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ホンダとGM 共同開発した新世代燃料電池システムを搭載
CR-V e:FCEVは2022年から北米を皮切りに中国、欧州などで販売されている6代目CR-Vがベースだ。6代目CR-Vの国内導入はe:FCEVが初となる。
1990年代後半から燃料電池技術の量産車への適用に取り組んできたホンダは、2002年に世界初となる燃料電池車FCXを日米で同時発売。2008年には燃料電池(FCスタック)システムの小型化を実現し、セダンタイプのFCXクラリティに搭載して販売した。2016年には燃料電池システムのさらなる小型化を果たした燃料電池を開発し、これを世界で初めて5名乗車を実現したクラリティ・フューエルセルに搭載して販売した。
日本に加え北米での発売を予定しているCR-V e:FCEVは、ホンダがGMと共同開発した燃料電池システムを搭載する。この燃料電池システムは両社の合弁会社であるFuel Cell System Manufacturing, LLC(米国ミシガン州)で生産され、車両はホンダのPerformance Manufacturing Center(米国オハイオ州)で生産する。
これまでセダンタイプだった燃料電池車(FCEV)をSUVに変えたのは、FCEVの本格普及を見据えた戦略的な判断である。世界的に人気の高いSUVをあえて選んだというわけだ。かさばる燃料電池システムを収めるのにセダンよりもSUVのほうが好都合だからでは? と意地悪な質問をすると、「(アコードのような)セダンでも積めます」との回答が返ってきた。
17.7kWhバッテリー搭載で60km以上のEV走行が可能
CR-V e:FCEVの大きな提供価値のひとつは、プラグイン充電機能を備えていることだ。つまり、プラグインハイブリッド車(PHEV)として使うこともできる。17.7kWhのリチウムイオンバッテリーを床下に搭載しており、バッテリー電力のみで60km以上の走行が可能だ(スペック上)。日常使いはEVとして、ロングドライブでは約3分で水素の満充填が可能なFCEVとして使い分け、どちらにしても静粛性が高く、スムーズでシームレスな加速が身上のモーター走行が味わえる。
発電用の水素に加え、大容量のバッテリーに多くの電気エネルギーを蓄えられるのがCR-V e:FCEVの特徴で、その特徴を生かしたエネルギーマネジメント技術を採用している。EVスイッチでAUTOを選択すると、バッテリー残量に応じ、燃料電池システムで発電する電力とバッテリーからの電力に関し、効率的なほうを自動で選択しながら走行する。SAVEモードを選択するとバッテリー残量を維持しながら走行。CHARGEモードは燃料電池システムで発電し、バッテリーを充電しながら走る。
EVモードはバッテリー電力を優先しながら走るのが基本。ドライバーの加速要求が大きい場合は燃料電池の出力でカバーすることになるが、EV走行可能な出力領域がメーターに表示されるため、メーターの表示を確認しながら、燃料電池システムを作動させないようアクセルペダルの踏み込み加減を調節できる。
給電機能もCR-V e:FCEVの価値
CR-V e:FCEVの提供価値はまだある。給電機能だ。左フロントフェンダーにはAC(普通)充給電口がある。家庭用をはじめ、100/200Vの普通充電に対応。また、Honda Power Supply Connector(ホンダ・パワー・サプライ・コネクター)を使うことで、家庭用コンセントと同様の100V電源として使うことができる。容量は最大1500Wだ。
トランク内右側にはDC給電口が備わっている。ホンダの可搬型外部給電器、Power Exporter(パワーエクスポーター)を使うことで大容量(最大6kVA〜9kVA)の電力を取り出すことができる。電動工具を使う作業やレジャーではAC給電で充分。DC給電は非常時やイベントでの使用を想定している。
バックドアを開けて荷室を目にした際に「えっ?」となるかもしれない。CR-V e:FCEVは水素タンクを搭載する都合上、荷室に直方体の盛り上がりがある。セダンなら大きな犠牲になるところだが、そこはSUV。水素タンクの張り出しを積極的に利用するアイデアを提案している。
相応の重量物に耐えられるフレキシブルボードを水素タンク上面の高さに合わせてセットすると、上段に広大なスペースが出現。ベビーカーを飲み込むほどの広さがある。下段は買い物品を置くもよし。外から見えなくなるので、安心して使えるセキュリティスペースとしての使い方も可能だ。
2本の水素タンクを搭載
プラットフォームは6代目CR-VのPHEVをベースとしている。e:FCEVは乱暴にいえば、CR-V PHEVからエンジンを降ろし、燃料電池システムと2本の水素タンクを付加した格好。燃料電池システムを搭載するため、フロントのオーバーハングをPHEV比で110mm延長している。このうち燃料電池システムの搭載に必要なのは60mmで、残りの50mmはe:FCEV専用のデザインに使ったとのこと。
「フロントフード、フェンダー、バンパー全体で伸びやかさを演出し、知的で大胆なフロントまわりのデザインとしました」と担当デザイナーは説明する。ヘッドライトはベース車両に対して薄型にし、ワイド感を強調。CR-V伝統の縦型リヤランプはクリア化することで、FCEVらしいクリーンなイメージを与えている。
パワーユニットに関しては、FCEVの普及拡大を見据え、ベース車両に大幅な変更を加えることなく構成している。コスト低減を意識したということだ(車両価格は未発表)。IPUと呼ぶバッテリーパックや充電器はPHEVのコンポーネントを流用。CR-Vへの搭載性を考慮し、GMと共同開発した燃料電池システムの下に位置するギヤボックスは低ハイトにこだわって新開発。これをモーターと組み合わせ、燃料電池システムと一体化した。
2本の水素タンクはプラットフォームの変更を最小限としつつ容量を最大化して搭載。1本を後席下、もう1本を荷室に搭載する。同一サイズを2本積んだほうがコスト面では有利だが、容量を最大化するためにそれぞれ別諸元にした。後席下のタンクは「(頭上スペースがきつくなるので)後席のヒップポイントを変えない」ことを条件に諸元を決めたという。シート側では、スライド機構とフレーム構造を変えることで、水素タンクの容量確保に貢献した。
燃料電池のセル構造は、2016年のクラリティ・フューエルセルが搭載していた仕様に対し大幅に変化。よりシンプルな構造にすると同時に、白金使用量を大幅に低減することで低コスト化。セルのスタック(積層)数を前モデル比で15%削減したのも低コスト化につながっている。スタック数が減っているのでグロスの出力も減っているが、発電面積の最適化や補機類の低消費電力化によって、従来と同等のネット出力を確保している。
耐久性やNV(振動騒音)、低温始動性や冬期の燃費悪化に対する対策など、燃料電池システムに関しては低コスト化と並行して全方位で性能アップが図られている。使い勝手のいいSUVを水素と電気のデュアルのエネルギー源に対応させ、複数の給電機能を組み合わせたマルチプレーヤーがホンダCR-V e:FCEVだ。