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大分県由布院に店を構える『プランニングおがわ』で購入した
世界限定600台のフィアット500 PINK!の中古車
2023年7月12日、筆者はフィアット500の中古車を買いに大分県由布院を訪れていた。4年間連れ添ったジャガーに代わる新たな相棒は、2009年に世界限定600台、日本国内には50台のみが導入されたレアなフィアット500 PINK!。その名の通り、鮮やかなソリッドピンクのボディカラーを纏ったなんともかわいいヤツだ。
事前に販売店に対しては「現車を確認して重大な瑕疵がなければ購入する」と宣言しており、お目当てのフィアットを販売する『プランニングおがわ』は、契約を前提に九州の専門店に入庫して、フィアット車鬼門のデュアロジックを含め、事前に入念な納車整備をすでに終えていた。整備の様子は出立する前にメールで写真を送ってくれたので確認済みだ。
現車チェックと試乗を終えて、車両に問題がないことがハッキリしたところで契約を済ませ、由布院の市役所で借りた仮ナンバーを車両の前後に付け、往路ジャガーで走った1100kmの道のりを今度はフィアットで戻る。ジャガーを手放した理由のひとつに空調の不調があったが、幸いなことにフィアットは吹き出し口から問題なく冷気を放出してくれる。正常に機能することが当たり前のカーエアコンであるが、夏の九州を走るのにはまさしく必需品。これほどありがたい装備はない。
快調に高速道路を巡航するピンクのフィアット。しかし、異変は関門海峡を抜け、中国自動車道に入ったところで起きた。下関ICから山口JCTまでは長い上り坂が続く。ここで事故渋滞に巻き込まれ、1時間以上もノロノロ運転を余儀なくされたのだ。
1100km自走して帰宅するが、中国自動車道でミッション警告灯が点灯
ここで突然、ミッション警告灯が点灯する。ステアリングを同行者に任せて助手席で居眠りをしていた筆者は「警告灯が光った!」と起こされる。目が覚めると車内にわずか焦げ臭い匂いが漂っていることから、クラッチが原因であると察しがついた。「変速は問題なくできてる?」と尋ねると「今のところ問題はない」との返答。
デュアロジック車を初ドライブする同行者に渋滞時の運転のコツを伝えるのを失念していた。そこで「じわじわ流れについて行くのではなく、シャクトリ虫運転……夏場にオーバーヒートがちな旧車を運転するように、前走車とある程度距離が開いたら車間を詰めるように運転してみて。半クラを多用するのではなく、MTをしっかり変速するイメージで。とりあえず、王司PAにクルマを止めて点検してみよう」と伝える。すると元メカニックの同行者はこちらの意図を汲み取ってくれた。
王司PAでクルマを少し休ませ、ミッションまわりを点検する。すると、短い時間で車内から焦げ臭さは消え、エンジンを再始動するとミッション警告灯は再び点灯することはなかった。もちろん、トランスミッションが問題なくスムーズに変速できることも確認済みだ。
自動制御MTのデュアロジックはトルコンATと違ってベースとなるのはMTだ。半クラを多用する長い渋滞かつ登り坂という条件はクラッチへの負担も大きくなる。しかも、購入したフィアットは走行距離10万km超の中古車。当然のようにクラッチも新品同様というわけにはいかない。こういう悪条件ではドライバーがクルマの求めに応じてメカをいたわった運転を心がけなければならない。
ただ、運転中に不安を感じたのはこの1回だけ。あとはすこぶる快調に千葉まで一気に走り抜けてくれた。
デュアロジックタンクの下にオイル漏れの痕跡を発見!
自宅に戻ってから約2週間。この間仕事が忙しくてなかなか時間が取れず、8月に入ってからようやくナンバー取得のために陸運局に行くことができた。
駐車場に停めっぱなしのフィアット500と久しぶりに対面すると……ん?デュアロジックタンクの下辺りに直径2cmほどのオイルの染みが……。『プランニングおがわ』が納車前にデュアロジックの点検とともに専用オイルも交換してくれたはずだ。もしもタンクや接続ホースなどに異常があれば、修理なり要整備項目として申し送りがあるはずだ。
すでに1ヶ月・1000kmの中古保証は九州からの復路で使い切ってしまったが、とりあえず『プランニングおがわ』に連絡してみることにした。すると社長さんは親身に相談に乗ってくれたのだが、いかんせん千葉と由布院では1100kmも距離が離れている。電話口の社長さんは「たしかにデュアロジックの点検・整備をしっかり行いました。現車の状態を確認できれば点検ができますし、不具合があっても対応ができるのですが……」と残念そうに話をする。
遠方の店で中古車を購入するデメリットがこれだ。いかに良心的な中古車店でも店にクルマを持っていけなければ対応のしようがない。まあ、こちらもそれは百も承知で購入したので、心当たりのある近場のプロショップに連絡を取ることにした。
東京・江戸川区のプロショップ『ピッコロカーズ』に点検を依頼
東京・江戸川区に店を構える『ピッコロカーズ』。この店はフィアット500を中心とした欧州製コンパクトカーを得意とするスペシャルショップで、近年はデュアロジック故障時の駆け込み寺としても知られている。ここは以前、弟が乗っていたクライスラー・イプシロンを手放す際にお世話になった。
由布院からの復路でのミッション警告灯が点灯した件もあり、ナンバー取得後にセカンドオピニオンとして点検をお願いしようと思っていたので、併せてデュアロジックオイル漏れを含めて点検を依頼すべく、社長の竹門 聡さんに連絡を取ることにした。電話口に出た竹門さんは「お盆の16日でしたら時間が空いていますから、その日に買ったクルマを持ってきてください」と点検を快く引き受けてくれた。
原因はデュアロジックオイルの漏れではなかった!
約束の時間にピッコロカーズを訪れると、出迎えてくれた竹門さんは「おお、PINK!とは珍しいですね。コミコミ50万円で買われたんですか? パッと見したところコンディションも良さそうだし、良い買い物をしましたね」とお褒めの言葉をいただく。
さっそくボンネットを開けて竹門さんに点検してもらう。「話を聞く限り、しっかりした店で購入されたようですし、オイル漏れの可能性を低いと思いますが……」と言いながら要所要所をチェックしてもらう。「前オーナーはしっかりとメンテしていたみたいですね。山崎さんも気づかれたと思いますが、デュアロジックオイルの交換がしやすいように、タンクの遮熱板が加工されています。こうするとタンクへのアクセス性が改善するんですよね」と竹門さん。
「う~ん、オイル漏れの痕跡はないのですが……あ、原因がわかりましたよ。デュアロジックオイルを交換する際にわずかに飛散したオイルが周辺に付着して、時間の経過とともに滴り落ちたんですよ。手が入りにくく補機類で見えにくいところなので、プロが作業してもこういうことがどうしても起こり得るんですよね。清掃しておきますので、これで問題は解決したハズです」
オイル漏れの可能性はこれで退けられた。
ミッション警告灯の点灯はやはりクラッチの摩耗
エラーコードを消してキャリブレーションで対応
さて、もうひとつの問題であるミッション警告灯の点灯についても点検してもらう。症状を話すとやはりクラッチが原因として疑われうようだ。
早速診断機を繋いでチェックしてもらう。竹門さんは「クラッチの摩耗が進んでいますが、通常の使用ならもう少し使えると思います。お話されたような悪条件が重なったときは若干注意が必要ですが、そもそもクラッチに負担をかけるような運転はなるべく避けるべきです。ちなみにウチでクラッチ交換の作業を行うと、部品代と工賃はざっくり15万円くらい。今ですと工場の順番待ちで1.5~2ヶ月ほどクルマを預からせてもらいます」という。
修理代はともかくとして、納車されたばかりのクルマに2ヶ月間も乗れないのはどうしたものかと逡巡していたところ、竹門さんは「納車されたばかりで山崎さんも新しく購入したクルマに乗りたいでしょうし、もう少しあとでも大丈夫ですよ。とりあえず、今日のところはエラーコードを消し、念のためデュアロジックのキャリブレーションだけ再度行っておきましょう」とアドバイスしてくれた。
作業が終わり本日の作業の支払いをしようとすると、「お代は結構です」と予想外の返答が戻ってきた。
どういうことかと説明してもらうと「当店ではオーナーの方にフィアット500を調子よく乗ってもらうため、今回の作業を無料で行っています。故障が多いと悪評ふんぷんなデュアロジックですが、年に1度のオイル交換(部品代&工賃込みで3万円ほど)と無料点検&キャリブレーション作業で、かなりの確率で不調を回避できます。山崎さんのクルマは納車時にオイル交換を済ませていますので、今回は不要ですしね」と理由を竹門さんは話してくれた。これには感謝の言葉しかない。
お礼を言って店をあとにしようとすると、竹門さんは「フィアットはいまだにパーツに当たり外れがあり、新品なのに合いが悪い部品が送られてくることがあります。比べてしまうとやはりパーツの品質では日本車に一日の長があります。ただ、運転の楽しさ、魅力的なスタイリング、優れたファッション性、個性的なキャラクターという点ではやはりフィアット500のような輸入車にはかないません。当店は車両整備時に交換するパーツをチェックしていますし、独自のノウハウで車両の状態に応じた適切なメンテナンスを行っています。なにかお困りごとがありましたらいつでも相談してください」と暖かい笑顔で見送ってくれた。
帰宅後『プランニングおがわ』に事の顛末を報告すると。「大きなトラブルでなくて良かったです。胸をなでおろしました」との返信が間髪入れずに返ってきた。
故障が少なく信頼性の高い日本車と違い、ちょっと古い中古輸入車を維持するには、多少の手間とお金がかかるの仕方がないことではあるし、良好なコンディションを維持して行くためには信頼できるプロショップの協力が不可欠となる。これをメンドウと嫌う人もいるだろうが、手間隙かかるからこその趣味であり、こうした面倒事があるからこそ中古輸入車は楽しいのだ。
また、フィアット500を選んだから『プランニングおがわ』や『ピッコロカーズ』のようなプロショップとの出会え、付き合いができたわけで、こうした店との繋がり、すなわち人間関係はプライスレス。彼らと話をすることは大いに勉強になるし、ときには整備工場内でメンテナンスの様子を見る機会もあり、車両のメカニズムやそのクルマの構造的な長所や短所などをより深く知ることもできる。こうしたことは信頼性と経済利得性に長所がある現行の国産新車ばかり乗り継いでいても得ることはできないだろう。身銭を切って得た経験と知識の積み重ねがクルマ好きにとってはカネでは買えない財産となるのだ。