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最悪な空力状態を情報共有する開発手法
あなたは「Modulo(モデューロ)」というブランドを知っているだろうか。最近でいえば、軽ミッドシップスポーツカーS660の実質的なファイナルエディションとして「S660 Modulo X version Z」というコンプリートカーが発売されたときに、その響きを耳にしたというケースがあるかもしれない。
あらためて説明すれば、モデューロというのはホンダの純正アクセサリーを開発しているホンダアクセスのブランドだ。もともとは1994年の純正アルミホイールに使われた名前だが、同時期にエアロパーツの開発もはじまり、また同ブランドのサスペンションキットも開発されている。純正アクセサリーの開発において得た知見を込めたパフォーマンスパーツに使われているブランド名が「Modulo」だ。
そんなモデューロ・ブランドの集大成といえるのが、コンプリートカー「Modulo X」である。
パワートレインには手を入れることなく、4輪接地感を高めてこそ気持ちよく走れる、というのがモデューロの目指すところであり、そのために空力とフットワークのリファインを施したコンプリートカーが「Modulo X」というわけだ。
とくに『実効空力』というキーワードで知られるエアロパーツはモデューロの象徴的アイテムとなっている。
モデューロ・ブランドの30周年を記念して、メディア向けに開催された『Modulo 30th Anniversary EXPO』では、実効空力の始点となる「ぬりかべバンパー」を装着したS660が展示されていた。見ての通り、フロントバンパーに板を張り付け、空気抵抗の塊のようにしたものだ。これは、モデューロの空力開発においては、常にスタートになるという。
ぬりかべバンパーの目的は、そのクルマにおける最悪の空力状態を体感すること。実効空力は数値だけでなく感性で鍛えられることでも知られている。そのためには開発ドライバー以外のスタッフ(デザイナーや設計者)も試作車をテストドライブして効果を実感する必要がある。そこで、全員の共通認識としてのスタートとして「ぬりかべバンパー」の試乗から始めるのだという。
Modulo Xは「もっと速度を出したくなる」空力性能だった
今回のイベントでは水を撒いた定常円旋回路を用意、<ぬりかべバンパー/標準バンパー/Modulo Xバンパー>を装着したS660を試乗することでホンダアクセスの空力開発を疑似体験できるというプログラムが用意されていた。
基本的には1速アクセル全開といったシチュエーションで走行するというコース設定だった上に、S660はトラクション性能が高くリヤが流れ出すようなこともなかったゆえに、ぬりかべバンパー装着状態ではただただ空気抵抗が大きいという印象しかなかった。
しかし、標準バンパーに換えるとラインの自由度が増したのを実感。ぬりかべバンパーでは成り行き的に走るしかなかったが、定常円を構成するパイロンまでの距離を調整したくなるコントロール性を感じることができた。低速でもフロントバンパーによる空力性能は重要だと確認できた。
驚いたのは、S660 Modulo Xに乗り換えたときだ。違いはフロントバンパーだけのはずだが、明らかに旋回スピードが増しているように感じる。パイロンとの距離感も自由自在で、それまでの試乗では1速固定だったが、Modulo Xバンパー装着車では2速にシフトアップしたくなったほど。すなわち速度を出すほどに安定していく感覚もあった。
なるほど「実効空力」は、1速で走るようなスピード領域から体感できることが、あらためて確認できた試乗だった。
のこぎり刃形状の「実効空力デバイス」も生まれている
ホンダアクセスの実効空力における近年のトピックスとして知られているのが、三角形を並べたような「のこぎり刃(シェブロン)」形状の発見だ。実効空力デバイスと呼ばれるシェブロンはボディ後端における空気の渦を適正化するというもの。シビックタイプRの純正アクセサリーとして用意されていたカーボン製リヤウイングに採用されるなどしているので、目にした人も少なくないだろう。
今回の30th Anniversary EXPOでは、同じく実効空力デバイスを採用したテールゲートスポイラーほかプロトタイプのエアロパーツをまとったコンセプトカー「シビックe:HEVスポーツアクセサリーコンセプト」も展示されていた。
2023年の東京オートサロンにて初披露されたコンセプトカーだが、市販を目指して各部のリファインを進めているという。
シビックといえば、2024年中に新グレード”RS”を設定するなどの改良がウワサされているが、そのタイミングでステップアップした”実効空力”を味わえる純正アクセサリーがラインナップされることを期待したい。