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■MRレイアウトの軽自動車「i(アイ)」をベースにしたEV
2009(平成21)年6月5日、三菱自動車が軽の電気自動車「i-MiEV(アイミーブ)」を発表した。ミッドシップ(MR)の軽ガソリン車「i(アイ)」をベースにしたEVで、同年7月から法人・自治体向け、翌2010年4月から一般ユーザー向けの販売を開始するという内容だった。
●電気自動車の歴史はガソリン車よりも古かった
歴史的にみて実用的な電気自動車は、1873年に英国のロバート・ダビットソンが開発したとされている。カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが、ガソリン自動車を発明したのが1886年なので、電気自動車の方が早く実用化されたことになる。T型フォードが生産を始めた1908年以前には、EVの方が普及していたのだ。
また、20世紀最高の自動車設計者と誉れ高いフェルディナント・ポルシェも、何とインホイールモーター式の電気自動車を1900年のパリ万国博覧会に出展していた。120年以上も前に、今盛んに開発されているインホイールモーターを考案・製作していたとは、さすが天才技術者だ。
日本では、1947年にプリンス自動車の前身にあたる東京電気自動車が、鉛電池のEV「たま電気自動車」を発売した。最高出力は4.5ps、最高速度35km/hで満充電時の航続距離は65km。その後、1949年の改良型「たまセニア号」は、最高速度55km/h、航続距離が200kmまで向上した。
しかし、内燃機関が急速に進化したのとは対照的に、EVは実用的なバッテリーが開発されず、航続距離が短く、さらに効率の良い充電法が存在しなかったために市場性を失い、その後はガソリン車とディーゼル車が長く自動車のパワーユニットの主流となったのだ。
●MRの軽自動車i(アイ)をベースにしたi-MiEV誕生
その後、長く実用的で市販化されたEVは登場せず、量産初となるEVがi-MiEVだったのだ。ベースとなった2006年に発売された軽自動車のi(アイ)は、近未来的なタマゴ型のフォルムとMRレイアウトが特徴の革新的な軽自動車だったが、軽自動車としては贅沢な仕様で価格も高かったことから、販売は期待したほど伸びなかった。
i-MiEVは、ミッドシップのエンジンの代わりに、最高出力47kW(64ps)/最大トルク18.4kgmを発生するモーターを搭載し、200kgを超える16kWhのリチウムイオン電池は床下に配置された。
モーターのトルクバンドが広い特性を利用し、トランスミッションを使わず、モーター回転を減速する減速ギアとデファレンシャルギアを一体化したギアボックスを介し、後輪駆動で走行。バッテリーの搭載によって車重が1100kgほどあったi-MiEVだが、EVらしい優れたレスポンスと力強い加速でガソリンターボ車を上回る動力性能を発揮した。
●2021年に販売を終了するも翌年eKクロスEVで復活
i-MiEVは、量産初のEVということで注目され、評価を受けた一方で、課題は価格が高いことと航続距離が短いことだった。
価格は459.9万円と高額だったが、最大138万円程度の補助金を受け、さらにエコカー減税によって重量税と取得税が免税される。実質的には、300万円前後まで下がるが、低価格を求める軽自動車のユーザーにとっては、高価な買い物だった。
また、満充電時の航続距離は160km(10・15モード)で日常ユースには充分だったが、一方でエアコンを使用したり、高速走行を続けると100kmを切ることが多く、ユーザーの一部からは不満の声も聞かれた。
2010年12月には、日産自動車から小型車のEV「リーフ」が航続距離200km(JC08モード)、価格376万円で登場、その後も進化したことでi-MiEVの存在感は薄れてしまった。結局、i-MiEVは一定のユーザーを獲得しながらも、累計販売台数約2万3700台をもって2021年3月に販売を終えた。
しかし、三菱はEVの開発を諦めず、約1年あまり経った2022年6月に、「eKクロスEV」が日産「サクラ」とともに復活を果たしたのだ
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eKクロスEVは、車両価格293.26万円でバッテリー容量20kWh、航続距離180km(WLTCモード)を達成。JC08モードのi-MiEVの航続距離180kmは、WLTCモードに換算するとおおよそ144kmに相当する。i-MiEV発売当社の価格が459.9万円だったことからも、12年の間にリチウムイオン電池と電動パワーユニットがいかに進化したかがよく分かる。
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