650psの「ヒョンデ IONIQ 5 N」はクルマ好き開発陣の“本気の遊び心”が詰まった高性能EVだった!

ヒョンデは、高性能電気自動車「IONIQ 5N(アイオニックファイブエヌ)」の販売を6月5日から開始する。開発テストの舞台であるドイツ・ ニュルブルクリンクに由来する高性能ブランド「N」はローンチ以来「ドライビングの楽しさ」を追求してきた。Nブランド初のEVモデルとなるアイオニック5Nには、どんなワクワクが詰め込まれているのだろうか?サーキットでの試乗を通して見えてきたものとは?

TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO :世良耕太 /Hyundai Mobility Japan

電動化時代にも変わらない「ドライビングの楽しさ」を追求

ヒョンデ・IONIQ 5 N

ヒョンデは2015年にNブランドを誕生させた。「N」はR&Dの拠点がある韓国・ナムヤンと、開発テストの舞台であるドイツ・ニュルブルクリンクに由来している。その由来から推察できるように、Nのバッジは走りを鍛えたモデルに与えられる。ヒョンデは「モータースポーツのDNAを量産車両にフィードバックした」のがNの特徴だと説明する。

Nブランド初のEVモデルがIONIQ 5 N(アイオニック・ファイブ・エヌ)だ。販売は6月5日に開始。それに先立ち、4月25日より日本でのローンチを記念した期間限定のFirst Editionの予約受付を開始する(5月30日まで)。

650PS、84kWh大容量バッテリー搭載の高性能EV

ヒョンデ・IONIQ 5 N 全長×全幅×全高:4715mm×1940mm×1625mm、ホイールベース:3000mm

フロントとリヤにモーターを搭載する四輪駆動なのはアイオニック5のAWDモデルと同じだが、Nはベース車よりはるかに高出力のモーターを搭載する。アイオニック5ラウンジAWDは前後合わせて225kWの最高出力と605Nmの最大トルクを発生するのに対し、5 Nは478kW(650ps)の最高出力と770Nmの最大トルクを発生する(いずれも一定期間ブースト機能が働くN Grin Boost(NGB)作動時)。

最高速度は260km/hに達し、0-100km/h加速は3.4秒(NGB)でこなす。ハイパフォーマンスカーと断定していい数字だが、これらは「アイオニック5 Nを楽しく走らせるための数字にすぎない」と、Nブランドマネージメント室 常務(室長)のパク・ジューン氏は断ずる。スペックと、ドライビングで味わう楽しさの作り込みは別、ということだ。

最高出力(システム合計):通常時: 448kW(N Grin Boost 使用時:478kW)、 最大トルク(システム合計):通常時: 740Nm(N Grin Boost 使用時: 770Nm)、総電力量:84.0kWh

ドライビングの高揚感を盛り上げる様々な仕掛け

アイオニック5 Nにはドライバーの気分を高揚させる仕掛けがいくつも適用されている。そのひとつがN Active Sound+(エヌ・アクティブ・サウンド・プラス)だ。車内外のスピーカーからエクゾーストノート発し、まるでエンジン車を運転しているような感覚にさせる機能である。

NアクティブサウンドプラスはIgnition(イグニッション)、Evolution(エボリューション)、Supersonic(スーパーソニック)の3つのサウンドから選択が可能で、イグニッションはエンジン搭載Nモデルのターボエンジンサウンドを継承。エボリューションは高性能電気自動車専用サウンド、スーパーソニックはジェット機の音にインスピレーションを得たサウンドだ。

ステアリングには様々なボタンが配置されてる。右上の赤い「NGB」を押すと「N Grin Boost」が作動し、一定時間バッテリーとモーターのパフォーマンスを最大化(10秒間で41pの出力増加)し、高い加速性能を実現する。

サーキットと公道での使用時はイグニッションを試した。「エンジン音がスピーカーから出たところで、気分が高まるだろうか」と疑心暗鬼な気分で試したのだが、正直、感動した。エンジン音だけでなく、トランスミッションの動作も再現しているところがポイントである。

NアクティブサウンドプラスはN e-Shift(エヌ・イー・シフト)とセットで機能する。モデルはシーケンシャルシフトを搭載したレーシングカー。アクセルペダルを踏み込むと、加速にともなってちょっとばかりヤンチャな4気筒ターボのエンジン音が高まり、回転が上がりきったところでシフトアップする。そのとき、次のギヤにエンゲージした際のちょっとラフなショックをモーターの制御で忠実に再現する。

センターディスプレイからも様々な機能設定が行える。難を言えば、機能が多すぎて狙いの機能にアクセスするのに慣れ(学習?)が必要なことだろうか。

「こんなギミックにダマされてはいけない」と心の中でつぶやきつつも、強く否定する勇気は湧いてこない。なぜなら、モヤモヤした気分を吹き飛ばすほどに、気分がいいからだ。完全にモーターで走っているのに、体感的にはまるっきり高性能エンジン+クラッチの断接があるトランスミッションである。「だったらエンジン車に乗ればいいじゃないか」という気にならないのは、ハイパフォーマンスEVだからこそ実現可能な、高応答で強烈、かつシームレスな加速をともなうからだろう。

サーキットを走るために各所を強化

N Corner Carving Differential( e-LSD )を搭載することで、左右後輪に最適なモーター出力が伝達するように制御する電子式作動装置により走行性能を向上させ、駆動力を的確に路面に伝える。

Nは日常でもスポーツカードライビングを楽しめるだけでなく、「サーキットを本気で走れる能力」を備えることをモットーにしている。84kWhのバッテリーを搭載するアイオニック5 Nの車両重量は2トンを超える。本稿執筆時点で正確な数値は未公表だが、ラウンジAWDの車重が2100kgなので、それより軽いということはないだろう。

サーキットで急加速と急減速を繰り返せば、大きなエネルギーを連続的に出し入れすることでバッテリーは発熱。しきい値に達すると安全性の観点からセーブモードに入り、出力を強制的に抑えてしまう。サーキットを1周や2周走ったくらいでそうならないよう、5 Nは新世代の効率の高いバッテリーセルを適用するとともに、モーターとバッテリー冷却を強化した。

高性能デュアル駆動モーターを搭載し、システム合計で448kW(前輪166kW、後輪282kW)を発生させる。NGB使用時は、システム合計478kW(前輪175kW、後輪303kW)となる。モーター最大回転数: 21000rpm。

サーキット走行の際のもうひとつの懸念はブレーキだ。なにしろ、2トンオーバーである。フロントに400mmの大径ブレーキローターを採用しているけれども、回生ブレーキを強化し、できるだけ油圧ブレーキに負担を掛けない制御を開発することにした。

減速Gが0.6Gまでは回生ブレーキで減速度を発生させる(前後は2:8〜8:2の範囲で、横加速度やヨーモーモーメントなどから配分を可変制御する)。0.6Gを超えるぶんを油圧ブレーキに受け持たせることで、油圧ブレーキの負担を軽減する考えだ(そのぶん回生エネルギーも増える)。N Brake Regen(エヌ・ブレーキ・レジェン、略してNBR)と呼ぶ専用の回生ブレーキ制御を適用したことで、「サーキットを長時間走行しても疲れない」ブレーキとすることができた。

アイオニック5 Nはその高い回生ブレーキの能力を、サーキットなどでのスポーツ走行時にターンインの挙動作り込みに生かす機能に反映した。N Pedal(エヌ・ペダル)である。アクセルペダルをオフにしたときに強力な回生ブレーキを効かせることでフロントへの荷重移動を促し、ターンイン時の回頭性を高めようというわけだ。ヒョンデは「コーナリングを楽しむこと」もNの哲学に定めており、この哲学を具現化した格好である。

アイオニック5 Nが搭載する「N専用電子制御サスペンション( ECS )」は、ホイールGセンサー+6軸ジャイロセンサーにより制御精度を向上させ、大容量可変ダンパーを採用することで走行性能を最適化している。

Nペダルをオンにすると、回生ブレーキの強さはレベル1からレベル3までの段階が選択できる。ベースのアイオニック5のi-Pedalの最大減速Gは0.2Gなのに対し、Nペダル・レベル1は0.25G、レベル2は0.25G、レベル3は0.35G以上の最大減速Gを発生する。サーキットでは、ターンイン時の強い減速Gによってリヤがスライドするような動きを作り込むことも可能だ。

コーナリングにとことんこだわった作りとしながら、サーキットを本気で走れる実力を与え、日常使いができる懐の深さを備えた。ここに記したのはアイオニック5 Nが備える機能のほんの一部で、ほかには例えば、ノーマル、スポーツ、Nのドライブモードの設定もある。難を言えば、機能が多すぎて狙いの機能にアクセスするのに慣れ(学習?)が必要なこと。しかし裏を返せば、ゲームを攻略するにも似た楽しみがある。

アイオニック5 Nはクルマ好きの開発陣が真剣に走りを鍛えた、こだわりの強いハイパフォーマンスEVだ。クルマ好きが自ら遊び倒すつもりで開発したからこそ、手抜きがない。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…