スズキが世界最小0.8Lディーゼルを開発、インド市場へ「セレリオ」に搭載し投入【今日は何の日?6月3日】

0.8Lスズキディーゼルエンジン
0.8Lスズキディーゼルエンジン
一年365日。毎日が何かの記念日である。本日6月3日は、インド市場を席巻しているスズキが乗用車用として世界最小排気量の0.8Lディーゼルエンジンを開発したことを発表した日だ。“マルチ・スズキ・インディア”で生産されるインド専用車のコンパクトカー「セレリオ」に搭載して投入された。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)

■インド専用としてわずか0.8Lの2気筒ディーゼルエンジンを開発

2015(平成27)年6月3日、スズキが排気量0.8Lの、乗用車としては世界最小の2気筒ディーゼルエンジンを自社開発したことを発表。インドの“マルチ・スズキ・インディア”が生産するコンパクトカー「セレリオ」に搭載した、インド市場のために開発されたエンジンなのだ。

0.8Lスズキディーゼルエンジン
世界最小の乗用車用スズキの0.8L 2気筒ディーゼル・インタークーラー付ターボ

●スズキがトップシェアを誇るインドでディーゼル人気が高まる

スズキが初めてインド市場に進出したのは1983年。1990年代にはインドの乗用車市場の80%を占めるまで急上昇。2024年現在は他社の追い上げもあり、シェアは40%前半まで下がったが、それでもシェアNo.1の座はキープしている。

0.8Lスズキディーゼルエンジン
1982年10月2日、インド・マルチ社と正式調印。翌1983年から「マルチ800」を発売

インド市場では、当初から小型ガソリン車が人気を獲得していたが、2000年を過ぎた頃からガソリン価格の高騰に伴い、燃費の良いディーゼル車の人気が急上昇した。欧州のメルセデス・ベンツやBMW、韓国のヒョンデなどが積極的にディーゼル車を投入し始め、スズキもフィアット製の2.0L/1.6L/1.3Lディーゼルをライセンス契約で生産し、「スイフト」やSUVSX4」などに搭載し販売を始めた。

●インド市場のために開発した最小排気量2気筒ディーゼル

2代目「セレリオ」
0.8L 2気筒ディーゼル搭載の2015年発売の2代目「セレリオ」

スズキが自社開発した小型ディーゼルエンジンは、インドで人気のコンパクトカー「セレリオ(日本には未投入)」に搭載。排気量0.8L直列2気筒DOHCのアルミ製ディーゼル・インタークーラー付ターボで、最高出力は47.6ps/最大トルク12.7kgmを発生する、乗用車としては世界最小のディーゼルエンジンだ。
従来の1.3L直4ディーゼルに対してコンパクトかつ30%も軽量化され、燃費はインド市場で最高の27.62kg/Lを達成。また2気筒特有の振動には、フライホイールの最適化や低圧縮比15.1などで対応し、コストを抑えるためにコモンレール噴射でなく、分配型の噴射装置を採用した。

0.8Lスズキディーゼルエンジン
0.8Lスズキディーゼルエンジン

搭載されたセレリオは、インドでは68.4万~87.6万円(ガソリン車)で販売されている低価格の人気モデルであり、0.8Lディーゼルは2015年から2021年まで搭載された。現在は、同じくインド専売の小型トラック「スーパーキャリイ」に搭載されている。

●ディーゼルは小型化(1L以下)が難しいエンジン

スーパーキャリイ
660ccガソリンエンジン搭載の日本仕様「スーパーキャリイ」

世界的に見ても1.0L以下の乗用車用ディーゼルエンジンはない。1983年にはダイハツが「シャレード」に搭載した、当時世界最小の1.0L 3気筒ディーゼルエンジンを搭載して注目された。ボア76mm/ストローク73mmの渦流式ディーゼルで最高出力38ps/最大トルク6.3kgmを発生した。

ダイハツ「シャルマン」
1983年にデビューし1.0Lディーゼルを搭載したダイハツ「シャルマン」

これを、スズキの0.8Lディーゼルの排気量が下回ったのだが、一般的にはボア80mm以下の小さなディーゼルエンジンを成立されるのは難しいとされている。ディーゼルエンジンは、高圧の軽油噴霧を直接シリンダー内に噴射するので、ボアが小さいとシリンダー壁面に軽油が直接付着しやすくなり、噴射された燃料が有効に利用されない、排ガス中に未燃のHCやCOが増えるためである。

スズキの0.8Lディーゼルのボア/ストロークは77mm/85.1 mmで、一般的な3気筒にするとボア径はさらに小さくなるので、2気筒にしている。2気筒は振動が大きくなるので、インド市場では許容されても日本のような先進国市場では商品化するのは難しく、基本的にはインド専用となっているのだ。
さらに、最新のディーゼル車には排ガス低減のために高価な噴射システムや排ガス低減システムが必要なので、小型化するほどそれらのコストアップ分が相対的に大きくなってしまい、これも小型ディーゼルの商品化を困難にしている理由である。したがって、排気量660ccの軽自動車ディーゼルは実現が難しく、実際に存在した例はない。

ヤンマー軽トラック「ポニー」
1958年に発売された、360cc V型2気筒ディーゼル搭載のヤンマー軽トラック「ポニー」

なお過去に遡れば、ヤンマーが1958年に発売した軽トラック「ポニー」に360㏄ V型2気筒ディーゼルエンジンを搭載した例があるが、排ガス規制がない時代なので例外とした。

・・・・・・・
インドのディーゼル人気は長くは続かず、その後2019年からディーゼル車の排ガス規制が強化され、スズキもディーゼル車のインド撤退を段階的に始めた。ちなみに、インド政府は2030年までに4輪車の30%、商用車の70%をEV化する目標を掲げており、日本同様、今後ディーゼルが復活する可能性は極めて低いと言える。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。

キーワードで検索する

著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…