豊田章男会長のクレームから生まれた?! レクサスLBX「小さな高級車」のあり方【新型車デザイン探訪】

Bセグメントのスモールカーながら、税抜き550万円の値札を付けたLBX。この「小さな高級車」を試乗しながらデザイン視点で紐解き、そこで生まれた興味や疑問をチーフエンジニアにぶつけてみた。

TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:​千葉 匠/MINI

豊田章男会長のクレームでタイヤをサイズアップ

レクサスLBX 全長×全幅×全高:4190 mm × 1825mm × 1545mm ホイールベース:2580mm

なんというワイド感だろう。全幅はヤリスクロスより60mm広い1825mm。トレッドも55mm広げている。全長は20mm長いだけ、しかも全高が45mm低いから、ワイド感が際立つのだ。

タイヤの大きさも印象的だ。同じ18インチで比べると、ヤリスクロスの215/50に対してLBXは225/55。幅は+10mmだが、外径が30mm余りも大きい。ワイドトレッドと大径タイヤが、尋常でないほどの踏ん張り感を生み出している。初見でこんなにため息が出るクルマも珍しい。

コンパクトなサイズながら、大胆に張り出したフェンダーと水平基調のボディでダイナミックさと安定感を表現している。

「実は当初はヤリスクロスと同じタイヤサイズを前提にデザインを進めていた」と、遠藤邦彦チーフエンジニア(以下CE)は意外な事実を教えてくれた。「ただ、デザイナーはもっとタイヤ・コンシャスにしたい。その想いを込めて、少しデフォルメしたようなスケッチを描いてくれて、これはとてもカッコよかったんです」

デザイナーがタイヤを大きく描くのは珍しいことではない。しかし今回は”事件”が起きた。立体モデルを制作してプレゼンテーションしたところ、豊田章男現会長が「スケッチと違うじゃないか」とクレーム。遠藤CEによれば、会長は「ボクが欲しいのはこっち(スケッチ)だ。これができないのはなぜなんだ? 何か困っていることがあるのか?」と問い掛けてきたという。

困っていたわけではない遠藤CEは、すぐにタイヤのサイズアップを決断。それがLBXならではの強烈な存在感を生み出す土台になった。レクサスの末弟として「小さな高級車」を体現せねばらないLBXにとって、ひと目でそれとわかる個性と存在感は欠かせないもの。会長のクレームがどれだけデザイナーを勇気づけたか、想像に難くない。

新型LBX チーフエンジニア 遠藤邦彦氏

トヨタの会長が休日に乗るクルマとは?

「小さな高級車」は古くて新しいテーマだ。古いほうの代表例のひとつは60年代の英国車、バンデンプラス・プリンセス1100だろう。オースチンやモーリスとADO16系のボディを共有しながら、高級車造りの伝統を持つバンデンプラスが開発したプリンセス1100。若い頃に実車を初めて見て、とくにウォールナットの木目とコノリーの本革で仕立てた内装に目を見張った覚えがある。

1964年に発売された、バンデンプラス・プリンセス1100 画像:Favcars

しかし今は木目や革だけで高級を訴求できる時代ではない。上質な素材はもちろん必要だが、「小さな高級車」をデザインするのが昔より難しくなってきた。そこにLBXはどう挑んだのか?

「会長から、『ボクを思い浮かべてくれ』と言われた」と遠藤CE。つまり、こういうことだ。スーツを着て革靴を履いて出社し、難しい決断を毎日して、肩に力入った生活をしている章男会長(当時は社長)が、休日にTシャツとスニーカーで近所に出かけるとき、どんなクルマが相応しいか? そんなお題が投げかけられた。

「それを原点に、ハイブランドのスニーカーのようなクルマを作ろうと考えた。結果的に小さな高級車とイメージしていただけるクルマになったけれど、高級車を小さくしたのではない。新しいラグジュアリーを提案したいと思って開発してきた」

インパネは水平基調でシンプルな構成のため、視界を邪魔することなく運転に集中できる。機能部品も主張を抑えたシンプルなデザインで統一されていて、リラックスしてクルマとの一体感を楽しめる空間を演出している。

格差社会の「プレミアム・カジュアル」

デザイナーも開発初期から「ハイブランドのスニーカー」というイメージを共有し、「プレミアム・カジュアル」をコンセプトにデザインを進めたという。

「フットワークが良さそうな感じがありつつ、肩肘張らずにリラックスして乗れる。そこにこだわって、デザインコンセプトを『プレミアム・カジュアル』と定義した」と遠藤CE。小さな高級車とはいえ、LBXは敷居の高いクルマには見えない。どこか親しみやすさがあるのは、スニーカーのイメージとカジュアルを意図したコンセプトがデザインに具現化されているからだろう。

それは今の社会構造にマッチするものだ。格差社会と言われるなか、収入と社会でのヒエラルキーが正比例しなくなってきた。社会的に地位が高くなくても裕福な人はたくさんいて、彼らは他人からどう見られるかを気にせずにお金を遣える。ハイブランドの高価なスニーカーも、そうした需要に支えられているのではないだろうか。

写真を撮り忘れたが、遠藤CEはこの日、「8万円です」という白いスニーカーを履いていた。「LBXを担当するようになってこれを買ったのですが、ハイブランドのとても良いスニーカーがたくさんある。そういうところにお金をかける文化が出てきているんですね」

マイバッハなど買う必要がない富裕層がいる。小さなクルマでいいよ、クルマに乗るときぐらい肩の力を抜きたいよ。そんな人たちにとって、LBXは絶好の選択肢になるに違いない。

豊田章男会長がハイブランドのスニーカーということでイメージを共有したのは、フランスのメゾンマルジェラのスニーカーだったという。こちらのスニーカーは販売価格8万4000円超でも絶大な人気を誇る。 画像:メゾンマルジェラ

コストとは別次元の価格設定

LBXの価格は”クール”と”リラックス”が460万円、内外装をいろいろ注文できる”ビスポーク・ビルド”が550万円ら。Bセグメントのコンパクトカーとしては、思い切った高価格と言ってよいだろう。

ここで思い出す昔話がある。1986年にトヨタが2代目ソアラを発売したとき、最上級グレードの価格は483.5万円と、初代の1.5倍を超える高価格が話題を呼んだ。対して、その1ヶ月後にデビューした日産の2代目レパードは383.7万円。ソアラのライバルの座から滑り落ちた。日産に勤める知人が「レパードはコストを積み上げて価格設定した。失敗だった」と嘆いていたものだ。

2代目ソアラは「世界最先端の技術の枠を結集した最高級プレステージスペシャリティ」をテーマに開発された。

高級車にはそれに相応しい価格というものがある。遠藤CEは、「価格はチーフエンジニアが主導して決めるわけではない」としながらも、「LBXの価格はコストとはまったく別次元で決まった」と明かしてくれた。

ざっくり500万円前後のクルマという心構えでLBXに乗ると、歩道の段差を越えるときや舗装の継ぎ目を踏んだときのしなやかさは、さすがの感触。ヤリスと同じプラットフォームでここまで進化するとは驚きだ。

その一方、気になったのがロードノイズ。試乗したのは横浜の首都高速をメインにしたルートで、ノイズの出やすい路面が含まれる。そこで静粛性を求めるのは贅沢な要望だが、500万円のクルマとなればそれを言いたくなる。遠藤CEに問うと、「期待値が高いのはわかるので、これからもう少し(改善を)頑張ります」との答えだった。

ヤリスクロスと同じGA-Bプラットフォームを使っているが、LBXはこれだけのボディ剛性アップの施策を施している。

ヒエラルキーを超えた価値

ちなみに価格は開発をほぼ終えた段階で決まるもの。その価格なら、ここはこうしようと思っても、間に合わないことがある。「そこは悩ましいところだった」と遠藤CE。価格から考えると、ステアリングコラムを電動調整にしてほしい、助手席もパワーシートにしてほしい、などの要望がすでに出ているのだとか。それを認めつつ、遠藤CEは次のように語ってくれた。

レクサスLBX

「装備のヒエラルキーではないところで、このクルマの価値を感じてほしい。このデザインがあり、乗っていただくとハイブランドのスニーカーのように、乗れば乗るほど馴染んでくる。『ちょっと高いかな? でも頑張って買ってみようか』と買っていただいたお客様が、3年後か5年後に『自分は間違ってなかった』と思ってもらえたら、嬉しいなと思っています」

初見のインパクトが強いデザインだが、それはプロポーションの個性を素直に表現したから。奇を衒ったところはないので、「乗れば乗るほど馴染んでくる」はデザインにもきっと当て嵌まるだろう。「小さな高級車」の新たな歴史がこのLBXが始まることを期待したいと思う。

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著者プロフィール

千葉 匠 近影

千葉 匠

1954年東京生まれ。千葉大学工業意匠学科を卒業し、78〜83年は日産ディーゼル工業でトラック/バスのデザ…