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■直近している歩行者・自転車の存在をつかみたい
自動車には「死角」というものがある。
車両前後、ドア下、ピラー(柱)などの向こうに隠れた見えない部分のことだ。例えオープンカーであっても死角は存在する。鉄と同じ強度を持ちながらガラス並みに透明な素材が発明されない限り、まったく死角のないクルマはできないだろう。
その死角を補うためにあるのがミラーであり、最近ならカメラ技術だ。
今回、平素「ここが見えたらなあ」と思っている部分の視界を確保するため、ミラーを追加してみた。
●ミラーをどこに設置して、どこの何を見たいのか?
運転時、私が把握したいと思っているのは、車体サイドにある歩行者や自転車の存在である。正確にいうと後席左のすぐ外側。
何を恐れているかというと、左折時の巻き込みだ。
私は右左折するとき、特に左折のときはその手前時点である横断歩道付近に歩行者や自転車などがいないことを確認しながら左ターンシグナルを出し、左折ポイントに近づきながら左斜め後ろを目視。前方、ルームミラー、左ドアミラー、再度左斜め後ろを見ながら曲がる。
このように文字で書くと、何だかあっちこっちキョロキョロしているように思われるだろうし、いま書いている自分もそう思うが、ごく数秒に過ぎないごく短時間のことだ。これだけ確認しても、ときおりではあるが、さっき見たときは存在していなかった自転車がいきなり飛び出してきて「おめえ、いったいどっから出てきたんだ!」と怒鳴りたくなることもある。
見落としなのか、あちこち見ている間に考えられない場所からいきなり表れてきたのか・・・理由はいろいろだが、とにかくどのクルマに乗っても、ドアミラーには映りにくい、ときにはあまりに近すぎて物体が把握しにくいこともある車両リヤサイドの視界を確保すべく、細工をしてみた。
●施した対策はありふれたもの
タイトルは「・・・格安に充実・・・」と、まるで誰も思いつかない、お金のかからないグッドアイデアのようなものにしているが、実は大したことはない。ルームミラーの左サイドに鏡を追加しただけのことである。
その前に、何をどう検討したかを説明しよう。今回行いたかったのは、ルームミラー付近に鏡を追加することで、左リヤサイドの物体の存在をわかるようにすることだ。
そのための条件が次の3つ。
1.後付け感が出てしまうのは譲歩するにしても、見た目に格好が悪くないようにする。
2.取付部位はルームミラー付近に限る。計器盤やフロントピラーは避ける。
3.助手席側サンバイザーを使うのに支障がないようにする。
最近ではその意識がいくらか薄れてきているが、私はもともとクルマに何かを後付けするのが大嫌いである。両面テープで貼り付けるもの、電池で動くもの・・・配線をまる出しで這わせるのなんて論外。とにかく後付け感まる出しになるのが大嫌いなのだ。
見た目はクルマを買ったときのまま、裏側を覗いたり、どこかを開けて初めて「おっ、こうなっていたの」と驚愕するようなのがいい。要するにいっけん、何の手入れもないようでありながら、些細に見たらおもしろい仕掛けが施してあったという、いわばびっくりハウスみたいなクルマが理想だ。くだらないものであればなおいい。
なお、ルームミラーの上におっかぶせる、サイドをも映すワイドミラーが売っているじゃないかといわれそうだが、ワイド型はサイドを映すべく鏡面曲率を上げているため(=よりカーブしている)、像が小さく映って距離感が狂ってしまうのと、車両既存ミラーの防眩機能が失われるのが嫌なので除外。
用品メーカーは、なぜ後付けルームミラーに防眩機能を設けてくれないのか、不思議でならないでいる。ガラス面をテーパー状にしてくれればいいだけなのに・・・
さて、どの製品にするかを考える前に、取付部周辺にどれほどのスペースがあるかを見なければならない。
ルームミラー周辺を巻き尺で実測したら写真のようになった。
前に使っていた日産車は、ルームミラーのステー(支柱)がフロントガラスに接着されていたが、いま使用中の旧ジムニーシエラは従来式の、天井からの吊り下げタイプ(現行型も同じだが)。ただし具合の悪いことに、ステーのベース部はルームランプと一体になっており、ルームミラー直上のスペースはわずかしかない。
次にルームミラーと助手席側サンバイザーの関係。追加ミラーは当然、助手席側に付けたいので、降ろしたときのバイザーとの距離を見なければならない。ルームミラーと左バイザーが向かい合う斜辺は平行で、間隔は25mmだった。
このクルマはルーフ前端がより前方にあってフロントガラスもおっ立ち気味のため、ルームミラーとガラスも近接している。前出日産車の接着式ルームミラーは運転者の視線とほぼ同じ高さにあったのと、角度調整のピボットがステーのベース側とミラー本体側両方にあり、角度ばかりか高さ調整だって自由性があったため、周辺スペースを広くすることができた。対してジムニーはルームミラー本体の上下左右とも、余白スペースは最小限でしかない。
これらを勘案し、カー用品メーカー各社のサイトを調べて選んだのが、こちら。
カーメイトの「ミニミラー ブラック」。
パッケージ写真にもあるとおり、本来は「後ろの席を見る」ためのものだが、後ろを見る程度のものならミラー面の曲率もほどほどで、これを左に向ければリヤサイドも見られるだろうと予測したのと、角度調整のためのピボットがミラー側、ステーベース側の両方にあり、調整の自由度が高そうなことから、この製品を選んだ。
●取り付け
箱から取り出して取り付けだ。
ピボットはふたつ、ステーはくの字になっていて、設置場所の自由度が高そうなのはありがたい。
ミラーそのもののサイズは幅120×高さ63mm。取付部周辺の実測値より多少大きめだ。
まあ何とかなるべとナメてかかったのがまずかった。ルームミラー左上にあてがってみたら何ともならないことがわかった。
ルームミラー上、それもサンバイザーと干渉しないよう、ルームミラー幅内に収めようとすれば天井と干渉。だからといってサイドに突き出すのは見映えの点で×!
こんな場所、絶対に選ばないが、仮にベース貼り付けをルームランプ本体のレンズにしてみたらどうか。皮肉なことに左リヤサイドが見える・・・が、絶対落ちるような気がする。このミニミラーの角っこはけっこうとがっているので、もし落ちたら計器盤上面やナビ画面を傷つけそうだ。
ではステー部は? ミラー本体のときもそうだが、ステーにつけたらなおのこと、ルームランプの光を遮るので×。
ルームミラー横にあてがってみる・・・うーむ、左のサンバイザーと干渉する。やらなくたってわかることだ。
ふたたびルームミラー周囲に目を向けて、ルームミラーにミニミラー右部分をいくらかラップさせたらどうか。
これまたリヤサイドをなかなかよく捉えていてたいへんよろしい。が、しかし、当初からの絶対命題である、サンバイザーとの両立という前提が怒涛の果てに砕け散ることに・・・
ここは機能を採ってバイザーとの干渉については何か方策を考えることにし(物理的な問題なので、実際には策はない)、場所はここに決めることにした。
ただし、助手席側サンバイザーを降ろしたときはこのようになってしまうのはあきらめるしかない。
夕方の太陽光が左前方から直撃してくるとき、助手席バイザーをけっこう使うんですがねえ。
ミニミラーを貼っつけたことの効果は思ったとおりにうまくいった。
車両リヤサイドに自転車または歩行者があることの再現として、該当部にカメラ用三脚を置いたが、運転席から左後ろを目視してこのように見える三脚を、ミニミラーはこのように映し出している。
●実際に走ってみたら?
どうせサイズが合わないからサンバイザーとはかち合うだろう・・・結果が思いどおりになることはないわかっていたため、実は取り付けはいい加減な心境で行ったのだが、逆にそれが奏効したか、意外とうまい場所にくっつけることができたようで、見たいところはちゃんと映っているし、懐疑的でいた両面テープの粘着性もなかなかしっかりしている(本当は24時間経過しないうちの結論は早すぎるが)。
思いがけなかったのは角度調整。貼り付けはルームミラー裏、ミニミラー本体は表側。2点のピボットを駆使し、ミニミラーとくの字ステーでルームミラーをはさむように取り付けた。
だから角度調整できるのはほんのわずかなのだが、にもかかわらず、左リヤサイドガラスの上下左右をきちんと映す位置に定めることができた。ミニミラー内では助手席ドアガラスの後端とリヤサイドガラスの前端が映っているだけだが、そこまで見えれば充分で、ミニミラー外のドアガラス前寄りの部分は実視界に入っているのでまったく問題にならない。
意外といい結果になったので、自信満々に公道でその効果を試してみると・・・。
いい具合に、左ドアミラーに接近中の自転車が見えたので、ミニミラーで見てみると、おっ! 理想どおり、ルームミラーには映っていないマスクのおじさんがしっかり見えるではないか!
思い描いたとおりの結果を得ることができた。しつこいが、左サンバイザーとの干渉だけが心残りだ。
次に、自分が右車線走行中、左リヤサイド(=左車線)のクルマがどう映るか、信号待ちのときに写真を撮ってみた。
ミニミラーにクルマが映る位置で停まって左後ろを向くと、なるほど、ミニミラーに見る日産キャラバンは、目視したときはこの位置にあるということがわかる。ミニミラーではけっこう接近しているように見えるが、目視するとミニミラーで見るほど近づかれてはいない。
ただし、どのみちミニミラーに映っている段階で自車に近いことは近いのだから、このミニミラーに車両、自転車、バイクに歩行者がわずかでも見えたら、左折ないし左車線への移行は厳禁と判断すべきだ。
なお、ルームミラーとミニミラーとでは映している方向が異なるので両ミラー内のガラス向こうの景色の流れも変わる。ルームミラー内の景色はミラー奥側に流れて行くのに対し、ミニミラー内の景色は運転席で見て左から右へと横方向に流れる・・・この点、私もどうなるかと予測していたのだが、走り出したら意外と気にならなかった。しかし、いったん気になったらずっと気になるひともいるかも知れない。ひとそれぞれだろう。
いやはや、たいていは失敗するので、この手のカー用品には手を出さないことにしているのだが、なかなかいい気分だった。
●おまけ
最後に。
いまのクルマは衝突対策何とやらでピラーが太くなり、視界が悪くなった。そこに加えてシートもぶ厚くなり、頭部保護ナントカでヘッドレストも大柄なものになっている。ために左サイドが見にくいことから、中には助手席ヘッドレストを外して乗っているひともいるほどだ。
ここでひとつアドバイス。
クルマにもよるのだが、ひとり乗車のときは、助手席シートのスライド位置やリクライニング角をうまく操り、背もたれ(とヘッドレスト)が左のセンターピラーと重なるように調整するといい。
「助手席シートよ、せめてお前だけは左を邪魔をしてくれるな」というわけだ。
このようにすると、いまどきのクルマの視界の悪さをいくらかでも低減することができる。
左サイドを邪魔しているのは、動かすことのできないピラーだけということになれば少しはあきらめもつくというものだ。