最高速度も読み取れる! たった2本の線だけでクルマの性能がわかる!? 昔のカタログに載っていた「自動車走行性能線図」とは?

むかしのクルマカタログに載っかっていたものでいまはないものに「自動車走行性能線図」がある。直線や曲線だらけの、知らないひとが見たら「ヤだなァ」と思うヤツだが、実はこのグラフ、いろいろなことが教えてくれる線図なのだ。ここでは誰にでもわかりやすい「最高速度」をどう見つけるか、グラフを分解しながら解説していく。実はたった2本の線を見るだけでわかるんだぜ!
説明がめんどうなら、いきなり下までスクロールして最後の3文を読むだけでも理解できるヨ!
TEXT/GRAPH PROCESS:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:本田技研工業 SORCE of GRAPH:日産自動車/本田技研工業

■いまは見なくなった「自動車走行性能線図」を引っ張り出す

現在の自動車カタログは、90年代までのものとはずいぶん内容が変わった。
かつては、そのクルマのキャラクターに合わせたシチュエーションを設定し、屋外での新型車写真を載せていたもの。車両ばかりではなく、そのクルマのアピールポイントを、クルマの内外、装備群、メカ・・・あらゆる分野に渡って表現、造り手がどのようなひとたちに乗ってもらいたいのか、どこに熱を込めて造ったのかの想いがカタログからにじみ出ていたものだ。

いまはCGを多用したイメージ写真の羅列で、エンジンやサスペンションをはじめとするメカニズムの説明、透視図などは申し訳程度のスペースしか割かれていないものに変わってきている。これじゃあ自動車に興味を持ってくれるひとは増えないんじゃないか?

●「自動車走行性能線図」が意味するものとは?

いまのクルマのカタログから消えたもののひとつに、「自動車走行性能線図」がある。ひと言でいうと、各速度に於ける、クルマの走行性能をグラフ化したもので、25本前後の線から成り立っている。

いまのクルマのカタログではもはや絶賛絶滅中の自動車走行性能線図。

これが自動車走行性能線図。
いまのクルマの性能線図はなかなか手に入れられないので、昔の、とある2000cc、5速マニュアルトランスミッション車の線図を引っ張り出してきた。

たくさんの線がごちゃごちゃしているが、これは3つの要素を重ねているためにごちゃついて見えるだけで、分けて見ると内容を簡単に把握することができる。

ここではたった2本の線からそのクルマの最高速度を知る方法を解説するが、その前にこれらが何を意味する線なのかを先に述べて行こう。

色分けしてみました。

わかりやすいように、先に線を色分けしておこう。
ここには25本の線があるが、3つの要素しかないことがわかる。少しはシンプルに見えるようになっただろうか?
ではではいよいよ・・・

1.エンジン回転数と走行速度

各ギヤでのエンジン回転数と速度の関係を示す。

各速度に於ける、各ギヤでのエンジン回転数をグラフ化したもので、ここでは赤を着色した。このグラフでは赤色にした。5速車なら「5速」に「後退」を加えた6本の線で示される。

各ギヤとも、各速度とそのときのエンジン回転数は、常に比例関係にある。
たとえば3速、時速50km/hのときのエンジン回転数が2500rpmなら、速度が倍の100km/h時にはエンジン回転数も倍の5000rpmになる。だから直線で描かれる。

厳密にいうと実際の伝達効率は100%ではなく、各ユニットで数%ずつの損失を受けるので、実車をテスト台に載せて測定&グラフ化すれば直線ではなく、わずかに低い数値を示す、大きな凹カーブの曲線になるのだが、理論的には直線になるはずのものだ。

よく「ローギヤード(エンジン回転数に対して速度が低い傾向のギヤ比)」「ハイギヤード(エンジン回転数に対して速度が高い傾向のギヤ比)」というが、単純に、これらの線が傾きそのままにいくらかでも左寄りにあれば加速性重視のローギヤード、右寄りであれば低燃費志向のハイギヤードということになり、全体のギヤ比の傾向や、そのクルマの性格をも読み取ることができるわけだ。

余談ながら、ギヤ比がいくつならば「ローギヤード」「ハイギヤード」といえるような、明確な数値的定義はない。あくまでも感覚的、目安的なものだ。このへん、カメラレンズの「広角」「中望遠」「望遠」と同じだ。

2.走行抵抗線図

走行抵抗線図。

各速度に於ける、各勾配でのクルマの全走行抵抗を記したもので、茶色にした。

クルマは自身に降りかかる、主に次の抵抗に打ち勝って走っている。

A.転がり抵抗:文字どおり、タイヤが路面上を転がるときに受ける抵抗。
B.空気抵抗:クルマが走るときには常に車体にまとわりついていくる空気の抵抗。
C.勾配抵抗:クルマが坂道を登る場合、走る方向とは逆向き(後ろ)への重力が働く。つまりこのときは、その重力にも打ち勝たなければ登れないわけで、これが勾配抵抗だ。

これらA.B.C.を総合したものが走行抵抗で、グラフ化したものがこの走行抵抗線図だ。

各グラフ線の「0%」「3%」「5%」・・・は、勾配の数字。
たとえば「3%」とは、平面を100m進み、真上に3m上がったところとスタート地点を結んだ直線の斜め度合いを意味し、これを「3%の勾配」という。
したがって「0%」とは平らな道のことで、走行抵抗グラフの「0%」線だけは内訳がA+Bで占めるということになる。

このグラフはA、B、Cの総額で、抵抗の内訳までは知ることができないが、「0%」の道でさえ、速度が上昇するほど抵抗が増えていることから、スポイラーなどのエアロパーツが「かなりの高い速度域でないと機能しない」の意味が理解できると思う。

3.駆動力線図

駆動力線図。

こちらは青い線で。

エンジンが発したトルクがトランスミッション、クラッチ、最終減速機を経て伝わった、駆動タイヤへの駆動力の、各ギヤでの数値をグラフ化したものだ。「1.エンジン回転数と走行速度」と同様、全6本の線で示される。

これら1.2.3.から各ギヤ、各速度に於ける登坂性能や走行抵抗などを読み取ることができ、そのクルマの性能をおおざっぱにでも把握できるのがこの「自動車走行性能線図」なのだ。
このグラフからこのクルマの最高速度を知る方法を、順繰りに解説していく。

●走行性能線図から最高速度を導き出す

自動車走行線図、ふたたび。

もういちどグラフを出してみる。

このグラフにある全25本のうち、最高速度をつかむのに必要なグラフは、「2.走行抵抗線図」と、「3.駆動力線図」のふたつ。しかも線はたったの2本だ。

ごちゃついて見えるグラフから、余計なものを消していこう。

パッ! 消しました。

まず1.のエンジン回転数と走行速度の線を消す。

はい、赤い線がいなくなりました。

ところで、自分のクルマの最高速度がどれほどなのかを実際に試そうとするとき、平坦な道で走らせようと考えるはずだ。上りや下りの坂道でやろうとするひとはいない。
というわけで、走行抵抗線の多くを消し、0%の線だけ残しました。

0%勾配線だけ残しました。

・・・・・・・・・・。

にぎやかだったグラフがだいぶさびしくなってきた。かつては賑わっていたのに、少子高齢化で閑散としているアーケード街みたいだ。

ところで、あなたが自分のクルマの最高速度がどれほどなのかを実際に試そうとするとき、最上位のギヤで走らせようと考えるはずだ。 3速や4速、ましてやバックギヤで試そうとするひとはいない。ということから、同じく、駆動力線図から、後退と1~4速の青線も消す!

最高速度を知るのに必要な線はこれだけ。

とうとう過疎地みたいになったが、最高速度を知るのに使う線は、「0%」の走行抵抗線図と、「5速」の駆動力線図の2本だけ。

ただしこれだけでは最高速度はわからない。いや、実はあなたの目にもほぼ見えているのだが、本当に見える形にしたければ、ほんのちょっと手を入れる必要がある。

5速駆動力線の先を延長しておく。

ここからは拡大図で。

「5速」の駆動力線図の青線の先を、「0%」走行抵抗線図と交わるまで延長する(緑色の線)。
このグラフの2本線が何を意味しているかというと・・・

90km/h走行時を例にとる。

このクルマが、仮にいま90km/hで走っているとしよう。「90km/h」のところにピンク色で分かりやすく太線を引く。

これをどう見るか?

5速、90km/h時に発生している駆動力は160kg。

ピンク線の、5速駆動力線との交点から左に線を引くと、このクルマが5速、90km/h速度時に発する駆動力は、本来、約160kgであることがわかる(1本斜線部)。

0%勾配路を、5速、90km/hで走行時、路面から55kgの駆動力を奪われている。

いっぽう、ピンク色の、0%走行抵抗線との交点から線を左に描いて見えてくるのは、5速、90km/h、平坦0%勾配路走行時の走行抵抗は約55kg(2本斜線部)だということだ。

これらは「90km/hで平らな道を5速ギヤで走っているとき、このクルマは、駆動力160kgのうちの55kgを走行抵抗に費やしていますよ」ということを意味している。

この2本車線の部分が、5速0%勾配路走行時の余裕駆動力となる。

ここで1本斜線の160kgから2本斜線の55kgを差っ引いた残りの部分に着目してほしい。これは一体何だろうか?

「160kgから55kg取られたって、まだ駆動力が105kgも残っているのさ、まだまだ余裕ヨ」と、いわばクルマが「余裕ぶっこいている」状態。これが余裕駆動力だ。

お金に置き換えると、160円玉(は存在しないが)で55円の買いものをしたときのおつり105円に相当する。

結局、青い駆動力線と茶色の走行抵抗線にはさまれた部分が余裕駆動力を示すことになる。これは他のギヤ、勾配でも同じ。

ここではたまたまある点・・・90km/hポイントを例にしたが、つまり、青い駆動力線と茶色の走行抵抗線の間のエリア(グラフのピンク部)は、どの速度であれ余裕駆動力ということになる。

もしこのクルマのエンジンだけをもっとアンダーパワーなものに載せ替えたとすると、この青線がいくらか下に位置することになる。

この場合、アンダーパワーになる分、余裕駆動力も少なくなるため、同じ場所を同じ速度、同じギヤ比で走っても、ギヤを1段下げて4速にする必要が生じてくることになる(エンジンを入れ替えてもギヤ比、タイヤ径、車両重量などが同じである場合。)。

さきほど消したうちの4速の駆動力線を再度表すと、ピンク領域が上に拡大され、それは余裕駆動力を増やすことになることがおわかりになるだろう。

●最高速度はどこに隠れている?

さて、肝心の最高速度だ。
そもそも「最高速度」とは何だろうか? 感覚的にはわかっているはずだが、あらためて言葉で整理すると・・・

1.アクセルを踏んでも加速が頭打ち=これ以上速度が上がらない。
2.加速できないのは・・・
3.余裕駆動力がないからだ。

となる。
つまり、最高速度を知りたいなら、グラフの中の「余裕駆動力がなくなるポイント」を探せばいいのだ。

青線と茶色線の交差点が、余裕駆動力がゼロとなる点(赤い丸点)。

思い出してほしい。

もともとこの2本の線は交差しておらず、5速の駆動力線を延長して0%勾配線と交差させたことを。
これは余裕駆動力が0(ゼロ)になるポイントをきっちり定めたかったからなのだ。

このポイントから下におろした線の位置から、このクルマの最高速度は、およそ185km/hであることがわかるわけだ。

というわけで、このポイントから真下に線をおろした場所がこのクルマのおおよその最高速度ということになる。

すなわちそれは約185km/h!

90km/h走行時の説明で、発生駆動力がいくつ、走行抵抗がいくつと述べたが、これは余裕駆動力の説明のために数値を出したまでで、最高速度を見つけ出すのにこれら数値を出す必要はない。

ここまでいろいろと書いてきたが、途中の説明がめんどくさかったと思う。つまり最高速度を知りたければ、その内容を理解していなくとも、最高ギヤの駆動力線と0%勾配の走行抵抗線の交差点から下に線をひけばいい。そこがそのクルマの最高速度だ。
いっけん、ややこしそうな自動車走行性能線図だが、たったこれだけのことで最高速度を見つけ出すことができるのである。

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いまのクルマのカタログではもはや絶賛絶滅中の自動車走行性能線図。

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色分けしてみました。

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各ギヤでのエンジン回転数と速度の関係を示す。

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走行抵抗線図。

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駆動力線図。

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自動車走行線図、ふたたび。

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パッ! 消しました。

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0%勾配線だけ残しました。

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最高速度を知るのに必要な線はこれだけ。

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5速駆動力線の先を延長しておく。

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90km/h走行時を例にとる。

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5速、90km/h時に発生している駆動力は160kg。

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0%勾配路を、5速、90km/hで走行時、路面から55kgの駆動力を奪われている。

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この2本車線の部分が、5速0%勾配路走行時の余裕駆動力となる。

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結局、青い駆動力線と茶色の走行抵抗線にはさまれた部分が余裕駆動力を示すことになる。これは他のギヤ、勾配でも同じ。

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青線と茶色線の交差点が、余裕駆動力がゼロとなる点(赤い丸点)。

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このポイントから下におろした線の位置から、このクルマの最高速度は、およそ185km/hであることがわかるわけだ。

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山口 尚志 近影

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