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トライトンはじつは三菱のコアモデル
三菱自動車工業は1978年からピックアップトラックを販売している。最初はフォルテだった。トライトンを名乗るのは2005年の第4世代からで、2023年にデビューした新型は第6世代にあたる。初代からの累計販売台数は560万台を超えるという。現在は、世界約150ヵ国で年間約20万台を販売している。
三菱自動車のコアモデルといって差し支えないが、失礼ながら筆者にその実感はなかった。トライトンは耐久信頼性に定評があり、ASEAN、オセアニア、中南米、中東、アフリカで高い実績を誇り、シェアナンバーワンの国もあるという。
トライトンが支持されるのは、その国や地域の使われ方に即したつくりになっているからだ。日本にはSUVとしての使われ方を想定して最上級の仕様を導入しているが、国によっては働くクルマとしての価値をトライトンに求めるため、快適性よりも堅牢性がより強く求められることになる。平日は荷物の運搬用に使い、休日は家族のために使う、使われ方もある。
日本には4枚ドア2列シートのダブルキャブを導入しているが、トライトンには2枚ドア1列シートのシングルキャブもあり、2枚ドア1列シートながらシングルキャブよりもシート後方が広いクラブキャブもある。ディーゼルエンジンは出力違いだけで4種類あるそう(日本には高性能バージョンを導入)。車高の違いも存在し、バリエーションは200〜300に達するという。
そのなかのひとつ(グレードは2つ)が日本にやって来る(生産はタイで行なう)。200台の月販計画に対して3月10日の段階で約1700台を受注しているというから、出足は好調といっていいだろう。
日本に導入するトライトンは、ダブルキャブで、2Hと4H、センターデフをロックする4HLCと4LLCの4つのモードをダイヤルスイッチで切り換えることができるスーパーセレクト4WD-II(SS4-II)を搭載した仕様だ。
トライトンの実力を荒野で試す
エンジンは2.4L直列4気筒ディーゼルを搭載。これに6速ATを組み合わせる。エンジン名称は4N16なので前型4N15のマイナーアップデート版かと思いきや、「共用している部品はボルトくらい」というから、ほとんど新設計だ。最高出力は150kW/3500rpm、最大トルクは470Nm/1500-2750rpmを発生。4N15との大きな違いは過給機の仕様で、シングルターボだった4N15に対し、4N16は2基のターボチャージャーを直列に配置して使う2ステージターボとなっている。
運転状況に応じて高圧側と低圧側のターボを高圧側だけ使ったり、両方使ったり、低圧側だけ使ったりする。そのことでレスポンス良く、ドライバーが要求する力を発生させる。トライトンは悪路では頼もしく、公道ではストレスなく快適に走らせることができる。ドライバーの意のままに力を出してくれる柔軟で頼もしいエンジンの貢献は大きい。
富士が峰オフロードを舞台にした試乗では、SS4-IIと7つのドライブモードの効果を体感した。走行シーンに適した制御に切り換えるドライブモードはNORMAL、ECO、GRAVEL、SNOW、MUD、SAND、ROCKの7種類ある。各駆動方式で7つのモードすべてが選択できるわけではなく、駆動方式別にドライブモードが割り当てられている。
2H(後輪駆動)はNORMALとECO、4H(前40:後60のフルタイム4WD)はNORMAL、GRAVEL、SNOW、4HLC(センターデフをロックした直結4WD)はNORMAL、MUD、SAND、4LLC(直結4WD+ローギヤ)はNORMALとROCKが選択できる。各駆動方式とドライブモードごとに、パワートレーンやトラクションコントロール(TCL)、アクティブスタビリティコントロール(ASC)、ブレーキAYC(旋回内輪に軽くブレーキをかけて内向きのヨーモーメントを発生させる)の特性を最適化させる。
「本当にここを走るの?」と、誰も見ていなかったら引き返したくなるような悪路であっても、4HのNORMALで走れないことはない。でも、脱出に手間取るシーンはある。左前輪はこぶに乗り上げて大きく縮み、対角にある右後輪は伸びきってしまっているような状況だ。ここでドライブモードを4HLCのMUDにすると、制御の介入が早くなってNORMALよりもイージーに脱出できるようになる。鋭い爪が地面に食い込んで前に進むような感覚が味わえるから不思議だ。
似たようなシーンでリヤデフロック(センターコンソールのボタンでオンオフ切り替えができる。デフロックは4HLCと4LLCで選択が可能)を選択してみると、このモードでもNORMAL選択時より楽に難所を通過することができる。MUDとはまた違った感覚で新鮮だ。
4H NORMALはデジカメでいえばカメラ任せのAUTO。とりあえず、これを選択しておけば間違いない。デジカメにもシーン別に最適なモードが用意されていたりするが、トライトンではそれがドライブモードに相当する。駆動方式とドライブモードをいろいろ試してみた感想としては、うまく脱出できたときのうれしさは、露出やシャッタースピードをいじってみて好みの1枚が撮れたときの感情に近い。オーディオにしてもデジカメにしても、各種調整機能を積極的にいじって楽しむ派にとって、トライトンの駆動方式とドライブモード(とリヤデフロック)の切り換え機能は親和性が高そうだ。
オンロードでは快適
オフロードコース周辺の一般道では、モノコックボディを適用したSUVと変わらない軽快な身のこなしが印象的だった。「考えが古すぎ」と指摘されそうだが、フレーム車といえば、ステアリングを切ってからワンテンポ遅れて向きを変えるイメージである。
新型トライトンにはそれがない。ステアリングを切れば、イメージどおりに向きが変わる。フレーム車はラダーフレームの上にブッシュを介してキャビンが載っている。操舵するとブッシュがねじれてから曲がり始めるため、ワンテンポ遅れてしまう。新型トライトンでは片側3点、全部で6点のゴムブッシュでキャビンを留めているが、各ブッシュの特性を最適化することで操縦性が良くなるようチューニングしたという。
電動パワーステアリング(先代は油圧アシストだった)のギヤ比をクイックにしたのも利いていそうだ。先代は3.7だったロック・トゥ・ロック回転数は新型では3.3になっており、同じ舵角なら新型のほうが大きく切れる(そのぶん曲がる力も大きく発生する)。
陰の功労者はブレーキAYCだろう。車速やステアリング舵角などから実車のヨーモーメントが不足していると判断した場合は、旋回内側輪に軽くブレーキをかけ、理想のヨーモーメントに近づけるべく制御する。剛性の高いシャシーやよく動くサスペンションといった基本諸元に、上手に適合された制御が加わることで気持ちいい走り味が実現している。
普段使いができる4WD(4H)なのも新型トライトンの大きな特徴だ。他社にあるように、4WDを選択すると自動的にセンターデフがロックされてしまう場合、オンロードでは曲率の小さなコーナーを曲がる際(交差点やUターン時など)にタイトコーナーブレーキング現象が発生し、曲がりづらさを覚える。
トライトンのセンターデフはフリーなので、4Hを選択してもタイトコーナーブレーキング現象とは無縁。ウエットや雪上、横風が強い状況のときに強い味方になってくれる。乾燥舗装路でも安定感は増すので、常時4Hを選択してもいいくらいだ。ステアリングのしっかり感が増し、それが安心感にもつながる(逆の見方をすれば、2H選択時は軽快に感じる)。
悪路での走破性は驚くほど高く、それでいてオンロードでは快適。本来なら相反する要素だが、そんな難題を澄まし顔でクリアしているのが新型トライトンである。いかつい姿形をしているが、実はとことん頼もしく、人にやさしいクルマだ。
三菱トライトン GSR 全長×全幅×全高:5360mm×1930×1810mm ホイールベース:3130mm 車両重量:2140kg 乗車定員:5名 サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rリーフリジッド式 エンジン 型式:4N16型 形式:2.4L直列4気筒DOHCディーゼルターボ 排気量:2442cc ボア×ストローク:86.0mm×105.1mm 圧縮比:15.2 最高出力:204ps(150kW)/3500rpm 最大トルク:470Nm/1500-2750rpm 燃料供給方式:筒内直接噴射 使用燃料:軽油 燃料タンク容量:75L トランスミッション:6AT WTLCモード燃費:11.3km/L 市街地モード8.5km/L 郊外モード11.4km/L 高速道路モード13.0km/L 車両価格:540万1000円