これで公道を走れるの?”モンスター”タジマもお気に入りの電動原付ミニカー「T-mini」に乗ってみた!免許は?法規は?保険は?

2024年7月4日(木)、"モンスター"タジマとして知られる田嶋伸博氏が代表のタジマモーターコーポレーションが、地域交通に貢献する新たなグリーンスローモビリティとマイクロモビリティを発表した。マイクロモビリティの電動原付ミニカー「T-mini」は発表会来場者やメディア関係者も試乗し、その出来栄えや走りを確かめることになった。このT-miniはどのようなクルマなのだろうか?

パイクスピークから静岡へ……”モンスター”タジマがEVを販売!地域交通に貢献するグリーンスローモビリティに対応するニューモデルを発表

WRCやパイクスピークへの挑戦で知られる田嶋伸博氏率いる「モンスタースポーツ」はコンプリートカーやカスタムパーツの販売、そして何よりモータースポーツで名を馳せている。一方で、電気自動車でマイクロモビリティやローカルモビリティに貢献しているのをご存知だろうか?

原付ミニカーとは?

T-mini

T-miniはEVだが、その区分は「原付ミニカー」に分類される。では原付ミニカーとはどのような車両のことを言うのだろうか?
まず、車両の形態を規定する道路運送車両法では以下のように定められている。

  • 3輪以上の原動機付自転車
  • 乗車定員:1名
  • 車体サイズ:全長2.5m以下、全幅1.3m以下、全高2m以下
  • 排気量:20cc超〜50cc未満(EVは定格出力0.25kW超〜0.6kW未満)
  • トレッド:50cmを超える
  • ナンバープレート:青色/後のみ

さらに、公道を走る際のルールとして道路交通法で以下のように規定されている。

  • 免許:普通自動車免許
  • 最高時速:60km/h(高速道路不可)
  • 二段階右折:不要
  • ヘルメットの着用:不要

原付ミニカーは道路運送車両法では第一種原動機付き自転車(原付一種)に分類されるが、道路交通法では普通自動車に分類されている。
なお余談ではあるが、ホンダ・ジャイロに青ナンバーを付けてヘルメット無しで乗っているのは、トレッドを拡大(495mm→500mm以上)してミニカー登録しているためだ。

ホンダ・ジャイロキャノピー。デリバリーでは定番の3輪スクーターだが、トレッドを拡大する改造(サードパーティが改造キットを販売している)でミニカー登録されることも多い。

登録上は原付一種扱いなので、自賠責保険は原付一種(6910円/12ヶ月)で、任意保険もファミリーバイク特約が利用可能。また、車検や車庫証明も不要であることから、所有する上でのコストは原付一種のバイクと変わらない。それでいて、原付一種バイクの最高速度30km/hや二段階右折というデメリットからは解放されることになるので、かなり便利な存在だ。

T-miniのディティールチェック!

エクステリアは、田嶋伸博氏が「お気に入り」と述べるほどの完成度。ボンネットを備えており、原付ミニカーとしてはかなり乗用車テイストなデザインで、ミニカーとは思えないサイズ感を演出している。シンプルな構成ながらファニーな雰囲気も田嶋伸博氏お気に入りのポイントだそうだ。

カラーは写真のホワイト、イエロー、アイボリーに加え、ピンクも用意。ヘッドライトはLEDを採用。

全長約2.4m、全幅1.1mの極めてコンパクトなボディだが、前後に1.5倍すればそのまま軽自動車として通用しそうなデザイン。きちんとしたドアもあるため、カート感のある原付ミニカーとは一線を画している。

リヤゲートはなく、ガラスハッチも備えない。ハイマウントストップランプとリヤフォグを装備。
全幅1100mmは流石に細い。一文字ガーニッシュ下に充電口を備える。充電はAC100V。

ドアを開けると一人乗りのコックピットが広がる。一人乗りなので1100mmという幅でも意外と窮屈感は無いが、ドアを閉めるとフロントウインドウも近く包まれ感はある。ただ、ウインドウ面積はフロントもサイドも大きめなので視界は良好だ。ちなみにAピラーに三角窓があるが、小さすぎるので視界的には無いよりマシ程度。

T-miniのキャビン。必要最低限の装備は備えるが、やはり極めてシンプル。

ドアの内側にはサイドポケットが用意され、その前端はドリンクホルダーになっている。また、集中ドアロックとパワーウインドウも備えており、原付ミニカーとしてはかなり充実した装備だ。

ドアには集中ドアロックとパワーウインドウを装備する。下部にはサイドポケットとドリンクホルダーを配置。車体全幅の割にドアにはしっかりとした厚みがある。

メーターはTFT液晶マルチディスプレイを採用。ディスプレイはバックモニターとしての機能もあり、バック時の後方視界を確保する。ちなみに、ルームミラーは無いが、走行時の後方視界は大きめのサイドミラーで十分と感じた。
ステアリングはDシェイプ2本スポーク。ベージュ系のインテアリアの中でブルーグレーとセラミックホワイトの組み合わせが目立っている。

ステアリングはわずかにDシェイプ。メーターはステアリングホイール内から見るのだが、ドライバーの座高によっては着座位置に対して低いと感じられるかもしれない。ダッシュボード右下に各種操作パネル、左下にはインパネポケットを備える。ステアリングコラムにはワイパー(右)とウインカー(左)を配置するのは普通のクルマ同様。2スピーカーのMP3プレイヤーオーディオに加え、USBポート(タイプA)を備えるのが現代的だ。

ダッシュボード右下にはドライブセレクターはエアコンなどの操作系がまとめられている。操作パネルは左からプッシュスタートボタン、ヒーター(「PTC」素子ヒーター)、ハザードランプ、エアコン、風量、ドライブセレクターダイヤルの並び。ヒーターにしろエアコンにしろ、実質オートオンリーであまり細かい設定はできない。ドライブセレクターは、選んでいるモードの文字が光ってポジションを示すが、もちろんメーターにも表示される。

至極シンプルな操作パネル。ダッシュボードには左右に1箇所ずつエアコン吹き出し口があるが、こう見えて風向の調整機能などは無いはめ殺し。車内が狭いので全体が冷えれば(温まれば)それで良しという考え方か。

シートは前後スライドとリクライニング機構、3点式シートベルトを備える。シートリフターは無く、個人の体格による所が大きいものの、やや着座位置が高い印象を受けた。おかげで視界は良いのだが、若干メーターが見ずらかった。ただ、車高が1590mmあるので、それでもヘッドスペースには余裕がある。
また、シート表皮は合成皮革を採用。座り心地は悪くはなかったが、クッション性はそれほど高くなかった。

一人乗りなのでシートは当然車体中央。そのため、シート後方のラゲッジスペースへのアクセスは良好だ。背もたれ的なクッションも設置され、スペース的にも人ひとりが乗れそうなラゲッジスペースだが、原付ミニカーの法規的に人を載せてはいけない。

そして、意外に気になったのがシート右下に配置されたサイドブレーキ。日本は右ハンドルなのでサイドブレーキは基本的にシートの左側。T-miniが右側なのは左ハンドルの国の影響だろうか。右ハンドル前提でつい右側から乗り降りしようと思うと、このサイドブレーキが意外に邪魔になる。駐車場なら左ドアを使えばいいのだが、路肩などに寄せて止めた時など右側からしか降りられない場合は気になるのではないだろうか。

シートの右側、ほぼ床から生えたサイドブレーキ。

また、着座位置が高いためほぼ床の高さにあるサイドブレーキが意外と遠いのも気になった点だ。
原付ミニカーの性格上、スイッチ式の電動パーキングブレーキを採用するのはコスト的に厳しいと思われるが、足踏み式やダッシュボード配置のハンドブレーキならなお良かったのではないかと感じられた。

リヤの車軸に配置されたモーター。リヤサスペンションはセミトレリングアームを採用。
車体底部をフロント側が見る。フロントサスペンションはマクファーソンストラット。

8本スポークのアルミホイールに、中国の大手タイヤメーカーCHAO YANG(チャオヤン)タイヤのラジアルRP82A(135/70R13)を装着。ブレーキは四輪ディスクを採用している。
フロントにマクファーソンストラット、リヤにセミトレーリングアームの四輪独立懸架サスペンションを採用することも含め、原付ミニカーにしてはなかなか豪華な足回りだ。

タイヤは135/70R13サイズを装着。
フロントブレーキはドリルドディスクに片押し2ポッド。
リヤブレーキは一応ドリルドだが、穴の数は少ない。キャリパーは片押し1ポッド。

クオリティにしろ装備にしろ乗用車と比べてしまうと残念に感じるかもしれないが、T-miniはあくまで原付ミニカーであると考えるとむしろ充実した内容だ。一人乗りとはいえ、原付のコストでクルマの利便性と快適性を享受できるのだから十分以上と言えるだろう。

電動原付ミニカーの走りは……

駐車場を周回するコースで実際にT-miniを試乗してみた。
運転席に座った視界は意外と乗用車的な雰囲気。ドライブモードのセレクトと発進操作がエンジン搭載のクルマとは異なるために多少手間取ったものの、走り出せば少なくとも試乗コースを走るには過不足は無く、乗り心地についてもそれほど悪くないように思えた。

気になる点はやはり登坂能力だが、これはフラットな試乗コースでは試せなかったので、坂の多い地域での使用については未知数。
そして、ブレーキはブースターなどを備えないため、乗用車的な感覚で軽く踏んだだけでは制動力があまり掛からないのが少々気になった。ただ、前後ディスクブレーキを採用していることから、きっちり踏めば十分にブレーキは掛かるので慣れの問題と言える。

価格は?スペックは?トヨタC+podよりは安くコムスよりは少々高い

T-miniの価格は108万9000円のワングレードで、税抜なら99万円と100万円を切る価格設定。一方、トヨタ・コムスはプライベートユース向けのP・COMが96万3000円とやや安い。ただし、コムスのドアはキャンバスタイプで、クルマ同様のドアをもつT-miniよりもややカート的な構成。スペックを見比べるとそれぞれ一長一短がある。

メーカータジマモーターコーポレーショントヨタ
車名T-miniコムス(P・COM)
種別原付ミニカー原付ミニカー
全長2405mm2395mm
全幅1100mm1095mm
全高1590mm1500mm
ホイールベース1617mm1530mm
トレッド前:920mm
後:920mm
前:930mm
後:920mm
最低地上高150mm130mm
車両重量350kg420kg
定格出力0.59kW0.59kW
バッテリーリン酸鉄リチウム密閉型鉛電池
バッテリー容量5.8kWh
充電電圧AC100VAC100V
充電時間5時間6時間
航続距離80km57km
最高速度45km/h60km/h
登坂能力通常:14%
短時間:25%
23%
サスペンション前:マクファーソンストラット
後:トレーリングアーム
前:マクファーソンストラット
後:トーションビーム
ブレーキ前/後:ディスク前:ディスク
後:ドラム
タイヤサイズ135/70R13145/70R12
駆動方式後輪駆動後輪駆動
最小回転半径4.0m3.2m
価格108万9000円96万3000円
トヨタ車体「コムス」
トヨタ車体・超小型EV「コムス」。

スタイルを見るとT-miniはコムスよりクルマ寄りに見える。流石に軽自動車枠の超小型モビリティ(型式指定車)であるC+podと比べると原付ミニカーである感は強いが、逆に言えば、原付ミニカーとしては群を抜いてクルマ的な乗り物と思える。

トヨタ・C+pod
2022年末に個人向けリースが始まった、トヨタ「C+pod」。

電動化により原付ミニカーの普及は進むのか?

原付バイク以上クルマ未満の原付ミニカーだが、利便性は原付バイクより高く、維持する上でのコストはクルマより低い。しかし、これまであまり普及してこなかったのは何故だろう?
それはやはりそもそもの選択肢がほとんどなかったことが大きい。自動車メーカーとしてはトヨタと光岡が参入したにすぎず、トヨタのコムスは10年で1万台を生産した実績をもつが主な需要は法人だったし、光岡はすでに販売を終了している。

自動車メーカーではトヨタがコムスやC+podで電動原付ミニカーをリリースしている。

あとは話題を呼んだタケオカ自動車工芸など、中国メーカーの製品を日本の法規に適合させて販売しているメーカーがあるくらい。そのような状況でタジマモーターコーポレーションはT-miniの販売をどの程度伸ばせるだろうか?

クルマと同じように運転でき、バイクのように天候に左右されず、所有コストも維持費も安い。さらに、EVだけにガソリンスタンドで給油する必要もなく、普通充電なので個人宅での充電可能。そんな電動原付ミニカーはパーソナルなマイクロモビリティとしてのメリットは大きいのではないかと考えられる。特に公共交通機関に頼れない交通過疎地域では尚更だ。
それだけに販売網やメンテナンス体制など、T-miniとタジマモーターコーポレーションへの期待は大きい。

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