限定350本 『トップガン』でトム・クルーズが着けていたポルシェクロノグラフIの再解釈

ポルシェデザインの統括会社であるポルシェライフスタイル社は7月13日に都内でプレスカンファレンスを開き、1972年にフェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェがデザインしたクロノグラフI(ワン)を、ニューヨークに本拠を置くHodinkee(ホディンキー)が再解釈した腕時計を発表した。「クロノグラフ1 – Hodinkee 2024エディション」である。世界限定で350本が送り出される。どんな腕時計なのか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:Porsche

ポルシェは、時計のマニュファクチュールを所有、運営する世界で唯一の自動車メーカー

プレスカンファレンスには、ポルシェライフスタイル社グループCEOのシュテファン・ビュッシャー氏、同社のタイムピース部門ジェネラルマネージャー、ゲルハルト・ノヴァック氏、ポルシェジャパンのマーケティング&CRM担当ディレクター、ダニエル・フォイヒト氏、エディター&ウォッチエキスパートのギズベルト・L・ブルナー氏、そしてHodinkeeのエグゼクティブチェアマンにして創設者のベンジャミン・クライマー氏が順に登壇した。

まずは、ビュッシャー氏の言葉を借りながら、クロノグラフIについて説明していこう。1963年、フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ(以下、F.A.ポルシェ)によって911が生み出された。9年後の1972年、F.A.ポルシェは自身のデザインスタジオを設立。このスタジオでポルシェのDNAを自動車以外にも広げることにした。

F.A.ポルシェのデザインスタジオから送り出されたのが、ポルシェデザインのクロノグラフIである。911のダッシュボードにヒントを得ており、世界初のオールブラック腕時計として登場した。「この時計は、スポーツカーのデザイン原則とエンジニアリングの卓越性が他の製品にも応用できることを証明したのです」と、ビュッシャー氏は解説した。

その影響はさまざまなアイテムに展開が広がり、ポルシェデザインはめがね、バッグ、ファッション、スポーツウェア、アクセサリー、電子機器、最近では不動産に至るまで、大きな広がりを見せている。ポルシェデザインの製品を手にした瞬間に、「ポルシェファミリーの一員になったことを意味する」と、ビュッシャー氏は付け加えた。

ポルシェデザインのタイムピースは、スイス・ゾロトゥルンにあるマニュファクチュール(ムーブメントを含めて一貫製造する工房)で製造される。「ポルシェは、時計のマニュファクチュールを所有、運営する世界で唯一の自動車メーカー」であり、ここで生み出される腕時計をポルシェデザインは「手首につけるスポーツカー」と表現している。

エディター&ウォッチエキスパートのブルナー氏は、F.A.ポルシェに行なったインタビューの模様を振り返って次のように伝えた。

「ポルシェ氏は仕事の進め方について説明してくれました。(デザインの)プロセスはクルマと同じで、まず、アイデアをスケッチに起こすことで、意図したデザインを静かに見える化する。そこから全体を立体モデルへと移し、デザインをより具体的に見えるようにするのだと」

腕時計のケースをデザインする際は、多くのディテールを考慮する必要がある。曲線や角、エッジを完璧に調和させると同時に、着用した際に快適でなければならない。F.A.ポルシェはブルナー氏に「みんなが気に入るような腕時計をデザインするつもりはなかった」と語ったそうだが、クロノグラフIはF1ドライバーを含め、多くの愛好家に愛されることになった。クレイ・レガッツォーニ、エマーソン・フィッティパルディ、ロニー・ピーターソン、マリオ・アンドレッティの手首にクロノグラフIが巻き付けられていたことが確認されている。

また、映画『トップガン』でトム・クルーズがクロノグラフIを身につけていたことが、この腕時計に名声を与えることになった。クロノグラフIの軍用バージョンは、NATO、ドイツ連邦軍、イギリス海軍、アメリカ空軍、スイス空軍、UAE空軍に採用された。通常、軍に採用された時計の文字盤にブランド名が表示されることはないが、ポルシェデザインだけは例外だった。

クロノグラフ1 – Hodinkee 2024エディション

さて、クロノグラフ1 – Hodinkee 2024エディションである。ホディンキーのクライマー氏は「ポルシェデザインのプロダクトデザインは、911に代表されるポルシェのクルマのデザインと直結している。だから、クロノグラフIに恋することは、911に恋するのと同じだ」と語った。

クライマー氏によれば、クロノグラフ1 – Hodinkee 2024エディションのコンセプトは、「1970年代にクロノグラフIを購入し、50年後に引き出しから取り出したらどうなるか」というアイデアに基づいているという。例えば、ヴィンテージ感を出すために針やインデックスには、わずかに経年劣化したスーパールミノバ夜光塗料が使われている。

「歴史的なポルシェデザインのロゴも採用しています」とクライマー氏。「6時の位置にある小さなホディンキーのHはポルシェのレッドで、ポルシェデザインへのオマージュです。曜日表示ディスクは日英のバイリンガルとなっており、文化を越えて楽しんでいただきたいという意味を込めています」

クロノグラフ1 – Hodinkee 2024エディションはオリジナルのクロノグラフIにオマージュを捧げつつ、最新の技術を適用している。そのひとつがケースとブレスレットで、耐スクラッチ性に優れたチタンカーバイド(TIC)のコーティングを採用。ケースそのものとブレスレットの素材はチタンだ。

平均時速の計測に用いるタキメーターはキロメートルではなく、マイル表示。これは、ホディンキーの母国であるアメリカにインスピレーションを得たもの。ケースバックには、PORSCHE DESIGNの文字とアイコン、リミテッドエディション番号(XXX/350)、HODINKEEの文字とアイコン、2024、TRILOGY – CHAPTER 1が刻まれる。

TRILOGY – CHAPTER 1は三部作の第1章を意味。つまり、第2章、第3章の登場を予告しているということだ。

限定350本のクロノグラフ1 – Hodinkee 2024エディションは、日本では厳選された高級時計販売店や三越伊勢丹など大手高級百貨店の時計サロンで販売され、全国のポルシェセンターでも注文が可能だ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…