目次
VWの「R」は”Racing”の”R”!
フォルクスワーゲンの最もハイエンド、かつスポーティなグレードに与えられる「R」の称号。そのイニシャルは、“Racing”に由来している。
もっといえばそれはもっとも高出力なエンジンと4WD、フォルクスワーゲン流に言えば「4MOTION」との組み合わせだ。かつては「R32」として3.2リッターの狭角V型6気筒エンジンを搭載した時代もあったが、現在は全てのモデルがダウンサイジングした2.0L直列4気筒ターボと、4MOTIONのパッケージングになっている。
肝心なモータースポーツ活動では、2013~2016年にかけてFIA世界ラリー選手権(WRC)を4連覇した「ポロR WRC」(1.6L直列4気筒ターボ・318PS+リストリクター)が強烈な印象を残した。ちなみにR5カテゴリーに用意された「ポロGTI R5」(1.6直列4気筒ターボ・272PS)は、エンジンパワーの違いやそのヒエラルキーからだろう、名称が「GTI」だったのは面白い。
またハイパーカー規格で作られたEVレーシングカー「ID.R」も、680PS(500kW)を2基のモーターでさばく4WDだった。
ともかくフォルクスワーゲンは、300PSを超えるハイパワーに対して4WD制御を与え、それが今のところ一貫した「R」の方程式となっている。そしてこれこそが、彼らのスピードに対するポリシーなのだと筆者は考えている。
フォルクスワーゲンが求めるのは単なる速さではなく、それを安全に使いこなすことだからだ。
SUVで実現した「R」の走り……T-Roc R
そのポリシーに照らし合わせて走らせると、T-Roc Rは全てに納得が行く仕上がりになっている。
ベースとなるのはCセグメントのクロスオーバーSUV・T-Rocで、ここにRシリーズとして「EA888」型の2.0L直列4気筒ターボを、300PS/5300ー5200rpmまで高出力化して搭載。駆動方式は、最新世代のハルデックスカップリングによる「4MOTION」。つまり横置きFWDベースの4WDとなっている。
着座姿勢はアップライト。クーペタイプとはいえSUVならではの良好な視界を得ており、その見晴らしの良さに対しては肉厚なシートと、取り付け剛性が高いステアリングが体をしっかりサポートしてくれる。
インパネまわりこそマットな「Rブルー」を基調に若作りしているが、実にフォルクスワーゲンらしい生真面目な座り心地だ。
T-Rock Rのパワーデリバリーは、ひとこと面白い。664.4万円という価格に相応しいドライバビリティと、エンタメ性を合わせ持っている。
400Nmの最大トルクがわずか2000rpmから5200rpmにまで渡って持続されることからもわかる通り、アクセル開度が低い状況からでもその加速はスムーズ。いまどきのクルマよろしく、惰性が付いてからの転がり感も滑らかだ。
しかしそこからアクセル開度を増して行くと、大きなタービンを回している様子が“ル゛ルルル……”と車内に伝わってくる。
その“これから始まるぞ”という雰囲気がなんともエキサイティングだ。
足周りは標準のT-Rockに対して車高が20mm低く、足下には前後異径の19インチタイヤを装着しているが、その乗り心地は割としっとり落ち着いている。
ノーマルモードでは電子制御可変ダンパー「DCC」が、バネ下からの突き上げを減衰。必要ならコンフォートモードでさらにダンパー減衰力を緩めることも可能だ。
4MOTION化によってリアサスアームも4リンクとなり、引き締められたスプリングに対しても剛性がきっちり整えられている。レザーシートの質感と合わせて、プレミアムモデルとしての質感も得られている。
ドライブモードは、Rシリーズの文法として「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「レース」「カスタム」の5段階を備える。そしてステアリング上の「R」ボタンを押せば、レースモードを瞬時にスクランブルできる。
ちなみに4MOTIONの駆動制御も、ロータリーダイヤルを使って「スノー」「オンロード」「オフロード」「オフロードカスタム」が選択可能だ。
さっそくRボタンを押して、ワインディングを走らせてみる。
エキゾーストのフラップが開くのだろう、エンジンサウンドは低く、野太く響くようになる。アクセルを踏み込んで行くとさっきの“ル゛ルルルル”がターボゾーンに入って、エンジンは滑かかつ、パワフルになる。
電動パワステがグッと座り、ダンピング剛性もかなり高めになったそのシャシーをもってコーナーに入って行くと、T-Roc Rはその速さを真正面から、極めて穏やかに受け止めてくれる。
街中だとやや硬すぎるレースモードのダンピングは、加速度の付いたボディを、ブレーキングでまずグーッと力強く受け止める。そしてターンでは重心の移動をゆっくり抑えながら、コーナリングに移行する。
4MOTIONの連携も素晴らしい。
タイトコーナーでは出口が見えはじめたら、そこにに向かってアクセルを踏んで行く。するとターボのトルクを4輪で巧みに裁き切り、姿勢を乱すことなくコーナーを立ち上がれる。ロングコーナーではパーシャルスロットル時の協調性も高く、アクセルコントロールで姿勢を良好にキープすることができる。
湧き上がるトルク、確かなトラクション。エンジンを回しきり、シフトアップしたときのステップ感も爽快だ。湿式の7速DSGが瞬時に断続して、エンジンが“ヴォッ!”と軽くうなりを上げる。
操舵ゲインは、高い方ではない。また「Rパフォーマンストルクベクタリング」がないせいだろう、リアが回り込むような挙動も起こらない。そのキャラクターは極めて安定志向で、しゃにむに走らせるよりも、荷重移動でボディをコントロールするのが楽しいタイプだ。しかしそのアベレージは、かなり高い。
個人的にはもう少し大きなローターと対抗ピストンでブレーキのキャパシティと質感を上げたいところだが、それはマニアックな要求か。
ともあれT-RocのR仕様は、非常にバランスの取れた高性能クロスオーバーSUVである。そのコストパフォーマンスは、かなり高いと思う。
T-Roc R ・Specification ボディサイズ:全長42245mm×全幅1825mm×全高1570mm ホイールベース:2590mm 車両重量:1540kg エンジン:1984cc 水冷直列4気筒DOHC16バルブ・インタークーラーターボ 最高出力:300ps(221kW)/5300rpm-6500rpm 最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000rpm-5200rpm 燃料:ハイオク55L トランスミッション:7速DSG サスペンション:Fマクファーソンストラット/R4リンク ブレーキ:F/Rベンチレーテッドディスク タイヤ・ホイール:235/40R19 価格:686万円
ワゴンボディでもその走りはまさに「R」……ゴルフRヴァリアント
真打ちゴルフR 20Yearsに乗る前に、ゴルフRヴァリアントにも試乗した。
ここで見るべきはワゴンボディのバランスの良さで、背の高いT-Rockに対して、走りは一枚上手な上質さを備えていた。
それはまずシンプルに、物理の法則だ。
ゴルフR ヴァリアントのスリーサイズは全長4650mm×全幅1790mm×全高1465mmと、T-Rock R(4245mm×1825mm×全高1570mm)に対して、長くて細い。ホイルベースは2670mmだから、80mmも長いことになる。逆を言えばT-Rock Rはそのノッポでショートなボディを、ワイドトラックとシャシーワーク、そして4MOTIONの制御によってよく安定させているといえる。
こうしたディメンジョンが与える安定性は、まずピッチングの少なさに表れる。SUVボディに比べて低重心かつ、ロングホイルベースだからアクセルのオン/オフに対する動きが滑か。引き締まった足周りでも乗り心地が重厚に保たれており、素直に「いいクルマに乗っているな!」と思える。
そして走らせれば、非常に高いレベルでドライバーに応えてくれる。
320psにまで高められた「EA888 evo4」ユニットの加速は、トルキーにして伸びやかだ。そしてここに4WDの蹴り出しと7速DSGの機敏な変速が加わることで、その魅力がさらに引き出される。低速では荒々しく唸りながらも、回すほどに切れを増して行く素晴らしい4気筒ターボだと思う。
操舵フィールは乗り心地と同様、しっとり重厚。スポーツモードでダンピングを固めてもしなやかさは失われず、ならばとRモードを試して、走りの深みにはまれる楽しさがある。
引き締められた足周りは、ブレーキングでそのフロント荷重をシッカリと受け止めてくれる。ブレーキリリースと共にハンドルを切って行くと、お手本通りに決まるターンインが気持ちいい。
ゴルフR ヴァリアントの見所は電子制御油圧多板クラッチで後左右輪のトルクを適宜配分する「Rパフォーマンストルクベクタリング」だが、その制御は予想よりいい意味でコンサバティブだった。
ターンインを終えてアクセルを徐々に踏み出すと、グーッと回り込むようにトラクションを与えてくれる。ターンインで向きを変えて行く後輪操舵よりも、ターンミドルからアクセルオンで曲げて行く分だけ挙動は穏やかだ。
また低μ路で積極的に向きを変えて行くドラビングや、クリップに向けてアクセルを踏み込んで行ける中高速コーナーの方が、その制御はわかりやすいのかもしれない。ともあれ難しいことを考えなくても、クルマとしては非常によく曲がる。
ゴルフR ヴァリアントはそのロングホイルベースと、リアセクションのイナーシャ(慣性重量)を、4MOTIONの制御が非常にうまく使いこなしており、回頭性の良さと安定性の高さが、とても高いレベルでバランスされている。
そのステイタス性はもちろんだが、今となっては少なくなったスポーツワゴンとしても、選ぶに足る1台だと思えた。
ゴルフRヴァリアント ・Specification ボディサイズ:全長4650mm×全幅1790mm×全高1465mm ホイールベース:2670mm 車両重量:1600kg エンジン:1984cc 水冷直列4気筒DOHC16バルブ・インタークーラーターボ 最高出力:320ps(235kW)/5350rpm-6500rpm 最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2100rpm-5350rpm 燃料:ハイオク56L トランスミッション:7速DSG サスペンション:Fマクファーソンストラット/R4リンク ブレーキ:F/Rベンチレーテッドディスク タイヤ・ホイール:235/35R19(225/40R18) 価格:704万8000円