ハイソカーの代名詞、トヨタ「ソアラ(Z10)」の、時代をリードした初モノ尽くしの新機構・新装備とは?【歴史に残るクルマと技術046】

初代ソアラ
初代ソアラ
1970年代のオイルショックと厳しい排ガス規制を乗り越えた自動車メーカーは、1980年を迎えると高性能・高機能モデルの開発を急いだ。トヨタは、1981年に満を持して本格的な高級スペシャリティカー「ソアラ」を投入。洗練されたスタイリングと国内初となる数多くの先進技術を採用し、一世を風靡するヒットモデルとなった。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・ソアラのすべて

●高級スペシャリティカー需要の高まり

右が初代、左が2代目のトヨタ・ソアラ
左が初代、右が2代目のトヨタ・ソアラ

 オイルショックと厳しい排ガス規制を乗り越えて迎えた1980年代初頭、ライバル関係にあったトヨタと日産自動車は高性能・高機能モデルの次々に発売した。
なかでも注目されたのは、欧米メーカーが力を入れていた上級クラスのスペシャリティカーだった。欧州では、メルセデス・ベンツ「SLCクラス」、BMW「6シリーズ」、ジャガー「XJ-S」など、そして米国ではフォード「サンダーバード」などが人気を獲得していた。

日産初代「レパード
1980年にデビューした日産初代「レパード。「ソアラ」より先行して登場したスペシャリティカーだが、ソアラには敵わず

1970年代後半に、トヨタは「コロナ・マークII」の2600シリーズ、日産は「ブルーバード2000G6シリーズ」のパーソナリティカーを投入していたが、高度成長を迎えて好景気に沸く市場の高級志向に応えることはできなかった。
まず先に対応したのが日産であり、1980年に高級スペシャリティカー「レパード」を発売、遅れること9ヶ月後に登場したのが、トヨタの「ソアラ」だった。

●華麗なスタイリングと先進技術で他を圧倒したソアラ(Z10)

日産「レパード」も新技術を採用した高級スペシャリティカーだったが、ソアラは“スーパーグランドツーリスモ”とキャッチコピーでレパードを圧倒した。

初代トヨタ・ソアラ
初代トヨタ・ソアラ

ソアラのクリーンノッチバックと呼ばれたシャープなエッジを持った上品かつスポーティなフォルムと、多彩なエレクトリック技術を駆使した豪華なインテリアは、当時の高級車をも凌駕する魅力があった。エンジンは、新開発の国内最高出力170psを誇る2.8L直6 DOHC(5M)と 2.0L直6 SOHC(1G)エンジンを搭載、組み合わせるトランスミッションは4速ATおよび5速MTが用意された。
さらに足回りについても、コイルスプリングを用いた4輪独立懸架、4輪ディスクブレーキなどが採用され、優れた走りと上質な乗り心地を実現。
車両価格は、標準仕様が166.2万円(5速MT)/175.4万円(4速AT)、170psを発揮したトップグレードの2800GTは266.7万円(5速MT)/275万円(4速AT)に設定。当時の大卒初任給は12万円程度だったので、単純計算では現在の価値で318万(標準仕様MT)~511万円(2000GT)に相当する。

トヨタ初代「ソアラ」
1981年にデビューしたトヨタ初代「ソアラ」のリアビュー。華麗な2ドアクーペスタイルのスペシャリティカー

当初のターゲットは40歳代以上のハイステータス層だったが、高級車ながらスポーティなイメージをアピールしたソアラは多くの若者層にも支持され、特にスーパーホワイトと呼ばれた白いソアラは憧れのクルマとなり、一大旋風を巻き起こした。

●国産車初やトヨタ初など、初モノ尽くしのソアラの新機構・新装備

初代トヨタ・ソアラ2800GTの5Mエンジン
初代トヨタ・ソアラ2800GTの5Mエンジン

見る者を魅了する華麗なスタイリングに加えて、ソアラの人気を加速したのは群を抜いた豪華かつ多彩な機構・装備であり、その多くは国産初、トヨタ初で新世代感を大きくアピールした。
とにかく初モノだらけだったソアラ、エンジンは2.0L&2.8LのDOHCエンジンだが2.0L以上のDOHCは国内初、出力170psは当時最強、また1983年に追加された2.0L(1G)に装着されたターボはトヨタ初(クラウンと同時)だった。

5Mエンジンの横断面図
5Mエンジンの横断面図

機構・装備で最も注目されたのが国産量産車初の“エレクトリックディスプレイ(デジタルメーターやLEDタコメーターなど)”であり、その他にもマイコン制御の“オートエアコン”は国産車初、目的地までの距離や時間を計算してくれる“ドライブコンピュータ”、“エア式ランバーサポート”、合成音で警告を知らせる“スピークモニター”、“録音機構付きカセットテーププレイヤー“などが採用された。
さらに、“パワーアシスト付きラック&ピニオン”はトヨタ初であり、1983年のマイナーチェンジでは電子制御サスペンション(TEMS)を採用。車速や道路状況に応じてショックアブソーバーの減衰力を自動制御するもので、世界初だった。

初代ソアラのサスペンション
初代ソアラのサスペンション

●バブルとともに花開き、バブル崩壊とともに幕を下ろしたソアラ

2代目ソアラのサスペンションテスト
2代目ソアラのサスペンションテスト。ドライバーは清水和夫氏
トヨタ2代目「ソアラ(Z20系)」
バブルの後押しで爆発的なヒットとなったトヨタ2代目「ソアラ(Z20系)」3.0GTリミテッド

初代の後を継いだ2代目ソアラ(Z20系)は、日本がバブル好景気に沸き始めた1986年に登場した。
初代のキープコンセプトながら、より洗練されたスタイリングとさらなる最新技術を投入。エンジンは、当時最強の3.0L直6 DOHCインタークーラー付ターボ(7M)、および2.0L直6 DOHCツインターボ(1G)エンジンを搭載し、初代の走りに磨きをかけた。
2代目ソアラは、バブル好景気の勢いと相まって、販売台数は初代を超える5年で30万台以上の空前の大ヒット。400万円を超える最上級モデルが飛ぶように売れたのだ。また、バブル期に大ブームとなったスポーティな高級セダン“ハイソカー”ブームを代表するクルマとなった。

トヨタ3代目[ソアラ(Z30系)]
トヨタ3代目[ソアラ(Z30系)]の丸みを帯びたリアビュー。バブル崩壊とともにソアラ人は減速(ソアラ4.0Gリミテッド)

その後、3代目(Z30系)ソアラは、1991年に登場。日本のバブル好景気も終焉を迎え、3代目は北米市場を狙った上級の3ナンバークーペとなり、日本での販売は右肩下がりになった。

トヨタ・3代目ソアラ4.0Gリミテッドのコクピット
トヨタ・3代目ソアラ4.0Gリミテッドのコクピット


さらに、2001年に登場した4代目(Z40系)は、電動格納式メタルトップのコンパーチブルモデルとなって登場し、海外では「レクサスSC」としても販売されたが、2005年に日本でレクサスブランドがスタートしたことを受け、ここで名車ソアラの名前は市場から消え去ったのだ。

トヨタ4代目「ソアラ(Z40系)」
北米重視でコンバーチブルとなったトヨタ4代目「ソアラ(Z40系)」

●トヨタ・ソアラが登場した1981年は、どんな年

ホンダ初代「シティ」
1981年にデビューして大ヒットしたホンダ初代「シティ」”トールボーイ”

1981年には、トヨタの「ソアラ」の他にも、ホンダの「シティ」も発売された。シティは、ワイド&ローのクルマがカッコいいという常識を覆し、“トールボーイ”と呼ばれた背高ノッポの斬新なデザインで、大ヒットした。

クルマ以外では、スペースシャトル「コロンビア」が初飛行に成功、福井謙一氏がノーベル賞を受賞。ピンクレディ解散、写真週刊誌「FOCUS」と女性ファッション誌「CanCam」が創刊され、人気番組「オレたちひょうきん族」、TVドラマ「北の国から」の放送が始まった。
また、ガソリン157.1円/L、ビール大瓶264円、コーヒー一杯256円、ラーメン334円、カレー420円、アンパン82円の時代だった。

トヨタ・ソアラの主要諸元
トヨタ・ソアラの主要諸元

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当時の日本車にはなかった華麗なスタイリングと優れた走行性能、先進のエレクトロにクス技術を装備し一世を風靡したソアラ、1980年代のクルマのあり方を提示した、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…