航空自衛隊現用の主力戦闘機F-2の後継機を用意する時期になった。F-2の量産初号機が初飛行したのは1996年で、今から25年前だ。F-2を装備する空自の全飛行隊への配備完了が2006年だから、現在およそ100機弱ある機体のほとんどはベテラン選手で、老朽化対策を始める頃合いだろう。戦闘機の場合、後継機の選定や開発は早い方がいいから、F-2後継機については動き出さねばならない時期にある。防衛省は次期戦闘機「FX(Fighter X)」の就役目標を2035年としている。あと14年の月日は長いようで短いはずだ。
我が国周囲の軍事情勢をみれば、後継機・次期戦闘機の必要性と切迫性が増すばかりだ。中国やロシアはすでに各々国産のステルス戦闘機を実用化している。韓国も開発や調達には意欲的だ。同時に、北朝鮮の核開発と弾道弾の保有、中国の海洋進出と台湾侵攻への懸念など、日本周辺・極東地域は騒がしく、どう見ても「開戦前夜」の危機感を抱いてしまう。
日本もF-35装備の2個飛行隊を編成し三沢基地へ置いたが、それだけで周辺国に対して航空戦力の優勢にあるかといえば疑問だ。急ぎたいのは、防空体制を現在より固めること、周辺国の戦闘機に対して優位性を持つテクノロジーを具体化すること、そして防衛戦略(日米同盟、日米安保)の実効性にあるはずだ。
次期戦闘機へ向けての研究開発は2000年代には始まっていて、それは「将来戦闘機」のための研究や先進技術研究などとして防衛省・技術研究本部(現、防衛装備庁)などで行なわれてきている。
この研究開発計画のなかで先進技術実証機「X-2」は生み出された。防衛装備庁が計画、三菱重工を中心に開発・製造した研究機だ。2016年4月22日に初飛行した。小牧基地などで各種飛行試験が行なわれてきた。
X-2は将来戦闘機で採用される予定の各種技術を試すための機体だ。名称の「X」は「experimental」を指し、航空機などの試作機や実験機、次期採用予定機などを示す記号だ。本計画は、機体のステルス形状やエンジンの推力偏向制御等の先進技術を盛り込んだ実験用航空機を試作し、実際に飛行させ、その技術の実証と有効性の検証を行なうことを主目的としている。
本計画の概要は次のように進んだ。
2000年ごろ、まず小さな模型が作られイメージを見た。次にCADソフトでいくつかの機体がコンピュータ上で作られ、各種の実験を行なった。
2005年、実物大の模型を作り、その電波反射具合を欧州などでテストした。前後してスケールダウンしたラジコン模型を飛ばしたりした。
そして2014年、既存実機のパーツを流用し、実物大の機体を作った。これは「先進技術実証機(ATD-X)」と呼ばれる研究開発・試作初号機として披露された。
ここまでのプロセスを集大成したものとして2016年、先進技術実証機「X-2」が生み出され、初飛行を遂げたのだ。
X-2の機体と中身はすべて新規開発された。エンジンや機体形状、アビオニクス(搭載電子装置)などである。同時に、開発コストを抑えるためパーツを流用している。主脚と前脚はT-2練習機のもの、キャノピーと射出座席はT-4練習機のものを使った。ちなみに、X-2は先進技術による飛行性能や飛行特性を試す飛行試験を行なうための実験機だ。ミサイルや機関砲などの兵器を搭載する機能はない。すぐこのまま次期戦闘機の原型とするわけではないのだ。加えて、X-2は「対ステルスレーダー」の研究開発を促進する役割もあるという。
実機としてのX-2が初飛行し「飛べるメカニズムとデザイン」が実証された。そして2020年代に近づくと、盛り込まれる機能や運用面でも先進的なコンセプトが付け加えられるようになった。
2019年には新たなイメージイラストが公表され、ともに飛ぶ無人機を操りながら長距離広範囲に相手を探し、捉え、攻撃し、制圧するオペレーションを標榜するものが次期戦闘機であると定義づけられるようになった。できるだけ早く遠方で相手を捉え、相手の射程外から強力な兵器を放ち沈黙させる機能。将来の航空戦闘はこういう様相になるのだろうし、F-35が実装しているのもこの機能だ。こうした将来の戦闘機像は映画やアニメの世界で遥か昔から描かれており、どうやらそうしたものを目指す方向性になりそうだと筆者は感じるが、どうだろうか。
「ステルスvsステルス」となった場合、対ステルス技術で発見が容易となった将来世界ではステルス技術自体が陳腐化する可能性を持つと考えられなくもない。無人機やロボットが対峙する戦場で、機械を大量消費して衝突した際、その戦闘の勝敗というものはどこにつくのか、従来型の勝敗の意味はあるのか、そんなふうに考えてしまう。