護衛艦「あぶくま」型は1988年(昭和63年)に起工、同年末に進水し、1989年(平成元年)に竣工した。同型艦は6隻あり、80年代末から90年代前期、昭和の末から平成初期に造られた。艦齢はどれも30年前後になる。
海上自衛隊では本型を沿岸用護衛艦(艦種記号DE)に分類している。日本列島を地方ごとに区分していくつかの警備区域を定め、各々の区域での活動を主務とした。地方隊の護衛隊に所属する艦として長く活動しているが、DE型は直接的な後継艦が整備されず、6隻には艦齢延長工事が行なわれている。同時にこれから先の沿岸域での警備防衛については新型・多機能護衛艦(FFM)「もがみ」型が担う計画を進めていて、全6隻を整備中だ。2022年3月には2番艦「くまの」から就役する予定がある。
「あぶくま」型の装備面や機能面を見てみる。本型はそれまでの「ゆうばり」型の性能向上版として計画、建造された。対潜・対空戦能力の強化、抗堪性(サバイバビリティ、攻撃を受けても機能を失うことなく軍事的活動を継続する能力)を求めて艦橋構造物などには鋼材を使用した。そして約120名の乗員の居住性向上を図る居住区を設計し、区画の一部は2段ベッド化された。対空レーダーを装備し、電子戦関係の装備も充実させている。これらの能力や設備、装備は前代の「ゆうばり」型を上回る。
本艦の基本的なプロフィールは次のとおり。基準排水量は2000トン、全長109m×幅13.4m。主機関のエンジンにはガスタービンとディーゼルを各々2基搭載、2万7000馬力を発生して速力27ノット(約50km/h)で走る。
搭載された主要兵装は、高性能20mm機関砲×1、62口径76mm速射砲×1、SSM(対艦ミサイル)装置一式、アスロック(対潜ロケット推進ホーミング魚雷)装置一式、3連装短魚雷発射管×2、となっていて近代護衛艦の標準的な装備が積まれている。沿岸用護衛艦でありながら汎用護衛艦並みの強力な装備を持っているようだ。
しかし対空ミサイルは積まず、対潜面でもヘリコプターの搭載設備を持たない点は現代の視点からすれば短所になる。ただし、後甲板ではヘリによる補給などを行なうエリアを設けてあり、機体をホバリングさせながら物品輸送や補給物資を降ろすなどの手法が取られる運用がなされた。このあたりの考え方は時代性によるものか。
本艦には実用的な装備の搭載とともに試験的な設計を施した箇所を設け、竣工後はそれを試し、将来への知見を得る目的があったと考えられる。これは船体の舷側部を7度の傾斜角をつけたV字型船体で造り、レーダー反射面積の減少を求めた。現在でいうステルス機能を海自護衛艦で初めて試したという。
艦橋前部と主砲との合間には何も置かれてない空間がある。ここには個艦防空用のRAM(近接防空)ミサイル発射機を装備する予定でいたが結局未装備で、空きスペースのままになっている。主砲の背後に大きな空間があることと、その直後に垂直に切り立つ艦橋構造物が本艦の外観面での特徴だろうか。
主要要目 基準排水量 2,000t 主要寸法 長さ109×幅13.4×深さ7.8×喫水3.8m 船型 長船首楼型 主機械 ガスタービン2基/ディーゼル2基2軸 馬力 27,000PS 速力 27kt 主要兵装 高性能20mm機関砲×1、62口径76mm速射砲×1、SSM装置一式、アスロック装置一式、3連装短魚 雷発射管×2 乗員 約120名