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39インチタイヤを納めるカスタムボディ
このプロジェクトのためのアリアの最大の改造ポイントが39インチタイヤの装着だ。タイヤは39×15.50R17サイズのBFグッドリッジ製オールテレインT/A K02。ヘビーデューティなオフロード車が装着するサイズで、このタイヤを装着するためにボディをカットしてタイヤハウスを拡大。さらにオーバーフェンダーを追加している。
このタイヤでスタート地点の北極からゴールの南極まで、氷雪路はもちろん砂漠や山岳地帯の未舗装路、そして通過する街の舗装道路も走っている。グリップが求められる南極の深雪では空気圧を極限まで落として走行したそうだだが、だいたい30psi(206kPa、2.1kgf/cm2)から、4psi(27kPa、0.28kgf/cm2)の範囲で調整したということで、その下限の低さには驚かされる。
それでもタイヤに関するトラブルはたった1回のパンクを除けばほとんどなかったという。
とはいえ、これだけ大きなタイヤのパンク修理は大変そうだが、そのために前後バンパーにはジャッキポイントが追加されている。
また、このチャレンジでは未舗装路を多く走ることから、車体底面には特にバッテリーを守るためのアンダーガードがフロントからリヤまで張り詰められていた。
道なき道も含め3万3000km以上を走破した車体にしては意外と綺麗だが、やはりところどころにダメージが見受けられた。ただし、フロントバンパー右下の大きめの破損についてはジュリー・ラムゼイ氏が「夫とのドライビングスキルの差によるもの」とおどけてみせた。
北極や南極、インフラのないところでどうやって充電したのか?
アリアは完全なBEVで、電気が無ければ走ることができない。インフラが整っている市街地はもちろん、とりあえず電気さえ来ていれば多数用意した変換ケーブルで充電は可能だが、全く電気の来ていない場所、今回の冒険行の目的でもある南北両極ではどうやって充電したのだろうか?
用意した充電アイテムは3つ。発電機はあくまでサブのサブ。メインはソーラーパネルによる太陽光発電と、携帯可能な風力発電装置だったそうだ。
挑戦期間は両極がそれぞれ白夜を迎える季節に設定しており、太陽光発電は電力供給のかなりのウェイトを占めることになる。また、両極を中心に強風も予想され風力発電も予定していたが、期待したほど風が強くなくこちらは使えなかったという。
とはいえ、全行程の90%はインフラでの電力を使用でき、残りの10%が発電機と太陽光発電が賄ったそうだ。スタート時の北極では、極地での電力節約の試みとしてエアコンを使わず走行して航続距離を確認。その際にはステアリングヒーターとシートヒーターがしっかり機能して凍えることがなかったという。
そこでエアコン使用での航続距離を把握したことで、南極はもちろん、砂漠や熱帯の暑い地域でもエアコンを使用した。やはり寒さより暑さの方が耐え難いのは同じなようだ。
ちなみに、1日の走行距離は道路状況や気候、環境で左右されるのだが、概ね150マイル(約241km)ごとに充電タイムを設けていたそうだ。
走行距離は3万3000km以上……だけじゃない !?
スタートとゴールの前にもかなりの距離を走行
このプロジェクトはスタート地点を1823年時点の北磁極(座標:N70 38′ 37.820″、W98 28′ 0.541″)とし、南極点(座標:N90’)まで走破するもの。しかし、実際の行程は北米内をぐるっと回るなどして、走行距離は3万3000km以上に及んだ。
通過した国はカナダ、アメリカ、メキシコ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、コロンビア、エクアドル、ペルー、チリ、アルゼンチンの南北アメリカ大陸14ヶ国と南極だ(北極はカナダ)。
基本的にアリアによる自走で移動しているが、2箇所だけ自走していないところがある。ひとつはパナマから南米大陸に渉際。ここは通行に耐えるような道が無く、入ることも出ることもできないため、海路でコロンビアに上陸した。
もうひとつは陸続きではないアルゼンチンから南極大陸への移動。こちらは航空機で、南極大陸の玄関口にアリアを空輸している。ここから南極点まで約300kmの走行だったそうだ。
南極点に到達した後は、再びアリアを空輸するために来た道を同じ距離戻ったし、スタート前もシェイクダウンしたアイスランドから北米にアリアを運んだ時はスタート地点まで自走している。実際はチャレンジ期間以外でもかなりの距離と時間をアリアで走行したそうだ。
気温や標高による電力への影響は意外に少ない?
標高は最大3000m級、気温はアリゾナ砂漠で最大48度、北極南極では最低マイナス39度という極限の環境を走ったわけだが、少なくとも標高や気圧は充電関係には影響がなかったという。むしろ、ガソリンエンジンである発煙機の方が空気のうすさから効率が落ちたそうだ。
また、電気には特に厳しい極寒でもクルマの電気系統も充電も問題は起きなかった。というのも、クルマを覆えるようなカーテントを使用してある程度寒さを防いだ(南極の外気マイナス25度をテント内でマイナス15度程度に)ことで、充電スピードの低下が抑えられることがわかった。
これは今回の冒険のような極端な環境だけでなく、普段EVに乗る際に気を配れば得られるメリットではある。屋外よりも屋内の方が充電効率が良くなるので、誰もが実現できる訳ではないだろうが、ガレージで充電できるのが理想といえば理想なのかもしれない。
パワートレーンやインテリアはいたってノーマル
39インチという大径タイヤを装着するためにホイールハウスを拡大しオーバーフェンダーを装着。タイヤに合わせた足回りのセッティング。ジャッキポイント兼ヒッチメンバーの追加。保護用のアンダーガード装着。以上の改造を施したプロジェクト用のアリアだが、パワートレーンやバッテリーはもちろん、インテリアなどもほぼノーマルのままだ。
これに長旅の生活雑貨やキャンプ用品、充電用の設備などを詰め込んで、時に車中泊までこなしながら10ヶ月間過ごしたわけだ。
このプロジェクトでアリアの高い耐久性と、e-4ORCEの優れた4WD性能が証明されたと言えるだろう。また、BEVに付いてまわる様々な不安も多少なりとも解消することにつながるのではないだろうか。
フォトギャラリー:「Pole to Pole プロジェクト」アリア
3月31日まで! 日産本社グローバルギャラリーで展示中
このアリアは2024年3月31日まで、日産本社グローバルギャラリーの特別展示「Celebrate Pole to Pole 北極から南極へ、アリア3万キロの軌跡」として公開中だ。クリス・ラムゼイ夫妻がこの冒険行で使用したウェアやギアも合わせて展示されている。
日産グローバル本社ギャラリー 所在地: 神奈川県横浜市西区高島1丁目1−1 営業時間:10:00〜20:00 休館日:不定休 駐車場:提携駐車場あり(横浜三井ビルディング駐車場) 問い合わせ:045-523-5555