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夏場のタイヤ空気圧は高めがいい? どれくらいが適正値?
結論から言えば、季節に応じて空気圧の値を調整する必要はない。タイヤは通年、指定空気圧に調整しておくのが基本だ。
多くのクルマの指定空気圧は220〜250kPaに設定されており、外気温が10℃上がるとおおむね10kPa増えるというのが定説となっている。
たしかに夏は外気温の高さに加えて、路面温度も高くなるため、空気圧は高くなりがちだ。また、空気に含まれる水分も温度が上がると膨張してさらに体積を増やす。しかし、気温が20℃上昇してもタイヤの空気圧変化はわずか10%ほどに過ぎない。
そもそも走行中のタイヤの接地面温度は、外気温20℃の通常走行でも40〜60℃程度まで上がり、高速道路を走行すると部分的には70℃超まで上昇する。
夏場はタイヤの温度が上がりやすくなるが、走行中のタイヤ温度は外気温や路面温度よりも、速度や摩擦などに応じて発せられる熱のほうが支配的だ。
夏のタイヤトラブルの原因は路面温度よりも空気圧不足
タイヤの表面温度が80℃以上になることも珍しくないサーキット走行では、温度に応じて空気圧を調整する。ただし、これはあくまでサーキットという限定条件下でタイヤ性能を引き出すための手法だ。
一般道で気温やタイヤ温度に応じて空気圧を調整してしまうと、停車時や夜間など外気温が下がった際に空気圧が低くなりすぎてしまう。
空気圧過多で起こる弊害は乗り心地の悪化や、タイヤの中央部が盛り上がることで起こる偏摩耗程度だが、空気圧不足は以下のように多くのデメリットをもたらすうえ、大きなトラブルにも発展する。
- 燃費の悪化
- ハンドリングレスポンスの悪化
- ロードインデックス(耐荷重)不足
- ヒートセパレーション現象
- スタンディングウェーブ現象 など
タイヤの接地面が熱で剥離する「ヒートセパレーション」やタイヤの破裂(バースト)を引き起こす「スタンディングウェーブ」は、空気圧不足によってタイヤがたわみやすくなることで起こる。
これらの現象は膨張したタイヤの空気が原因で破損するわけではなく、高速走行時にタイヤが大きくたわむことで発生する極所的な過熱によってタイヤそのものが破壊された結果だ。
夏場の空気圧不足はタイヤの劣化も促す
ゴムでつくられたタイヤは温度が高いほど柔かくなるため、真夏の空気圧不足はとくに注意が必要だ。
空気圧が低いとタイヤが変形しやすくなるため、車重を支えられなくなりタイヤが潰れやすくなる。夏場は長期間にわたってクルマを停車させておくと、タイヤの接地面が路面に押し付けられて平らになってしまったり、強い日差しによる紫外線劣化も相まってタイヤ側面がヒビ割れやすい。
そのため長期間クルマを動かさないときは、タイヤの劣化を防ぐために空気圧を高めに保っておき、ときどき接地部分を移動させてタイヤの潰れを抑えることが大切だ。
夏になるとタイヤトラブルが増えるのは、こうしたタイヤの劣化と空気圧不足が重なった状態で高速走行を行うことが一因とみられる。
定期的な点検&ガソリンスタンドでは高めの空気圧を心がけて
気温や路面温度が上がればタイヤの空気圧は高くなり、下がれば空気圧も下がる。気圧が低い高地でも相対的に空気圧が上がった状態になるうえ、運転状況によってもタイヤの空気圧は大きく変動する。
メーカーが設定した指定空気圧は季節や場所、状況を通して使える設定であるため、指定空気圧を守っていれば大きなトラブルは発生しにくい。これはサマータイヤもスタッドレスタイヤも同じだ。ただし、通年にわたってタイヤの空気圧が変化しないということではない。
空気中の酸素はゴム分子の隙間から微量に抜け出すため、長期間放置するとタイヤの空気圧は自然に減ってしまう。そのため、定期的な空気圧の点検と調整はクルマに乗るうえで欠かせないものだ。
また、点検や調整のタイミングにも注意したい。指定空気圧は冷間時の圧力であるため、常温で行うのが鉄則だ。可能であれば季節の平均気温の時間帯に空気圧を調整するのがよいだろう。
特別な猛暑日や直射日光下、走行直後などタイヤが暖まっている状態では、空気の膨張によって指定空気圧よりも高い値が表示されてしまう。その状態で指定空気圧に調整してしまうと、夜間や早朝など外気温やタイヤの温度が低い状況下で空気圧不足に陥りかねない。
老舗タイヤメーカーのミシュランでは、タイヤが温まっている状態では指定空気圧に30kPaを加えた値に調整し、タイヤが冷えてから空気圧の再確認を推奨している。
多くの人はガソリンスタンドまで走行して、タイヤが暖まった状態で空気圧の点検を行うだろう。その際は、タイヤの温度に応じて空気圧を高めに調整することを心がけよう。