日産アリアNISMO 電気のニスモは「風格と電撃のクロスオーバー」 800万円オーバーのスポーツSUVはアリか?

日産アリア NISMO B9 e-4ORCE(91kWh)
日産自動車は3月8日、1月の『東京オートサロン 2024』で初公開したアリアNISMOを正式に発表した。発売は6月が予定されている。そのアリアNISMOにテストコースで試乗した。商品コンセプトは、「風格と電撃のクロスオーバー」だ。果たして、その電撃ぶりは?
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)

ベースはe-4ORCE バッテリー容量は66kWh/91kWh

日産アリア NISMO B9 e-4ORCE(91kWh)ボディカラーはNISMOステルスグレー/ミッドナイトブラック

アリアにはフロントにモーターを搭載する2WD仕様と、フロントとリヤにモーターを搭載する4WD仕様がある。4WD仕様は前後2基のモーターと左右のブレーキを統合制御することにより、駆動力を自在にコントロールする制御技術、e-4ORCE(イーフォース)を適用している。2WDと4WDのそれぞれに、バッテリー容量が66kWhのB6と91kWhのB9が用意されている。

アリアNISMOのベース車は4WDのB6とB9だ。NISMO B6 e-4ORCEが842万9300円(税込、以下同)、NISMO B9 e-4ORCEが944万1300円である。

日産アリア NISMO B9 e-4ORCE(91kWh) 全長×全幅×全高:4650mm×1850mm×1660mm ホイールベース:2775mm
トレッド:F1585mm/R1585mm 最小回転半径:5.4m
最低地上高:165mm 前後重量配分F49:R51

商品コンセプトは、「風格と電撃のクロスオーバー」だ。「ベースモデルであるアリアの風格を磨きつつ、フォーミュラE譲りの電撃パフォーマンスを加えることにより、新感覚のエキサイトメントを提供する」のが開発の狙いだ。

言い換えれば、重視したのは二面性で、アリアがもともと備える信頼と安心感に磨きをかけるいっぽう、まるでフォーミュラEマシンに乗り込んだかのような非日常感が味わえる、突き抜ける加速の高揚感を付与するべく開発に取り組んだ。

空力を磨いたエクステリア

レッドのアクセントがNISMOの証

エクステリアは、アリアがもともと備える上質さに空力機能を加えた。アッパーボディは品格を表現。ロワーボディは機能美を意識したという。情緒のアッパーと理性のロワーをつなぎ合わせるのが、ボディ下部をぐるりと巡るレッドのアクセントラインだ。

レッドは従来からNISMOを象徴する差し色として用いられてきたが、アリアNISMOに採用したレッドは、「新しい電動NISMOを象徴する」カラーとして開発され、アルテリアマグマと名づけられた。内に秘めたパワーをマグマになぞらえ、そのマグマが隙間から覗く様子をイメージしたという。アルテリア(Ulterior)には、隠された、秘めたなどの意味がある。

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ドアミラーにもレッドのアクセントが

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フロントバンパーもNISMO専用

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ホイールはエンケイ製。MAT工法による軽量・高剛性エアロホイールだ。

アリアNISMOのフロントバンパーは、スピード感や低重心を強調する意味も込めてデザインされているが、同時に空力性能を向上させる部品としても機能する。コーナー部のエアカーテンによる整流効果とカナードによる渦の生成により、フロントのホイールハウスからエアを吸い出して内圧を下げ、ダウンフォースを生み出す(実際にはリフト=揚力を低減させる。いずれにしてもタイヤの接地圧は高まり、タイヤのグリップ力は増す)。

ULTERIOR MAGA(アルテリアマグマ)がテーマで「内包するマグマが覗くレッドアクセント」

ドアフィニッシャーと呼ぶサイドシル部は、ベース車に対して端末を40mm下げつつ、外側に37mm拡大した。これにより、フラットボトムの面積が拡大し、リフトの低減に結びつけている。

リヤオーバーハングは40mm伸びて985mm

リヤはバンパー底面のディフュザー部を40mm延長したのに加え、ダックテール状のスポイラーを追加。ルーフスポイラーの形状を最適化することにより、渦が発生するポイントが後ろになりドラッグ(空気抵抗)が低減する。アリアNISMOはこれら各部の形状最適化により、ベース車に対してリフトを40%、ドラッグを6%低減した。

タイヤサイズはF&R 255/45R20_8.5J ミシュラン PRIMACY⁴を履く
NISMOエンブレムは、ホイールのこの部分に。
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20インチのアルミホイールはモーターの鉄芯をイメージした専用デザインを採用。軽量高剛性のエンケイ製で、ベース車の8.0Jに対して0.5J(約13mm)ワイド化した8.5Jサイズとした。これにより、255のタイヤ幅は同じながら、接地幅は左右合わせて5mm増えているという。そのぶんグリップのポテンシャルが増えることになる。

タイヤは専用開発のミシュラン・パイロット・スポーツEV(255/45R20)を装着。コンパウンドや内部構造は専用にチューニングした。背反関係にあるグリップと転がり抵抗の両立に取り組んだという。また、高い静粛性を実現するため、特殊吸音スポンジを採用した。

電動NISMOのアイコンとなるフードステッカーはオプション設定。ボディカラーはNISMOロードカー専用色のNISMOステルスグレーなど全6色をそろえる。

電動NISMOのアイコンとなるフードステッカーはオプション設定。ボディカラーはNISMOロードカー専用色のNISMOステルスグレーなど全6色をそろえる。
フロントスポイラーの下部はこうなっている。
ルーフスポイラーとリヤのダックテール型のデッキスポイラーで美しさと空力性能を両立する。

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NISMOを操る喜びを感じるインテリア

スタンダードモデルからブラック基調に変更されたインテリア。ステアリングホイールにはレッドのアクセントが付く。

インテリアはブラックを基調とし、インストルメントパネルを幅方向に貫くメタルフィニッシャーをはじめ、随所にレッドのアクセントを施している。アリアの特徴であるANDON(行灯)イルミネーションは、何度も試作を繰り返してアルテリアマグマにふさわしいレッドの発光色を実現したそう。NISMOのメタルロゴをスタート/ストップボタンの横に配したのは、「ドライバーがクルマと接する瞬間からNISMOを操る喜びを感じてほしい」との思いからだ。

NISMO専用のスポーツシート。サイドサポート部の形状変更やPAD細部の入念なチューニングが施された。
シートバックのNISMOロゴの刺繍がアクセント

シートはベース車のパワーシートをベースに手を入れた。表皮はスカイラインNISMOやフェアレディZ NISMOでも採用しているスエード調とし、滑りにくさを重視。差し色のレッドが覗くパーフォレーション加工を採用することでグリップ力を稼いでいる。シートバックのNISMOロゴの刺繍がアクセントだ。

サイドサポート部は形状を変更し、ホールド性を向上。尻と腰の部分に補強布を追加し、快適性を保ちながら姿勢保持性を高めている。

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2.2トンのアリアを軽々と走らせる

日産アリア NISMO B9 e-4ORCE(91kWh)

走りについては、「安心感があり、気持ちよく、結果として速いクルマ」をコンセプトに開発に取り組んだ。これは、歴代のNISMO各車に共通する考えだという。このNISMO共通コンセプトをなぞるにあたり、「アリアは難しかった」と開発者は語る。なぜなら、ベース車がすでに600Nmの強大なトルクを発生し、速く、気持ちがよくて、安心して走れるクルマだからだ。

それに、車両重量が約2.2tもあり、GT-R NISMOやスカイラインNISMOに対してざっと500kgも重い。これをどうやってNISMOらしいクルマに仕立てるのか。

打った策のひとつはe-4ORCEのチューニングである。トルク配分をベース車に対して後ろ寄りにし、リヤタイヤをより駆動側に振り向け、フロントタイヤはより旋回方向に使うようにした。フロントのストラットは外筒の板厚をアップ(2.3mm→2.6mm)し、コイルスプリングのばね定数を3%アップ。スタビライザー(アンチロールバー)のばね定数を15%上げた。フロントのロール剛性を高める(前輪により仕事をさせる)チューニングだ。リヤはダンパー(ショックアブソーバー)の減衰力をチューニングした。

パワーステアリングは一般走行域では軽快さを感じ、高速域ではしっかり感を感じられるよう制御を変更。ブレーキ耐熱温度を上げたパッドを採用し、耐フェード性を向上。タイヤとブレーキパッドの変更に合わせてABSはチューニングをしなおし、ペダル踏み込み時のしっかり感を実現すると同時に、100→0km/hの制動停止距離を約8%低減した。VDC(ESC:横滑り防止装置)は介入のタイミングを遅らせ、スキルのあるドライバーでも限界域で気持ち良く楽しめる制御としている。

こうしたチューニングが効き、アリアNISMOはGT-R NISMOを超える旋回時横力を発生し(と、シラッと書いておく)、筑波サーキットを1分8秒で周回する実力(スカイラインNISMOにちょっと負ける程度)を備えるに至った。とはいえ、サーキットでの速さを追求するのがアリアNISMOの目的ではない。主戦場は公道である。そのため、操舵に対する車両の安定性やライントレース性を重視した。旋回加速時におけるコーナー出口の操舵角はベース車よりも12%低減しているというから、より狙いどおりにラインをトレースできるということだ。

また、タイヤやサスペンションは、旋回時のロール角の低減と同時に、突起乗り越し時の入力低減も意識してチューニングが行なわれた。「公道で走って気持ちいい」を実現するためである。

パワートレーンはどうか。ベース車の最大トルクが600Nmもあることは前述したが、最高出力だってすでに290kW(394ps)ある。これを320kW(435ps)まで引き上げた。日常ドライブでどのようにしてNISMOらしさを表現するつもりなのか。

駆動モーター フロント 形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm リヤ 形式:AM67型交流同期モーター 定格出力:45kW 最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm 最大トルク:300Nm/0-4392rpm システム総合出力:320kW/600Nm

まず、高速道路での追い越し加速で違いが感じられるようにした。80km/h一定からアクセル開度を50%まで踏み込んだ加速では、ベース車より高い加速Gを持続しながら、1秒速く120km/hに到達する。また、アクセル開度15%の発進加速では、レスポンス良く初期のGが立ち上がり、ベース車より高いGをしながら加速していく。

ドライブモードはベース車のSPORTに代わり、NISMOモードを設定した。ECOとSNOWモードはベース車を踏襲。STANDARDモードは制御を変更し、力強さと扱いやすさをバランス。Dレンジ(e-pedal OFF)では、ベース車に対して加速力を強く、減速力は弱めている。

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NISMOモードも同様で、ベース車のSPORTに対して加速力を強め、減速力を弱く設定した(Dレンジ、e-pedal OFF選択時)。また、オプションでBOSE Premium Sound System & 10スピーカーを選択した場合は、フォーミュラEをイメージしたアリアNISMO専用のEVサウンドが付加される。

実物のアリアNISMOはひと目で走りに振ったスペシャルなモデルだとわかるし、ひと目でNISMOのモデルだとわかる。アルテリアマグマのレッドの差し色が効いている。インテリアも同様で、深いブラックと落ち着いたレッドのコンビネーションがいかにもNISMOだ。ギラギラしていないし、どぎつくないのがいい。

テストコースでの試乗(BOSEオプション装着車)だったので、(突起やザラザラした路面も設定されているものの)総じて公道より路面の状態は良く、そのため断言はできないが、日常使いで困惑しそうな硬い乗り味ではない。STANDARDモードではいかにもBEVらしく、極めて静かでスムースな走りに終始する。

システム総合出力:320kW/600Nm ベース車から30kWアップしている

態度が豹変するのはNISMOモードを選択したときだ。SF映画の効果音のようなサウンドがアクセルペダルの動きに連動して強くなったり、弱くなったりする。音の好みはあるだろうが、気持ちにスイッチが入るのは確かだ。

パイロンスラロームでは、スタンダードでもDレンジよりBレンジ、Bレンジよりe-pedal ONのほうが減速度は強くなり、車速のコントロールはしやすく、リズミカルにパイロンをクリアすることができる。タイトなコーナーの切り返しではさすがに重さを感じるが、長い直線からコーナーへの進入では狙いどおりに向きを変え、過度にロールせず、安定した姿勢を保ってクリアする。キビキビ動いて実に気持ちがいい。

直線では80km/hから120km/hの加速を試したが、「この速度域でこんなに激しく加速する?」と衝撃を覚えるほどだ。アクセルペダルの踏み込みに対する反応の良さはBEVならでは。大人しく走るときの上質さと、その気になったとき見せる電撃的な速さという、コントラストの強い二面性がアリアNISMOの魅力である。

日産は、日本メーカーとして唯一フォーミュラEに参戦している。
日産アリア NISMO B9 e-4ORCE(91kWh)
全長×全幅×全高:4650mm×1850mm×1660mm
ホイールベース:2775mm
車重:2220kg
サスペンション:Fストラット式/Rマルチリンク式 
駆動方式:FWD
駆動モーター
フロント
形式:AM67型交流同期モーター
定格出力:45kW
最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm
最大トルク:300Nm/0-4392rpm
リヤ
形式:AM67型交流同期モーター
定格出力:45kW
最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm
最大トルク:300Nm/0-4392rpm
システム総合出力:320kW/600Nm

バッテリー容量:91kWh
車両本体価格:944万1300円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…