「戦車」ではない? アメリカ陸軍の最新戦闘車両『M10ブッカー』の能力と目的とは【自衛隊新戦力図鑑】

4月18日、命名式典が開かれ新型車両に『M10 Booker(ブッカー)』の名称が正式に与えられた(名称そのものはすでに2023年に発表されていた)。その姿は「戦車」そのものだが、まったく新たなコンセプトの歩兵支援車両である。(U.S. Army Photo by Christopher Kaufmann)
4月18日、メリーランド州アバディーン試験場で命名式典が行なわれ、アメリカ陸軍は新型の戦闘車両を「M10 Booker(ブッカー)」と名付けた。装軌式の車体に大型の砲を搭載した姿は、一見すると戦車のようにも見えるが、M10とはどんな車両なのだろうか?
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

戦車と装甲車のギャップを埋めるための車両

M10ブッカーは、アメリカ陸軍の機動防護火力(MPF)計画に基づき、ゼネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ(GDLS)社が開発した車両だ。この計画は将来の戦争において、歩兵部隊に充分な攻撃力を与えることを目的としており、そのために必要な火力と機動力を備える車両としてM10は開発された。「ブッカー」の名は、英雄的戦闘行為で勲章を授与された2人の陸軍兵士のファミリーネーム(名字)に由来する。

105mmM35低反動ライフル砲を発射するM10。敵の陣地や軽装甲車両を直接照準射撃で攻撃することを目的としている。(U.S. Army Photo by Cpl. Jonathon Downs)

一見すると小型戦車といった外見をしているが、陸軍ではM10を既存の戦車と歩兵戦闘車/装甲車のあいだの“能力的ギャップ”を埋める存在であるとしている。具体的にいうと、M1A2エイブラムス戦車は強力な大砲を持っているが、その巨体ゆえに輸送は一苦労で、「敵の戦車と戦う」という役割のため歩兵支援の優先度は低い。一方で、M2ブラッドレー歩兵戦闘車やストライカー装甲車は、将来の戦闘を考えたとき火力や装甲防護力の点で充分とは言えない状況がある。ようするに、歩兵にとって「帯に短し、襷に長し」になっている能力が存在するのだ。

M10は、戦車に準じる105mm砲を回転式砲塔に備えるが、戦車より軽量で高い機動性を誇る。そして陸軍は、M10が「戦車」と一線を画す歩兵部隊用車両であることから「戦車(軽戦車)」と呼ばれることを否定し、「ブッカー戦闘車(BCV)」または「戦闘車(CV)」の略称を用いている。

M2ブラッドレー歩兵戦闘車(左)とストライカー装甲車(右)。これら車両と戦車のあいだには、火力や防御力で大きなギャップがある。陸軍はこのギャップを埋める存在としてM10ブッカーを開発した。(U.S. Army Photo by Spc. David Dumas / Photo by Staff Sgt. Jose Ibarra)

すぐれた攻撃力と機動力の一方で、防御力は控えめ

M10の役割は、前述したように歩兵部隊の支援であり、軽装甲車両や掩体、堅固な陣地を直接照準射撃で撃破する「機動力のある火砲」だ。搭載する105mm口径M35低反動ライフル砲は、優れたセンサーやM1A2 SEPv3と同様の火器管制システムとの組み合わせにより、これら目標に対する迅速で正確な射撃を可能としている。

機動力を支えるのはロールスロイス製の800馬力8気筒MTU 8V 199ディーゼルエンジン。舗装道路で最高70km/hを発揮できるという。エンジンは、一般的な戦車と異なり車体の前方に配置されている。また、C-17輸送機に2両の搭載が可能であり、戦略機動性にも優れている。

フロントエンジンで、乗員用の区画が車体中央より後ろにあるため、一般的な戦車のレイアウトと比較すると、砲塔がやや後方に配置されている。なお、この写真は試作車のもので配備が開始されたものと細部に違いがみられる。(U.S. Army Photo by Bernardo Fuller)

高い機動力の一方で、車重が38トンと、M1A2戦車(重量62トン)の60%程度に抑えられており、そのぶん防御力は低い。M10には、戦車と正面きって戦う能力は無い(あくまで歩兵部隊支援の車両である)。正確な防御性能は不明だが、M2ブラッドレーと同等かそれ以上とするなら、正面で30mm機関砲弾に耐えるものと思われる。また、アクティブ防護システム(APS)の追加なども考えられているようだ。

M10ブッカーは歩兵師団/空挺師団に配属される予定だ。まず、今年中に第82空挺師団で運用試験を兼ねた最初の部隊が編成され、今後の数年間でさまざまな現役師団・州兵で「機動防護火力大隊」が編成されるという。即応性を重視した車両だけに、訓練のため日本にも展開する可能性は高い。

歩兵部隊の火力強化と機動性を追求した105mm砲搭載戦闘車両として、陸上自衛隊の16式機動戦闘車との類似性を指摘する声もあるようだが、日米の次世代車両同士が肩を並べる姿を見る機会が訪れることを期待したい。

陸上自衛隊の16式機動戦闘車。歩兵(普通科)部隊との連携や、機動性・展開能力を重視するという点でM10に似ているとも言える。日米協同訓練などで、両者が並ぶ姿を見ることができるだろうか。(写真/陸上自衛隊より)

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…