため、2回目の車検がNGになった際に、この“公認動画”を示しながら、結果的には2回目もOKに持っていった。だが、担当者によって車検の認識が違うということはよくある話で、午前はNGだったが午後は同じ担当者なのにOKだった…なんて笑い話もあるほどだ。

加えて、後部突入防止装置がどのようなものを付ければいいのかという明確な基準もない。明かされているのは、寸法と取り付け位置だけだ。これは関西の某ジムニーショップから聞いたのだが、どんな形で後部突入防止装置を作ればいいかを陸運局に相談に行ったところ、牽引に使う「Uシャックル」を2個離してバンパー下に付ければいいだろうという嘘のような話があったという。

「後部突入防止装置」の装着義務を満たすためにパイプ状のバンパーを装着している。

単純に考えれば、チューブバンパーの下に、基準寸法の別なパイプのようなものを付ければいい気がするし、某メーカーもほぼそのような商品を造っている。実際に普段そういうパーツを付けて走るユーザーは少ないだろうし、要は車検対策のためということになるのは明白だ。現状では、ほとんどのメーカー、ビルダーが「様子見」の状態で、他社の動向を窺っているようである。

ジムニーのデリバリーは相変わらず長納期状態だが、市井には車両も十分に出回り、カスタム業界もいよいよ活況を呈している。この厄介なモノの存在が、勢いづいている業界に水を差さなければいいが、ユーザーも愛車をドレスアップする際は、頭の片隅にこのことを置いた上で、カスタムメニューを決めた方がいいかもしれない。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…