三菱自動車「i-MiEV」の市販化を発表。世界初の量産電気自動車は、軽ながら高級車並みの459.9万円でデビュー【今日は何の日?6月5日】

三菱i-MiEV(アイミーヴ)
三菱i-MiEV(アイミーヴ)
一年365日。毎日が何かの記念日である。本日6月5日は、三菱自動車が量産初の電気自動車「i-MiEV」の発売を発表した日だ。航続距離160kmで車両価格は459.9万円と高価だったが、発表の翌2010年4月に発売され、EV時代の先陣を切った。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)

■MRレイアウトの軽自動車「i(アイ)」をベースにしたEV

2009(平成21)年6月5日、三菱自動車が軽の電気自動車「i-MiEV(アイミーブ)」を発表した。ミッドシップ(MR)の軽ガソリン車「i(アイ)」をベースにしたEVで、同年7月から法人・自治体向け、翌2010年4月から一般ユーザー向けの販売を開始するという内容だった。

三菱i-MiEV(アイミーヴ)
2010年にデビューした量産初の電気自動車「i-MiEV」

●電気自動車の歴史はガソリン車よりも古かった

歴史的にみて実用的な電気自動車は、1873年に英国のロバート・ダビットソンが開発したとされている。カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが、ガソリン自動車を発明したのが1886年なので、電気自動車の方が早く実用化されたことになる。T型フォードが生産を始めた1908年以前には、EVの方が普及していたのだ。
また、20世紀最高の自動車設計者と誉れ高いフェルディナント・ポルシェも、何とインホイールモーター式の電気自動車を1900年のパリ万国博覧会に出展していた。120年以上も前に、今盛んに開発されているインホイールモーターを考案・製作していたとは、さすが天才技術者だ。

たま自動車
1947年に東京電気自動車(プリンス自動車の前身)で生産された「たま自動車」

日本では、1947年にプリンス自動車の前身にあたる東京電気自動車が、鉛電池のEV「たま電気自動車」を発売した。最高出力は4.5ps、最高速度35km/hで満充電時の航続距離は65km。その後、1949年の改良型「たまセニア号」は、最高速度55km/h、航続距離が200kmまで向上した。
しかし、内燃機関が急速に進化したのとは対照的に、EVは実用的なバッテリーが開発されず、航続距離が短く、さらに効率の良い充電法が存在しなかったために市場性を失い、その後はガソリン車とディーゼル車が長く自動車のパワーユニットの主流となったのだ。

●MRの軽自動車i(アイ)をベースにしたi-MiEV誕生

三菱i(アイ)
三菱「i-MiEV」のベースとなった2006年発売のMR(ミッドシップ)軽自動車「i(アイ)」

その後、長く実用的で市販化されたEVは登場せず、量産初となるEVがi-MiEVだったのだ。ベースとなった2006年に発売された軽自動車のi(アイ)は、近未来的なタマゴ型のフォルムとMRレイアウトが特徴の革新的な軽自動車だったが、軽自動車としては贅沢な仕様で価格も高かったことから、販売は期待したほど伸びなかった。

三菱i-MiEV(アイミーヴ)
三菱「i-MiEV」のリアビュー。タマゴ型の近未来的なデザインでEVらしさをアピール

i-MiEVは、ミッドシップのエンジンの代わりに、最高出力47kW(64ps)/最大トルク18.4kgmを発生するモーターを搭載し、200kgを超える16kWhのリチウムイオン電池は床下に配置された。
モーターのトルクバンドが広い特性を利用し、トランスミッションを使わず、モーター回転を減速する減速ギアとデファレンシャルギアを一体化したギアボックスを介し、後輪駆動で走行。バッテリーの搭載によって車重が1100kgほどあったi-MiEVだが、EVらしい優れたレスポンスと力強い加速でガソリンターボ車を上回る動力性能を発揮した。

三菱i-MiEV(アイミーヴ)
「i-MiEV(アイ・ミーブ)」に続く新世代電気自動車の第2弾として2011年にリリースした軽商用電気自動車「MINICAB-MiEV(ミニキャブ・ミーブ)。2021年3月末に生産を終えたが、2022年11月に再販が開始された

●2021年に販売を終了するも翌年eKクロスEVで復活

三菱i-MiEV(アイミーヴ)
三菱i-MiEV(アイミーヴ)

i-MiEVは、量産初のEVということで注目され、評価を受けた一方で、課題は価格が高いことと航続距離が短いことだった。
価格は459.9万円と高額だったが、最大138万円程度の補助金を受け、さらにエコカー減税によって重量税と取得税が免税される。実質的には、300万円前後まで下がるが、低価格を求める軽自動車のユーザーにとっては、高価な買い物だった。
また、満充電時の航続距離は160km(10・15モード)で日常ユースには充分だったが、一方でエアコンを使用したり、高速走行を続けると100kmを切ることが多く、ユーザーの一部からは不満の声も聞かれた。

日産初代「リーフ」
2010年にデビューした日産初代「リーフ」

2010年12月には、日産自動車から小型車のEV「リーフ」が航続距離200km(JC08モード)、価格376万円で登場、その後も進化したことでi-MiEVの存在感は薄れてしまった。結局、i-MiEVは一定のユーザーを獲得しながらも、累計販売台数約2万3700台をもって2021年3月に販売を終えた。
しかし、三菱はEVの開発を諦めず、約1年あまり経った2022年6月に、「eKクロスEV」が日産「サクラ」とともに復活を果たしたのだ

三菱・軽EV「eKクロス EV」
2022年6月に発売された三菱・軽EV「eKクロス EV」
三菱i-MiEV Evolution
「2012パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」には、エレクトリッククラス制覇を目指して作られた三菱i-MiEV Evolutionもあった。3モーター合計240kWというパワフルなAWDモンスターだ。結果はEVクラス2位!

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eKクロスEVは、車両価格293.26万円でバッテリー容量20kWh、航続距離180km(WLTCモード)を達成。JC08モードのi-MiEVの航続距離180kmは、WLTCモードに換算するとおおよそ144kmに相当する。i-MiEV発売当社の価格が459.9万円だったことからも、12年の間にリチウムイオン電池と電動パワーユニットがいかに進化したかがよく分かる。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…