目次
2024年7月4日、静岡県掛川市にあるタジマ静岡掛川次世代モビリティR&Dセンターで、タジマモーターコーポレーションが新たにリリースするEVの発表会が行われた。
パイクスピークへの挑戦で名を馳せた田嶋伸博氏が代表を務める同社だけに、7月4日つまりアメリカ独立記念日、そしてパイクスピークの開催日(※)が発表日に選ばれたわけだ。
※7月4日が平日の場合は一番近い週末に開催される
パイクスピークへの挑戦車両を電動化したことからも、田嶋伸博氏は早くから電動モビリティの開発に力を入れており、その一方で制限のない自由な移動を担うモビリティの普及にも尽力してきている。
その流れを受けて、今回、地域の移動交通を担うグリーンスローモビリティ、個人の移動を助けるマイクロモビリティ、そして商用車の低炭素化に貢献する商用EVを発表。実車の展示と合わせて試乗会が催された。
ユーザーの声を反映した改良を施したグリーンスローモビリティ「nao2」
タジマモーターコーポレーションが発表した新型EV群の中で一番の目玉は「グリーンスローモビリティ」対応モデルの「nao2」だ。「2」の名前の通りすでに「nao」が2020年のリリース以来、全国24の自治体や事業者で導入されている。
「グリーンスローモビリティ」とは? グリーンスローモビリティは、時速20km未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービスで、その車両も含めた総称。自動車よりも運転が簡易で高齢者も運転しやすく、軽量・コンパクトであることから道幅が狭く今まで公共交通機関を整備できなかった地域の足になることも期待されています。地域交通の低炭素化と、ラストワンマイルの確保、観光振興、中心市街地の活性化など地域が抱える様々な交通課題の解決するために、国を挙げて推進している。
naoはゴルフカートタイプのオープンボディが多いグリーンスローモビリティにあって、クローズドボディを採用。空調を完備することで天候や地域を問わない快適性を確保して好評を得た。また、座席ごとのパーソナルドアを設けて、どの座席でも変わらない乗降製を備えている点も高く評価されている。
nao2はnaoから大幅な低床化を実現。高齢者の乗り降りを格段に容易にするだけでなく、車両後端には車椅子乗車スペースも設置することで幅広い利用者に対応。
この大幅な低床化は、nao2でインホイールモーターを採用した点が大きい。タジマモーターコーポレーションはモーターメーカー「SIM-DRIVE」を統合しており、その技術を活かした形だ。
インホイールメーターは省スペース性に優れる一方で、クルマの運動性能に大きな影響を及ぼすバネ下重量の面では不利と見られているが、時速20km以下が前提のグリーンスローモビリティではその影響は微々たるものと言える。
nao2ではインホイールモーターを4輪に装備した4WDとなり(naoはシングルモーターのシャフトドライブ)、エアコン装備のクローズドボディと合わせて降雪地での利用にも応えている。さらに、登坂能力も大幅に高まり坂の多いエリアでも利用しやすくなった。
さらに、利用者から不満のあったエアコンの効きを改善するために、車体後部にもエアコンを設置するなど、ユーザーの声を反映した改良が施されている。一方で、naoに設定されたいた10名乗車の「10J」は需要が無かったことからnao2ではラインナップから落ち、6名乗車の「6J」と8名乗車の「8J」の2モデル設定となった。
バッテリーもnaoの鉛バッテリーからリン酸鉄リチウムイオンバッテリーに変更し、容量も13.8kWhから18.8kWhにアップ。航続距離はnaono80kmから120kmに高められている。
AC200Vの普通充電のみという仕様は変わらないが、充電時間は7〜10時間から6.5〜8時間に短縮された。
ボディはタジマモーターコーポレーションがモータースポーツで培ってきた角断面パイプを組み合わせた鋼管スペースフレーム構造で強度を確保。塗装レスの樹脂外装パネルと表面硬化ポリカーボネイト製ウインドウにより、軽量かつ高い耐久性を実現しただけでなく、断熱性にも優れエアコンの効果を損なわない作りだ。
最高速度20km未満ではあるが、操縦安定性も高くドライバーはもちろんパッセンジャーも不安なく乗ることができるのは試乗でも感じられた。また、オープンボディのゴルフカートタイプとは異なるクローズドボディではあるが、このポリカーボネイト製のウインドウ/ドアにより、小さいボディ(全長4060/4910mm×全幅1545mm×全高1920mm)ながらキャビンは開放感があり窮屈な印象は無かった。
快適性、利便性、動力性能を大幅にアップしたnao2ではあるが、価格もそれに応じて上昇しており6Jで448万円から797万5000円に、8Jでは498万円から893万2000円となっている。基本的に自治体や事業者が導入するものであるし、国がグリーンスローモビリティ導入支援を進めていることから補助金があると思われる。すでにnao導入済みの団体から増車や代替のオファーもあるとか。
電動原付ミニカーはマイクロモビリティとして普及するか?
新型EVの中で田嶋代表が特にお気に入りと語ったのが電動原付ミニカー「T-mini」だ。原付の手軽さにクルマの利便性を加えた原付ミニカーだが、EVとすることでランニングコストを低減。これまでの原付ミニカーよりもクルマ的なデザインとなっており、シンプルながら装備も充実させている。
原付バイクは手軽ではあるものの、二輪ということもあり転倒のリスクや雨天時の利用が難しい。バイクでは難しい使用条件でも、原付としての手軽さで利用できるマイクロモビリティとして原付ミニカーの存在は大きい。まして、家庭で充電できるEVであれば、減少を続けるガソリンスタンドの心配もない。交通過疎地域のモビリティとしての期待は少なくないと言えるだろう。
5ナンバーサイズ商用EVバン&ワゴン「TVC-700」「TWC-07」
今回発表された新型EVのラインナップに5ナンバーサイズのキャブオーバーバンとワゴンがあった。ハイエースよりやや小さいサイズ感で、短いボンネットを備えたスタイルだだが、EVらしくホイールベースは長い。
モデルは700kg積みのバン「TVC-700」と、7名乗車のワゴン「TWC-07」で、基本的な仕様は共通となっている。
商用バンでは、三菱ミニキャブEVやホンダNバンe:など軽自動車規格のものがリリースされてきたが、このサイズの商用EVはまだまだ。それだけに商用EV市場では貴重な存在になる。価格は488万4000円(TVC-700)と547万8000円。
一方で環境省は国土交通省・経済産業省との連携事業として「商用車の電動化促進事業」を進めており、商用車の電動化を支援しており、CEV(クリーンエネルギービークル)補助金が適用されれば、ガソリン/ディーゼル車との価格競争力も十分ありそうだ。それだけにタジマコーポレーションのこの商用EVはひとつの試金石になりそうだ。
高齢化や過疎化が進む地域でのモビリティとして期待
この発表会には、会場となったタジマモーターコーポレーション掛川次世代モビリティR&Dセンターの所在する掛川市をはじめ、同じくR&Dセンターを設置する近隣の袋井市、磐田市の市長や副市長が参列。タジマモーターコーポレーションの展開する次世代電動モビリティによる地域交通への貢献に期待と賛辞を送った。
また、静岡県からも交通基盤部から職員が激励に駆けつけた他、静岡銀行の支店長、一般財団法人日本自動車研究所所長、一般社団法人電気自動車普及協会の理事そして、日産自動車の元社長・西川廣人氏まで駆けつけた。
そして、発表会後には注目のグリーンスローモビリティのニューモデル・nao2と、マイクロモビリティのT-miniの試乗も実施され、参列者は乗り心地や走りを体感するだけでなく自らステアリングも握った。
タジマモーターコーポレーションの新型EV発表会は、環境対策への電動化と地域交通問題へのグリーンスローモビリティ、マイクロモビリティの普及に対する同社の意気込みと自治体の期待を感じさせる内容となったようだ。