1980年代ハイソカーブームをけん引したトヨタ「マークII/チェイサー/クレスタ」 3兄弟とは? どれだけ売れた??【歴史に残るクルマと技術050】

歴代マークIIのすべて
歴代マークIIのすべて
日本がバブル景気で浮かれ始めた1984年、トヨタ“マークII 3兄弟”が同時にモデルチェンジして、5代目「マークII」、3代目「チェイサー」、2代目「クレスタ」が登場した。3兄弟は、4年間で115万台という驚異的な販売台数を記録して、今も語りつがれる“ハイソカーブーム”を巻き起こしたのだ。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・歴代マークIIのすべて

●3兄弟の長男コロナ・マークII誕生

歴代マークIIのすべて
歴代マークIIのすべて

コロナ・マークIIの源流である大衆車「トヨペット・コロナ」が誕生したのは、1957年のこと。その後、コロナはトヨタを代表する大衆セダンとして、日産自動車の「ブルーバード」とともに長きに渡りBC(Bluebird-Corona)戦争と呼ばれたライバル関係を築きながら大衆車市場をけん引した。

トヨペット コロナ・マークII(1968年)
トヨペット コロナ・マークII(1968年)

一方で1960年代も後半になると、クルマには高級感が求められるようになり、それに対応するために新たに開発されたのが、コロナの上級モデルとして1968年にデビューした「コロナ・マークII」である。

コロナ・マークIIは、クラウンとコロナの中間に位置づけられ、エンジンは1.6Lと1.9L直4 SOHCを搭載し、4ドアセダンと2ドアハードトップの他、バンやワゴンなど多彩なバリエーションを誇り、人気を獲得した。

トヨペット・コロナ・マークII ハードトップ2000GSS(1972年)
トヨペット・コロナ・マークII ハードトップ2000GSS(1972年)

その後、着実にシェアを伸ばしたコロナ・マークIIは、1972年に登場した2代目で大型化・上質化を果たし、1976年の3代目は丸型ヘッドライトと独立したフロントグリルが特徴のヨーロピアンな雰囲気、そして1980年に登場した4代目が直線基調のスタイルとピラードハードトップを採用して人気を博し、“「ハイソカー(ハイソサエティカー)ブーム”の火付け役となったのだ。

コロナ・マークII 1900SL
コロナ・マークII 1900SL
トヨペット コロナ・マークII ハードトップ2600グランデ(1976年)
トヨペット コロナ・マークII ハードトップ2600グランデ(1976年)

●ハイソカーの主役となった5代目マークII

トヨタ マークII ハードトップ グランデ2000EFIツインカム24(1984年)
トヨタ マークII ハードトップ グランデ2000EFIツインカム24(1984年)

ハイソカーブームの代表的な存在となったのが、1984年に登場した5代目で、この世代から車名のコロナの冠が取れて単独ネームのマークIIとなった。直線基調のシャープかつスポーティなスタイリングで、先代同様人気の4ドアハードトップと4ドアセダンが設定された。

“時代をリードする高級・高性能サルーン”を開発コンセプトに、パワーとそれを支えフットワークの進化が図られた。エンジンは、最高出力130psを発揮する2.0L 直6 SOHC&160psの新世代“レーザーα”を名乗った新開発のDOHCであり、注目されたのは国産初のツインターボエンジン搭載の185psを発生するGTグレードで、スポーツカー並みの性能を発揮した。

トヨタ マークIIセダン グランデ2000EFIターボ
トヨタ マークIIセダン グランデ2000EFIターボ

足回りについては、4輪独立サスペンションとし、上級モデルにはダンパーの減衰力を3段階に制御する電子制御のTEMS(トヨタ電子制御サスペンション)が組み込まれた。さらに、操舵力を車速に応じて連続的に制御する2モード・プログレッシブ・パワーステアリング機構も採用された。

5代目マークIIは、優れた走りと快適性、そして豪華な装備により幅広い層から支持を集め、ハイソカーの代表と認知され、マークIIに乗ることがひとつのステータスとなった。1985年の月販台数は1万2000台を超え、その後2万台を超えることもあった、空前のヒットとなったのだ。

●チェイサー、クレスタも登場してマークII 3兄弟が揃い踏み

トヨタ チェイサー ハードトップ2000 SGツーリング(初代)
トヨタ チェイサー ハードトップ2000 SGツーリング(初代)

1984年8月22日、マークIIの5代目へのモデルチェンジと同時に、兄弟車「チェイサー」は3代目、「クレスタ」は2代目へ移行し、3兄弟が揃い踏みした。

3兄弟のそれぞれの特長を一言で表すと、マークIIは落ち着いた雰囲気の高級セダンとハードトップ、チェイサーは高級感あふれるスポーツセダン、クレスタはスタイリッシュな高級パーソナルセダンである。

トヨタ チェイサー セダン2000XL/トヨタ チェイサー ハードトップ2000GT(2代目)
トヨタ チェイサー セダン2000XL/トヨタ チェイサー ハードトップ2000GT(2代目)
トヨタ チェイサー 2000 アバンテG/トヨタ チェイサー アバンテ ツインカム24
トヨタ チェイサー 2000 アバンテG/トヨタ チェイサー アバンテ ツインカム24

・3代目チェイサー
ボディは基本的にはマークIIと同じだが、3代目からはセダンがなくなり、4ドアハードトップ専用車となった。エンジン構成はマークIIと共通だが、組み合わせが異なる。直6エンジンを主力とするマークIIに対して、直4エンジンを主力として性格を異にした。

トヨタ クレスタ2000 スーパールーセント(初代)
トヨタ クレスタ2000 スーパールーセント(初代)
トヨタ クレスタ2000 スーパールーセント・ツインカム24(1984年)
トヨタ クレスタ2000 スーパールーセント・ツインカム24(1984年)

・2代目クレスタ
2代目クレスタは、全高の低いスタイリッシュなセダンとして人気を獲得。エンジンは、2.0L直6 DOHCを搭載しパワーアップ。ツインターボエンジンを搭載した「GTツインターボ」も追加して、日産自動車「スカイライン」に対抗した2代目の人気はさらに高まった。

トヨタ クレスタ2000 スーパールーセントG(3代目)
トヨタ クレスタ2000 スーパールーセントG(3代目)

●爆発的な販売台数を記録した3兄弟

モータースポーツでも活躍したトヨタ マークII
モータースポーツでも活躍したトヨタ マークII

3兄弟の人気は凄まじく、4年間の3兄弟の合計販売台数が115万台と、今では考えられない数値を記録した。その内訳は、おおよそマークII(50%)、クレスタ(30%)、チェイサー(20%)だった。

車両価格は3兄弟で大きな違いはないが、5代目マークIIで人気の高かった最高出力160ps/最大トルク18.5kgmを発揮するグランデ・ツインカム24(2.0L直6 DOHC)が261.2万円、トップグレードの最高出力185ps/最大トルク24.0kgmを発揮する2000GTツインターボ(2.0L直6 DOHCツインターボ)が292.5万円に設定されていた。
ちなみに当時(1985年)の大卒初任給は14万円(現在は約23万円)なので、単純計算で現在の価値では人気のグランデ・ツインカム24が429万円に相当する。

トヨタ マークII ブリッド(2002~2007年)
トヨタ マークII ブリッド(2002~2007年)

2023年に最も売れた乗用車は、トヨタのコンパクトカー「ヤリス」で約19.4万台/年、1988年の5代目マークIIはほぼ同数の約19.3万台だった。高価な高級セダンがこんなに売れるとは、今では到底考えられない。当時の高度経済成長に支えられたバブル景気がいかに凄かったかということを表している。

トヨタ マークII 3000EFIツインカム24 VVT-i グランデG(1996年)
トヨタ マークII 3000EFIツインカム24 VVT-i グランデG(1996年)

●マークII 3兄弟が誕生した1984年は、どんな年

MR2
1984年にデビューした、国産初の量産ミッドシップ「MR2」

1984年には、マークII 3兄弟の他にもトヨタの「MR2」も発売され、5月に「東洋工業株式会社」が「マツダ株式会社」と社名を変更した。
MR2は、国産初の量産ミッドシップスポーツであり、大きな話題を集めた。また、三菱自動車の「ミラージュ」のTVコマーシャルで登場したエリマキトカゲが大人気になった。

歴代マークIIのすべて
歴代マークIIのすべて

自動車以外では、米国アップルコンピューターから初代「マッキントッシュ」、SONYから世界初のポータブルCDプレーヤー「D-50」が発売。アイスクリームのハーゲンダッツが日本での発売を開始、マンガ「ドラゴンボール」の連載が始まった。
また、ガソリン150円/L、ビール大瓶295円、コーヒー1杯274円、ラーメン365円、カレー480円、アンパン88円の時代だった。

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バブル時代のハイソカーブームをけん引した「マークII」と「チェイサー」、「クレスタ」のマークII 3兄弟。スポーティな高級セダンを大衆化して一世を風靡した、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…